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魔族を蝕む聖剣の光  作者: うさぎボーイ
第六章 「赤髪の将軍と魔王との邂逅」
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「兄弟の契り」

「……君の想いは俺にも十分すぎるほど伝わった」


「あの子達を守りたいという気持ち……それはこれから先もずっと忘れないでいて欲しいところだが――」


「――勝てそうだ、と思い始めてからの君の動きは実に単調だった。……鎖鎌の軌道を完全に見切るのに、然程苦労は要さなかったよ」


 ――一般論として、例えば狩人は、獲物を狩る瞬間に一番隙を見せやすいという。そう、勝てそうと思った瞬間こそが、逆にその者の敗因になり得る瞬間なのだ。そしてその隙を見逃さなかったアイザックが、マルクよりも一歩上手だった。


「……クソォッ!」


 マルクは自らの敗北を心底悔んだ。またしても、自分はアイザックに負けてしまった。また……「守れなかった」と。


 マルクにとって“敗北”とは、仲間の死にまで直結し得る致命的な事態だ。例えそれが単なる稽古であったとしても、マルクは何としてでも勝ちたかった。もしこの相手がアイザックではなく、仲間の命を脅かす敵だったら……。そう思うだけでマルクはぞっとしてしまう。


 突き立てていた剣をしまうアイザックの眼前で、マルクは異様なまでに頭をかかえながら己の敗北を嘆き尽くす。敗者に……ひいては、死者には何も守ることなどできないと、彼は自分をとことん責め続けた。


「クソがぁぁぁぁっ!!」


「マルク君……」


 自分は勝ち続けなければならない存在だと、マルクは強く思い込んでいる。仲間達を……愛する仲間達を守る為なら、彼ならきっと何も躊躇うことなく己の全てを擲つだろう。その尊き仲間想いの精神が、より彼を苦しめているのだ。


「……マルク君、安心しろ」


「君はこの先の人生でもっと強くなれる。君には見込みが十分――」


 ……と、見かねたアイザックがマルクに声をかけた、その時。


「そんなんじゃ遅ェんだよッ!!」


「あいつらを守るのに、こんなんじゃ全然足んねえッ!!」


「俺は雑魚だッ!こんな奴……単なる雑魚だッ!こんなんじゃ……こんなんじゃァッ!」


 ――マルクは声を極限まで荒げ、あらん限りの思いの丈を壮烈な魂の叫びに変え、アイザックに思いっきりぶつけた。仲間を守るだけの力を未だに持てていない、貧弱でクソッタレな自分という存在を否定して欲しくて。


 マルクは今、自分自身の尊厳を自らグシャリと踏みにじっている。仲間を守れない自分に存在意義なんてない。だから存分に貶してくれ。勝者であるアンタが、俺を、と。


 アイザックはマルクの取り乱した様子を目の当たりにして、しかし一切の動揺も後退りも見せない。それどころか、穏やかな面持ちで彼に一歩歩み寄る。そして、こう言った。


「君が本当の意味で強くなるその日まで、バレア王国将軍のこの俺がその名と命を賭けて君と君の仲間を守り抜く」


「――約束しよう」


 ――“約束”。


 その言葉が響き渡った時、それまで暴走していたマルクの精神の全てが静まり返った。


 “約束”……それは、決して違えることが許されない、人と人とが交わす信頼の印。マルクが大人とこうした約束事をするのは、何年ぶりのことだろうか。それはマルク本人にも思い出せない程古い記憶ではあったが。


 アイザックのその誓いの言葉を聞いた時、マルクの心は確かにアイザックに動いた。マルクは久しぶりに心の底から、大人を……アイザックを、頼ろうと思うことが出来た。


 やはりこの大人……アイザックは、他の大人とは違う。何でだろう。人間じゃくて魔族の大人だからか。いや、それなら彼が優しいのは尚更おかしい。何でアイザックは他の大人と違ってこんなにも優しいんだろう。


「……何で」


 気づけばマルクは、アイザックに聞いていた。するとアイザックはこう答えた。


「……あの時、君が俺を選んでくれたからさ」


「雇ってくれと言ってくれた……俺を必要としてくれた君に、少しでも報いたい」


「その一心さ」


 ……それは、マルクに必要とされたアイザックがせめてものお返しとして彼に贈った誓いなのであった。アイザック自身、嬉しかった。あの時マルクに必要とされたのが。


 ここでマルクは気づく。自分とアイザックは、互いに必要とし合っていたのだと。だからかも知れない。何となくアイザックと分かり合えた気がしたのは。


 そんなハズないと今まで自分に言い聞かせていたけれど、今、自分の頬を伝っている涙の意味を探せば、そのことに気づけたからとしか言いようがない。


 つまり、本当に自分とアイザックは分かち合っていたのだ。互いが胸に秘めていた、互いを求めようとする心を。


「……っ」


 マルクはその涙を拭い、やがてアイザックが差し伸べていた手を取る。こうしてアイザックとマルクは、真の意味で信頼し合える仲間同士となった。


 そして。


「……なあ、アイザックさん」


「これからアンタのこと……“兄さん”って呼んで良いか?」


「……ああ!」


 ――二人は、兄弟の契りを交わしたのだった。

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