表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
魔族を蝕む聖剣の光  作者: うさぎボーイ
第五章 「地獄にも勝る悪夢に終止符を」
82/141

「新たな王」

 フォード将軍はかつて、グラファの呪術にかかり奴の操りし傀儡と化していた。あくまでグラファではなくホルス様の命令という建前で彼はグラファに操られ、俺達に襲いかかった。


 二つの大槍を使った彼の猛攻は本当に驚異そのものだった。しかしデスタメタルを活用した攻めによって何とか攻略することに成功した。今でも交戦時の戦慄はよく覚えている。


 そして今、本当の人格を取り戻したフォード将軍の表情は非常に穏やかだった。しかしどこか申し訳なさそうでもあった。彼には操られていた時の記憶が無いとのことであるが、昨晩、イクシスが彼に事の顛末を説明した際、彼は己の行為を深く嘆き、そして自らを戒めたそうだ。


 故に、俺達と顔を合わせるのも後ろめたいものが彼にはあるのだろう。俺がもし彼の立場だったら、俺もまた彼と同じ考えを抱いていたに違いない。


 だからこそ俺は彼に、気にしないでくれと一言送った。俺の横にいたイリアも同様だった。すると彼も少しだけ気が楽になったのか、口角をほんのちょっとだけ上げる。彼の中で渦巻いている罪の意識が少しでも晴れたのなら何よりだ。


 やがてフォード将軍は、俺達がここに足を運んだ理由を聞く。俺とイリアは答えに困り、イクシスに顔を向けた。目的そのものは俺達も知っている。王の器足り得る人物に用があるから、だ。だがその王の器が誰なのかまでは分からなかったから、俺達もフォード将軍と同様、イクシスが口を開くのを待つしか無かった。


 だが、俺はこの地点で何となく察しがついた。この医療室の中に王の器が居るとするならば、その人物は一人しか居ない。少なくともこの部屋に元からいた人物の中で最も身分が高いのは、そう……。


「――フォード」


「ホルス様の跡を継げる者はお前しかいない」


「この私が推薦する。だから……新たな王となってくれ」


 ……サンメラ王国将軍のフォード。彼をおいて他には居ない。


 イクシスがフォード将軍に王になれと言った時、この場にいる誰もが一度硬直した。だが確かに、王の血統が途絶えた今、次に王の後継者候補として目を向けられるのは上位階級の人物だ。


 その中でも将軍の位に位置するイクシスとフォード将軍はかなりの有力株だ。仮に二人のどちらかが王に君臨したとしても、この期に及んで異を唱える者など、同じく王の座を狙うが国民からの信用がいまひとつ薄い大臣くらいのものだろう。


 だがイクシスに提案されたフォード将軍は、彼女の考えに納得がいかない様子であった。


「……この俺が王の器などと、お前にしてはとんでもなく検討が外れているな」


「お前だって目の当たりにしただろう。操られていたとはいえ、ホルス様以外の者に盲従し、国を救おうとしていたお前達の前に立ちはだかった愚かな俺の姿を」


「俺にはこの国の王はおろか、この国の民である資格もない」


 フォード将軍は自分で自分を酷評した。過去の己を異様に責め立て、イクシスの提案から耳を背ける。彼の肩は、自らへの深い失望からか哀愁を帯びて震えていた。


 俯き、床を見ながら彼女の提言を断ったフォード将軍。しかし彼のその態度にイクシスは……。


「私の顔をしっかり見ないか!フォードッ!」


 ……激昂した。俺とイリアはそんな彼女の怒りを慌てて鎮めようとする。しかしイクシスはそれに構わず彼に言葉を続けた。そしてフォードは彼女の怒号に思わず瞠目し、彼女の言われた通りに目線を彼女に向けた。


「私はお前の、“そういうところ”を見込んで頼んでいるんだ!」


「人一倍強い責任感と、そして我らが敬愛してきた王への絶対的な忠誠心!」


「確かにお前はグラファに操られた。だがそれがどうした!」


「私は知っている!お前がこの国で誰よりもこの国を愛していたことを!」


 力強く紡がれていく、イクシスのフォードに対する称賛の言葉。その一つ一つが彼の……フォード将軍の心に突き刺さっていくのが感じ取れた。


 気づけばフォード将軍は涙を流していた。自ら貶めていた自分の存在価値に、王としての才を見出してくれたイクシスに感謝するあまり……だろうか。俺達はそんなイクシスの熱意こもった言葉の数々を聞くのに、いつしか夢中になっていた。


「……もう一度問う」


「この国の王になってくれないか、フォード」


 イクシスはフォード将軍に手を差し伸べた。フォード将軍は涙を止めるのに少し時間を費やした後、その手を……取った。「分かった」と、それだけ告げた彼の表情には決意の念が表れていた。


 王の責務は勿論、国の復興や、贖罪、色々なものをたった今一気に背負い込んだ彼のその決意は、きっとかの金剛石よりもずっと固いだろう。同じ将軍として俺は、そんな彼の姿に騎士としての誇りを見た。


 人と世に尽くす騎士の鑑と言えよう。俺はそんな彼に対し、心からの拍手を無意識の内に送っていた。するとイリアも俺と同じように、感動に満ち溢れた表情で彼に拍手を送る。フォード将軍はその時、何だか照れ臭そうに笑っていた。


「よし、そうと決まれば今夜は戴冠式だな」


「アイザック、イリア、お前達はこの国の英雄だ」


「是非とも今宵の式に参加してほしい」


 イクシスは俺達を英雄と称え、今宵執り行うことを決めた戴冠式に察足誘ってくれた。勿論、俺達に断る理由はない。喜んで行かせて貰うよと、意気揚々と返事した。


 その時彼女が見せた屈託なき笑顔は何より尊かった。そこに、かのサンメラ王国最強の武人の荘厳たる面影はない。この時の彼女は、同年代の普通の少女と何ら変わることない、純粋無垢な笑みを俺達に送ってくれた。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ