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魔族を蝕む聖剣の光  作者: うさぎボーイ
第五章 「地獄にも勝る悪夢に終止符を」
85/141

「キャンプ」

 ※


 勇猛な馬三頭が、砂漠をその健脚で疾走する。俺とマルク君が乗るジョー、イリアが乗るフレイヤ、イクシスが乗るファルク。この三頭はいずれも優秀な馬だ。この砂の大地でも速度を極力落とさないようにしながら懸命に走ってくれている。


 そして、サンメラに着くまでの道のりで俺とイリアが最も苦しめられた酷暑も、イリアがサンメラに滞在している間に編み出した“とある秘策”で何とか回避していた。それは……。


「どうです?皆さん!」


「私が独自に考案した“ひんやり呪文”の効力は!」


「ああ。かなり心地良いよ」


 ……人の体温を調度良い具合に下げる、イリアオリジナルの呪文だ。彼女曰く、聖杖フリーズ・クリスタルの氷呪文を応用して完成した呪文とのこと。これをイクシスは絶賛した。イリアは「えへへ」と顔を緩めながら照れ臭そうに顔を赤くする。どうやらイクシスに褒められたのが余程嬉しかったらしい。


 実際俺とマルク君もこれのお陰でかなり快適な思いをさせて貰っている。最初このどうしようもなく暑い砂漠の中を二人乗りという密着した状態で抜けると考えた時、俺とマルク君は同時に吐き気を催したが、イリアのお陰で暑さなど殆ど感じない。


 ジョー達もこの呪文のお陰でこのようにいつも通りの健脚を発揮できている。暑さを凌ぐことがこうも物事を好転させるとは思わなんだ。やはり生物にとって快適な環境というのは何時でも必要不可欠な物なのだと思い知らされる。


 さて、我々が現在駆けているこの砂漠だが、この次に訪れる予定の街がいよいよ魔王の待ち受けるザザンガルドだ。だが俺達が未だに疑問なのは、なぜ魔王城の所在地が、ザザンガルドという街なのだろう?ということ。


 というのも、ザザンガルドとは本来、海が隣接しているリゾート地として有名な国。富裕層がこぞって休暇日に宿泊しに訪れる場所としてもその名を世界に知られている。実際俺も、いつかはエリス様と一緒に行きたい場所だと恐れ多いながら考えていたわけだが……。


 何はともあれ、そんな観光スポットに果たして本当に魔王の根城なんて物騒な物があるのだろうか?ここまで来て何だが、段々と魔王の根城なんて無い気がしてきた。だがとはいえ、魔物の出処の調査に出かけていた我が国の兵が、確かにザザンガルドから魔物が湧き出ていると報告をしてくれたのだから、それを信じなくてはどうしようもない。


 ……どの道、ザザンガルドに着いてもいない内からあれこれ考えていても仕方が無いか。それにザザンガルドに辿り着くにはもう一つ大きなヤマを乗り越えなくてはならない。


 そのヤマとは、サンメラ王国のある砂漠地帯とザザンガルド国のある海岸地帯とを大きく隔てる山脈地帯、“ゴツガケ山脈”だ。そこには一際強力なモンスター達が縄張りを張っており、並大抵の人間では過酷すぎて通過することはできない。なのでそういった人がサンメラからザザンガルドに行くためには山脈地帯全てを避けて通る必要がある。そのため一般人は、途方もない遠回りを強いられることに。しかしこの一刻を争う事態。我々に遠回りという選択肢は無い。


 それにこの山脈地帯如き、突破できないようではどの道、これまでのどの敵よりも強大な力を持っているであろう魔王を討伐することなど夢のまた夢だ。寧ろここを修練場にするくらいの度胸が無ければいけない。俺達は意を決して、その山脈地帯を目指して向かっていくのだった。


 ※


 俺達は砂漠地帯をようやく抜けることができた。今度はイリアの呪文が肌寒くなってしまうくらいに気候が安定している草原地帯に突入している。俺達はイリアに呪文を解除してもらい、日が暮れるまでジョー達を走らせた。


 そして、長時間に及ぶ馬での移動が、やがて訪れた黄昏の時と同時に終わりを告げる。ジョー達に礼の言葉とありったけのご馳走を贈った後、俺達はキャンプの準備を開始した。サボろうとするマルク君を諌めながら、俺とマルク君はテント張り。かたやイリアとイクシスは料理作りに励んでいた。


「こらマルク君。あまり怠けていると飯を抜きにするぞ?」


「げっ!それは勘弁して欲しいな……しゃあねぇ」


「おお!美味しそうに仕上がってきたなイリア!どれ、味見してみないか!?」


「イクシスさん、これで4回目ですよ?味見……」


 美味そうな肉の香りが漂うキャンプの一時。流れる和やかな時間。時が経過する毎に今日掻い潜った死線で味わった戦慄を忘れさせてくれる。テントを張り終わった俺とマルク君は同時に料理を終えたイリアとイクシスの所に行く。そしてひと仕事終えた一同は焚き火を囲んで夕飯にありつくのだった。


「はむっ……美味しい〜!」


「これは何杯でもイケるな!うむっ!」


 大食い女子二人が椀に入ったスープをガツガツとかきこんでいく凄まじい光景を横目で見てドン引きしつつも、俺とマルク君も料理を口にする。本日の献立は、牛肉を煮込んだ贅沢なスープだ。牛肉のダシがこってりとした味わいを生み出しつつ、更に牛肉の柔らかい食感が肉肉しさに拍車をかけている一品。かなり重たい印象を最初は受けたが、空腹故に寧ろこれくらいが調度良いと感じてしまう。


 しかしそれでもかなりの高カロリーであることには違いないハズ。なのに何故だろう……彼女達はその事実にも関わらず、本当に何杯もいっている。彼女達の胃袋は無尽蔵なのだろうか……。


 ……と、男性陣と女性陣とで温度差が違いすぎる食卓にて、イリアがふとこんなことを口にする。


「ところで皆さん、ふと疑問に思いませんか?」


「リゾート地に根城を構えているなんて、魔王ってどんな人物なんだろうって」


 ……確かに、そうだ。俺は魔王という存在がどういうものなのかは知らないが、魔物の王というからにはもっとそれらしい、おどろおどろしい地に城を構えて然るべきのハズだ。それがなぜ、リゾート地・ザザンガルドなのだろうか。謎である。


「もしかしたら、陸地ではなく海底に、魔王の城があるのかもしれないぞ」


 イクシスが言う。なるほど、そういう説もあるか。海底に根城を構えていれば、人目につくことなどまずありえない。秘密裏に魔物を増殖させ地上に流し込むことは容易なハズだ。


「案外魔王ってのは、表向きでは意外と何でもない存在だったりするんじゃね?」


「上っ面だけ怪しくないように振る舞ってさ、裏ではえげつないことをやってるとか……」


 ……マルクのその意見も、中々に的を射ている。もし魔王が表面上では人畜無害を取り繕っていれば、ザザンガルドの軍すら預かり知らない場所で魔物を生み出し、世に送り込むことは可能である。しかし彼の意見を基に魔王の正体を想像すると……“人間に限りなく近い姿”、にならないだろうか。あるいは……“人間そのもの”、か。


 ……どの道、このあまりにも少ない情報では魔王の姿形を結論付けることは不可能だ。こんなことを考えていても仕方がない。俺達は魔王図を想像するのを程々に切り上げ、それぞれ就寝するのだった。


 眠気に促されるまま意識を暗闇に落とす中で、この旅の“終わり”を俺はふと想像する。俺は……果たしてこの旅を、無事ハッピーエンドで終わらせられるのだろうか。

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