「反撃」
「くっ、邪魔をする気ね……負けるものですか!」
グラファと対峙するイリア。彼女は杖を背から取り、臨戦態勢に入る。俺やイクシスがあっという間に手深い傷を負わされたというのに、彼女はこの状況でも諦めてはいなかった。
「≪聖なる閃光よ 凄烈なる嵐を巻き起こせ≫!」
イリアの詠唱を引き金にして展開されていく、美麗かつ繊細な魔法陣。彼女の魔力と声がシナジーを作り、呪文の威力を高めていく。
魔力の膨大が限界に達し、ついに呪文が産声をあげて発射された。虚空を貫きながら光弾がグラファのもとへと一直線に迸る。
俺達が全く目で捉えられぬまま、光はグラファに衝突し、奴の体内で炸裂した。瞬間、体ごと吹き飛ばされそうになる程の爆風が辺りに吹き荒れる。
苦しげな息遣いで後退するグラファ。爆発した光の残滓が灰色の炭となって宙に舞い散る。立ち込める煙の向こうには、確かなるダメージを受けて吐血するグラファの姿があった。イリアの攻撃が、グラファに通用したのだ。
意外とあっさりダメージを与えられ、俺は驚きを呟いた。一見絶望的だったグラファの実力に亀裂が入った瞬間である。
「オノレ……忌々シキ光ガ……!」
そして傷を負ったグラファは、光に対して限りなく深い憎しみの念を叫んでいた。その台詞から読み取るに、奴は光の力を忌み嫌っているようだ。俺はこのことから、奴が光の攻撃に耐性が無いことを察する。
確信した俺は勝機をそこに見出し、徐ながらも傷だらけの体を起き上がらせた。血がポタポタと地面に垂れる。その自分の血で思わず滑りそうになりながらも、俺は精神を鉄にして、不屈の心で戦線復帰を果たした。
そしてそれと同時に、イリアがマルク君のもとへ無事に辿り着く。イリアの修復の魔法によって、マルク君の鎖鎌が治った。
「す……すげぇな。魔法ってのは」
あんなに粉々になっていたのに、あっという間に鎖が元の形を取り戻したのでマルク君は思わず目を丸くしてしまう。そしてイリアは、今度は俺の体を治療するべく、こちらへ接近を始めた。
「今行きます!アイザック様!」
俺の名を呼びながら駆け寄ってくるイリアは俺の目には希望の光として映った。だがグラファはその希望を切り裂くべく俺達の間に割って入ろうとする。
「イカセルカァァァァッ!」
グラファは乾いた目を震わせながら、二刀を乱舞の如く振るった。規則性を持たないデタラメな剣さばきである。二つの剣が辿った跡には黒炎が渦巻き、その炎はまるで彼の感情の象徴のようであった。
激情が赴くままに剣を舞わせるグラファ。一見するとその剣劇に隙は無い。だが。
「――そんな扱いをしては、剣が泣くぞ」
「例え如何なる剣を持とうとも」
「そんな理性の無い刃では、何も斬れん!」
無敵のハズの突進に、傷だらけのイクシスが一閃を叩き込んだ。そして、魂を込めた彼女の斧はなんと暗黒と天帝、両剣の動きを……止めた!
「ナン……ダトッ!!?」
あり得ないハズの瞬間が到来したからか、グラファの体は一瞬痙攣のような震えを起こす。
それは一瞬の振動だったが、それは確かに奴が動揺したことを裏付ける場面であった。だがなぜあの双剣を相手に、イクシスの斧が一矢報えたのか。
確かにイクシスの武器……オーブは強力な代物だ。だがそれでも、暗黒と天帝の剣には敵わないと正直思っていた。
しかし今、現実に彼女の魔力の結晶である斧は無敵のハズのグラファの力に確実に届いている。ただでさえイクシスは満身創痍なのに、なぜ。
イクシスはそんな俺の疑問を察したのか、不敵に一度笑った後、その理由を次のように説明する。
「オーブは、その者がその時抱いている感情によって常に威力が変わっていく」
「特に怒りの感情は、爆発的な威力をもたらすものの、制御が効かないために威力が分散しやすくなる」
「逆に言うと、その状態で的確な一撃を叩き込めれば、例え切れ味がその剣より劣っていたとしても、魔力の“質”で押し切ることが可能だ」
そのうえで彼女は次の瞬間、グラファにこう断言するのだった。
「ハッキリ言ってやる」
「今の貴様は……元々の依代であるホルス様にも遠く及ばない!」




