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魔族を蝕む聖剣の光  作者: うさぎボーイ
第六章 「赤髪の将軍と魔王との邂逅」
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「魔玉の力」

 ※


 山を越え、谷も越え。紆余曲折の山旅は二日目の昼下がりにして中盤戦である。そして俺達は今、今日一番の山場を迎えていた。


「うぉぉぉぉぉぉッ!!」


 現在俺が聖剣を握りしめ立ち向かっている難敵は、雄々しい白翼を生やして天を舞うヘビモンスター・≪ゴッドメデューサ≫。奴の目で見られた者は、その魔力によって一時的に体の一部が“石化”の状態異常に陥ってしまう。


 他の仲間が別のモンスターと戦っている中で、俺一人が皆の足を引っ張るわけにはいかない。俺は聖剣の苦痛に息を切らしつつも奮戦する。ゴッドメデューサに渾身の剣を叩きつけた。……だが。


「シャア〜ッ!」


 刃が奴の鱗に直撃する寸前、俺の腕は奴の眼光の魔力によって、灰色の石になってしまった。


「しまっ……!」


 石化状態になると、当然ながらその部分が全く動かせなくなる。そこに通っている神経が石化の間完全に機能を停止してしまうからだ。だから逆に言うと、聖剣の痛みからも腕の痛覚が無くなるために開放される訳だが、武器を振るえなくなった今そんなの全く嬉しくない。


 人というのは体の一部が動かせなくなっただけでも異常に焦るものだ。と、客観的に今述べているが実際この時の俺の焦りようときたら無かった。


 滝のような汗がだだ漏れだ。動け、動けと念じてはみるものの、まるで微動だにしない。石腕は物を言わぬまま、炎の立たない剣を虚しく握っている。


「シャァァァァッ!」


 その隙をヤツに突かれた。ゴッドメデューサが翼撃を放つ。強い羽ばたきによって生み出された衝撃波が、俺の横っ腹を容赦なく切り裂いた。肉が裂け、鮮血が俺の服を一瞬にして赤く染め上げる。


「ぐぁっ……ッ!」


 中々手痛いダメージを貰った。両腕の神経が通ってない分、腹の痛みが余計際立つ。言うまでもなく激痛だ。ここは今すぐイリアの回復呪文に頼りたいところだが、生憎彼女は今別の敵を倒すので精一杯。ここは俺一人で何とかするしかない。


「はぁ……はっ……ぁ……ッ!」


 と、ここでようやく石化の呪縛が解けた。しかし深い傷がついた今ではそれも素直には喜べない。残念ながら俺は察してしまった。聖剣の攻撃では一歩遅く、石化させる眼を持つゴッドメデューサが相手では完封敗北する可能性すら濃厚であることを。


 このままでは相性が絶望的に悪い。……どうやら、“アレ”を使う時が来たようだ。俺は聖剣を一旦鞘に収め、代わりに、紫色の球体――紫紺のオーブ――を取り出した。そして……。


「……≪紫紺の魔玉よ――」


「――槍となれ≫!」


 紫紺に輝きし魔の力……それを今、解き放つ!顕現せよ、紫紺の槍よッ!


 ……紫紺のオーブは、所有者の魔力を注ぎ込むことで三種類の武器に変化する。斧と剣と、そして槍だ。


 そうして顕現した武器は魔力の塊ともいえる物質であるため、重量という概念を持たない。故に、本人の力に関係なく、軽々と扱える。それでいてその威力は並の武器よりも数段高い。最新鋭の技術を存分に注ぎ込んだ新武装。それがオーブ。


 俺は魔槍を構え、電光石火の如く速度で一気にゴッドメデューサとの距離を食らった。そして……一閃、槍を蛇の眼に渾身の力で叩き込む!


「ジャギャァッ!?」


 言うまでもないことだが、槍はリーチが長いことが文字通り長所の武器。故に他の武器よりも攻撃が一手早い。狙いを澄まし放たれる槍の一撃は敵の急所を迅速に捉えるので、相手からしてみれば避けづらいことこの上なし。


 ゴッドメデューサはその石化させる眼こそが最大の武器。故にそれを潰されてしまうと逆に無力になってしまう。ただの翼が生えた脆弱な蛇だ。武器でもあり弱点でもあるその眼を俺は狙い、そして直撃させることに成功した。


 ゴッドメデューサは悲鳴をあげ、パニック状態に陥ったのか、槍に串刺しにされたままジタバタともがいている。まるで網にかかった直後の大物の魚のようだ。蛇の血が、槍の刃先を伝う。しかしその紫紺の刃は汚れることがない。魔力の材質が血を弾き飛ばしてしまうからだ。


 俺は串刺しのゴッドメデューサを、そのまま槍を真下に薙いで、叩き落とした。


「ふんッ!」


「ジャァ゛ァ゛……」


 舞う砂煙に埋もれる蛇の姿は実に無様であった。程なくして絶命した蛇を見下ろしつつも俺は、紫紺の魔玉が持つ圧倒的なパワーに見惚れていた。


 凄い。武器の破壊力は勿論のことだが、これ程俺の体に馴染む武器は今まで無かった。かつての愛剣の≪グラン≫ですら、これには遠く及ばない。まるで手足を扱うかのように、極めて自然な感覚で振るうことができる。


 魔玉と肉体が深く癒着している感じだ。これを使って戦っている時が、一番自分らしくいられる。俺の中に流れる魔の血が安らぐのだ。この得物を握っている時は。


「……良い武器を持っているね。アイザック」


 と、ここで魔物の掃討をひと足早く終えたモルドが俺に話しかけてきた。


「ああ。この≪紫紺の魔玉≫は、俺の……魔族の体に良く馴染むんだ」


「……だろうね」


「えっ?」


「や、何でもない」


 ……何だか意味深な言葉を残したモルドに、俺は戸惑って首を傾けてしまう。「だろうね」とは、どういうことなのだろうか。もしかしてこのオーブに使われたデスタメタルについて、何か心当たりが――


「こっちは終わったぞ」


「私も終わりました!」


「ふっ、俺も楽勝だったぜ」


 ――と、モルドに聞こうとした瞬間、俺のその声は同刻に討伐を終えた仲間達の報告によって遮られてしまった。そしてモルドがそれを迎えたことで、俺は質問のタイミングを完全に逃してしまう。


 ……どうにも食えない男だ。彼は。

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