「暗黒剣再び」
「イリア。お前は一旦、イクシスとマルク君の治療に向かってくれ」
「その間、俺が奴の注意を惹いておく」
「分かりました!」
俺は、戦闘不能となってしまった二人の回復をイリアに任せる。彼女が了承し、駆けていったのを見送って、俺は改めて聖剣を構える。
「さて……行くか」
右手に剣を、左手にデスタメタルを。痛みと癒しが交互にきて、互いに相殺される。今、俺を蝕むものは何もない。ほぼ万全に等しい状態で、グラファと戦うことができる。
「うぉぉぉぉっ!」
"半分は殺す気でいく"という宣言の通り、俺は全力で聖剣を振った。白銀の刃が虚空にその軌跡を残す。斬撃がグラファに直撃した。ホルス様の肉体に亀裂が入る。だが……。
「ぐ……調子に乗るなよ。イクシスよりも力の劣るお前が――」
「――俺に勝つことはできないのだァ!」
グラファはその強烈な痛みに関わらず、俺の攻撃を受けてから間を入れずに素早いカウンターを仕掛けてきた。攻撃直後で隙を見せる俺に、天帝剣による一撃を叩き込む。
「く……うぉぉぁぁっ!」
が、俺はこれをギリギリでガードした。奴の動きをも上回る速度で剣を動かし、奴の反撃を食い止める。そしてそのまま剣を返して、グラファの攻撃を往なした。
「何!?」
「バカな。コイツ……俺の剣撃を弾き返しただと!?」
俺の中で暴走する闇は、俺が激昂する程にパワーを増す。人々を、そして仲間を傷つけたグラファを絶対に許さないという俺の強い怒りが、俺に闇の力を与える。そして、その闇の力が強ければ強い程、聖剣に秘められし光の力がそれに反発して更に強力になっていく。これが、俺の快進撃の理由だ。
そして、天帝剣の攻撃が不発に終わったグラファは、反動によって体勢を崩し、一瞬無防備になる。俺はその僅かな隙を突いた。
「はぁぁぁぁっ!!」
闇に呼応して大きくなっていく聖剣の炎を存分にたぎらせ、俺はグラファに思いっきりぶつけた。
「ぐはっ……!?」
「ぐ……オラァッ!」
その俺の炎の攻撃に一度は苦しむ様子を見せたグラファだったが、奴はそこからすぐに体勢を立て直して、素早い反撃の一閃をかましてくる。
「うおっ!?」
咄嗟の動きで俺はこれをかわしたが、刃は俺の頬を掠めた。一筋の流血が頬を伝う。
「≪暗黒の焔よ 今ここに凄絶なる爆風を巻き起こせ≫!」
そしてグラファはそこから更に容赦の無い追撃を仕掛けてきた。奴が呪文を唱えると、黒い魔法陣の中から闇の炎が吹き出す。しかし俺はこれにも反応して、ひらりと身をかわした。
「っと……!」
バックジャンプという軽やかな動きで回避する。やはり、デスタメタルがもたらしてくれる恩恵はデカい。聖剣のデメリットに苦しんでいたせいで制限されていた俺の動きを、これは解放してくれる。
「チッ、避けやがったか」
グラファが思わず舌打ちを打つ程度には、今のところ俺は優勢のようだ。すると、そこへ更に……。
「グラファァァァッ!」
……イクシスが、かけ声をあげて、手にした斧でグラファに斬りかかった。
「!!」
俺に意識を集中していたせいで反応が遅れたグラファは、イクシスのこの一撃をモロに受けた。
「ぬぉぉぉぉぁっ!?」
今度の彼女の一撃には、先程のような迷いが一切なく、真っ直ぐ突き進んで、ホルス様の肉体ごとグラファを渾身の力で斬った。
「イクシスゥ……!」
グラファは怒りを露にして、鋭い眼光でイクシスを見る。どうやら彼女の傷は、イリアのお陰ですっかり治っているようだ。
「私はもう、迷わん」
「貴様をホルス様の体から追い出すためなら、私は罪だって背負う」
そして、その精神もまた、体と共に完全なる復活を果たしたらしい。迷いを捨て、このサンメラの国を救うために覚悟を決める。俺が頼りにしている本来のイクシスが戻ってきた。
「おのれぇ……ウッ!?」
と、そこへ更に。
「よぉ……さっきは良くもやってくれたなぁ」
マルク君もまたイリアに傷を治してもらい、加勢に来てくれた。マルク君は鎖鎌をグラファに投げ、鎖をぐるぐるとグラファの体に巻き付けていく。やがて縛り終えると、グラファは身動きが取れなくなってしまった。
「こんな風に縛り上げちまえばよぉ。抵抗なんてできねぇんじゃねぇか?」
「ガキィッ!!」
イクシスがグラファを弱らせ、その隙を突いてマルク君がグラファの動きを封じる。見事なコンビネーションだ。今なら、奴にあの薬を飲ませることができる。
「でかしたマルク君!」
「よし、この薬を飲ませれば――」
俺はこの機を逃さず、全力疾走した。薬の瓶を取り出し、グラファに飲ませるべくそれを持つ手を前方に突き出す。しかし……。
「させん……させるものかァァァッ!」
否が応でも術を解かれたくないグラファは、ここで、最後のあがきとも言うべきか、突如として奇声のような轟音をあげ。
「――何!?」
……なんと、気合いでマルク君の放った鎖鎌の鎖を粉砕してしまった。
「な……俺の鎖鎌が!?」
自らが愛用する武器を壊され、動揺するマルク君。
「ウォォォォォッ!!」
だが、グラファは縛を解いてもなお、猛る大声を止めない。寧ろ、その音量は際限なく増していく一方だ。
「なんて禍々しいオーラなの……!?」
イリアも戦慄する、グラファの底無しの力。そして次の瞬間、グラファは呪文を唱える。
「……≪ワガ チカラ ト ナレ……撃滅ノ暗黒剣≫!!」
「≪ヴァルハラスフィア≫ッ!!」




