「融合する剣」
異次元の扉から現れた、漆黒の剣。名を、"ヴァルハラスフィア"。または"撃滅の暗黒剣"。かつて砂漠のオアシスで俺達を襲った、最強の切れ味を誇る巨大な剣……のハズなのだが、今回出てきたのは以前とは違っていた。
と言うのも、サイズが明らかに前回より小さくなっているのだ。前回は塔に見間違える程の大きさだったというのに、今回は手で軽々と持てる程度の、まあ言ってみれば普通のサイズに縮小されている。
「あの剣は……あの時の!」
「でも、あの時よりはサイズが小さすぎる……?」
俺達はその点に引っ掛かりつつも、グラファがその剣を手に取る光景を目の当たりにした。恐らく奴は、自ら暗黒剣を操作するためにこの大きさにまで縮めたのだろう。どうやってそうしたのかまでは分からないが。
「グググ……コノ ≪禁忌ノ呪文≫ ヲ ツカッタ ノハ ホントウ 二 ヒサシブリ ダ」
どす黒いオーラを纏った後の奴の喋り方は、まるで呪詛のようだ。禍々しく、その声を聞いているだけで魂までもが穢れていくような感覚を覚える。
「おい、なんかコイツ喋り方変わってねえか?」
マルク君はその辺りについて触れた。しかし俺は、奴の気味の悪い喋り声よりは、奴が放った言葉に着眼していた。
「……≪禁忌の呪文≫、だと?」
それは聞きなれない単語だった。しかしながらその言葉の意味は何となく想像ができる。禁忌というのはつまり、詠唱することを禁じられているということ。
では、なぜ奴はその禁忌を破ってまでそれを唱えたのか?その理由も察しがつく。その分、その呪文がもたらす効果は計り知れないのだ。
「撃滅ノ暗黒剣 ト 天帝剣 ノ フタツ ノ チカラ ガ アレバ …… コノセカイ ヲ シハイスル ノ ダッテ タヤスイコト ヨ」
ホルス様の皮を被りしグラファは、背筋も凍るような不気味な笑みを浮かべる。暗黒剣と天帝剣、この二つの剣の力を使えば、世界征服すら容易だと豪語した。
「魔王 スラ テキ デハ ナイワ……ハハハハッ!!」
そしてその力に溺れるかのように、グラファはどんどん気を大きくしていく。ついには、自らが従っているハズの魔王ですら恐れなくなった。そこまで奴を慢心にさせているのは、紛れもなくあの両腕に握られている双剣だ。
「バカな……魔王以上の力を、コイツは得たというのか」
暗黒と天帝が合わされば、魔王をも越えるのか。その真偽はまだ分からないが、どちらにせよ絶望的なまでの力を奴が秘めていることは絶対に間違いない。
俺は勿論、この場にいる、奴以外の全員が奴に対し果てしなき戦慄を抱いた。目の前の怪物は、まるで天災の具現化のようだ。奴と同じ空間にいるだけで、極寒の中にいる時にするような震え方をしてしまう。
しかしそれでいて、寒気と同時に熱気も伝わってくる。矛盾しているようだが実際にそうなのだ。灼熱の中にいるかのように汗が流れ出ている。この感覚……恐らく例えるに最も相応しい言葉は"風邪"だ。
「マズ ハ キサマラ カラ 始末 シテクレヨウ……!」
寒気と熱気、この相反する二つの不快感が俺を苦しめる。加えて、聖剣の炎だってまた蒸し返してきた。精神的には既に俺はズタボロだ。
「来るぞ!」
イクシスが襲来を察知すると、刹那、暗黒剣と天帝剣を操るかの剣豪が俺達へ急激に接近を開始した。
「ハァァァァッ!!」
紫に蠢く闇が、天駆ける。同時に放たれた剣撃は交差し、混沌の輝きを生み出し、俺の胴体にこれ以上なき傷跡を残した。
「ぐはぁぁぁぁぁっ!?」
「アイザック様ぁぁっ!!」
俺の体が不滅の炎によって焼きつくされる。始まりを告げたのは、終わりなき辛苦の悪夢だ。噴き上がる血飛沫。流れ落ちる赤色の滝。俺は床に跪き、一切の行動も取れなくなる。
「くっ……うぉぉぉっ!!」
絶体絶命の状況のなか、加勢に入ったのはイクシスだった。イクシスは斧形態のオーブを携え、一心不乱にグラファのもとへと駆け抜ける。だが、グラファは彼女をも上回る圧倒的なスピードでこれに対応した。
「ハハハハッ!!無駄ダァ!」
俊敏な動きでグラファは二つの剣を構え、イクシスの斧による攻撃を防ぐ。激しく飛び散った火花は王宮の床で弾んだ。魔力の塊であるイクシスの斧は、その別次元とも称することのできる機能性から、普通にいけば純正の金属の武器を軽々と凌駕する。
しかしグラファが手にしている二つの剣は、そんなイクシスの斧よりも更に上の次元にありし宝剣。どちらか一本だけでも、オーブによって生成された武器すら超越する絶大な力を秘めている。
あんなのが立ちはだかっては、流石のイクシスも歯が立たない。イクシスはグラファにいとも容易く斧ごと体を弾き返されてしまった。
「うわぁぁぁっ!?」
「そんな、イクシス将軍まで……!?」
宙を舞ったサンメラ王国将軍。アイザックやイクシスを遥かに越える力を手にした絶対女王は、二つの宝剣を手に不敵に笑う。絶望的なまでに、実力の差が開いてしまった。
「チッ、俺はどうすりゃ良いのかさっぱりだぜ……!」
「マ、マルク君!今私がその鎖鎌に、≪修復≫の呪文をかけますから――」
と、鎖鎌を壊されてしまったマルク君のもとへイリアが駆けつけようとした、その時。
「サセルカ!!」
グラファはそれを妨害すべく行動する。奴は俺らに一ミリたりとも活路を開かせないつもりだ。暗黒剣と天帝剣を両手に持ちながら、グラファはイリアの前に仁王立ちした。




