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魔族を蝕む聖剣の光  作者: うさぎボーイ
第六章 「赤髪の将軍と魔王との邂逅」
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「狂気の熊」


――山々の間を縫って差す夜明けの光が、俺達を照らす。その光が指し示すのは、魔王へと辿り着く茨の道だろうか。


朝焼けの光に包まれながら、俺達は各々の見ていた夢から放り出され、ゆっくりとその瞼を開ける。始めはぼやけていた視界も、やがては鮮明になっていった。


「諸君、喜べ。 あと少しで我々の目指すザザンガルドに到着するぞ」


と、眼を擦りながら未だに半分しか身を起こしていない俺達の横で、一足先に起きていたモルドは既に準備万端といった面持ちであった。彼からは直ぐにでも出発したいという想いが伝わってきたが、一方で俺はこう思った。


「まずは先に飯を食わせてくれ」……と。



俺達の旅では、昨晩の食事の残りが大抵次の日の朝食となる。昨日は、山道の途中で狩った山羊の肉を使った“ラム肉のトマト煮込み”だったため、今朝はその余りを皆で食べることになった。


時間が経っているため味は大幅に落ちていたものの、食卓を皆で囲むこと数分、腹は十分満たせた。ザザンガルドまでの残りの道のり……少なくとも胃袋の方はこれで乗り切れるだろう。


後は襲いかかってくる魔物を全て凌げれば、俺たち一行は晴れてザザンガルド入りを果たす。ここは何としてでも乗り越えなければならない。


俺達はザザンガルドに向かって、暁の空の下をそれぞれの武器を背負って歩き始めた。道中行く手を阻む敵は全て斬り伏せ、または叩き伏せ。時には呪文の詠唱を響かせながら。


山道を下り、急な勾配は皆で手を取り合って乗り切って、あまりに岩肌がトゲトゲしている地帯は優秀な我らが馬の力も借りて。


全員でこのゴツガケ山脈を越えていった。その足を勇猛果敢に進めていく度に、やがて、山道の荒涼とした雰囲気が薄れていく。とうとう山のふもとの森林地帯にまで下ってきた。


俺達はふと振り返って、木々の葉の合間からゴツガケ山脈を覗く。「アレを越えたんだな」と、感慨深くなる気持ちを仲間達と共有した。


「――グォァァァァッ!」


――森林地帯でも、凶暴な魔物は現れる。中には山脈で見かけてきた魔物よりも格上の奴もいるから厄介だ。例えばこの、≪クレイジー・グリズリー≫のように。


クレイジー・グリズリーは、巨体揃いの魔物の中でもトップクラスの体躯を誇る豪腕の熊型モンスターだ。モンスター・ライブラリーによると、その性格はかなり狂気に満ちているという。


モンスター・ライブラリーには、学者達がかつてクレイジー・グリズリーに行った観察の結果が掲載されているが、それによれば、彼が人や他の動物を襲う理由は、捕食ではなく完全な破壊衝動によるものらしい。


驚くべきことにクレイジー・グリズリーは草食の生物なのだ。食事の際はその辺の木から葉を摘んで食べるという。つまり、他の動物を存命の為に襲う必要は、自己防衛などの場合を除いては全く無いわけだ。


なのにクレイジー・グリズリーは自ら率先して他の動物に襲いかかる。そして、最終的には無残に殺す。極めて一方的にだ。その理由は、単にクレイジー・グリズリーが殺戮行為を好んでいるから。


なんと単純明快で分かりやすい理由だろう。これこそ、あの熊がクレイジーと呼ばれる所以だ。その性質からか、基本的には自分より弱そうな者としか戦おうとしないという、ガタイの割に卑怯な一面も持ち合わせていたりする。


だがその実力は本物だ。ベテランの騎士でもコイツとまともに戦おうとすれば命を落とす危険だってある。しかし、それでも……。


「――うぉぉぉぉぉぉっ!!」


……今の俺達の敵では、ないッ!


「グォォォァァッ!?」


聖剣をひとたび引き抜けば、魔を滅する聖炎が俺の腕を焼きながら嵐のように吹き荒れる。その爆炎を纏わせた鋼鉄の刃が唸れば、例えそれが狂気の権化であっても、そこに魔の血が流れていれば問答無用でその血に聖炎は引火する。そして、微塵も残さず滅尽する。


傍若無人な怪物は、思わぬ敵の出現にも関わらず、動揺すら一瞬しか許されずにその身を燃やされていった。聖炎に包まれたが最後、大抵の魔物はその余生を苦しみの悲鳴のみで過ごすこととなる。


やがてクレイジー・グリズリーは完全に消滅した。奴の生きた欠片すら、この世には残さず。非道な虐殺を己の愉悦の為だけに繰り返す屑には相応しい末路だ。


「流石兄さん!」


大敵を倒すと、真っ先に俺のもとに駆け寄ってきたのはマルク君だった。マルク君は右手を上げ、“何か”を待ちわびている様子。俺にはその“何か”が何なのかがすぐに分かった。


それは……ハイタッチだ。


「おう!」


「へへっ!」


昨晩の稽古を経て、俺とマルク君の間には兄弟分のような関係が築かれている。今ではマルク君が俺のことを兄と呼び、慕ってくれているのだ。すると俺もまた、マルク君のことを弟のように可愛がりたくなる。


出会った当初は彼とこんな関係になれるなんて夢にも思わなかった。そのせいか、今はとても嬉しい気分である。


(良いなぁマルク君。私もアイザック様のこと“兄さん”って呼んでみたいなぁ)


(あっ、でもどうせなら“お兄ちゃん”って……きゃっ)


……何やらイリアが、物欲しそうに俺のことを見つめてくる。と思ったら今度は顔を赤くして俺から目を逸した。一体、どうしたというのだろうか。

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