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魔族を蝕む聖剣の光  作者: うさぎボーイ
第五章 「地獄にも勝る悪夢に終止符を」
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「撃破」

「え、デスタメタルって確か、オーブの材料になる、あの……?」


「ああ。ウチの連中に詳しい奴がいてな。よく目にする。あれは間違いなくデスタメタルの原石だ」


 ……"デスタメタル"。それは、いつかイクシスが俺達に教えた鉱石の名。彼女が愛用する武器・"オーブ"に使われている。


 俺は、この魔石の正体がそのデスタメタルと聞いて少し立ち止まった。しかし今はその話をゆっくりと聞いている余裕はない。俺はマルク君に構わず、そのまま戦闘を続行する。


「だがなんでアイザックさんはあんなもん握りしめてるんだ?」


「アイザック様、あの石を持ってると何だか落ち着くみたいで」


「は?何だそれ気持ち悪いな」


 聞こえていない。俺は何も。何もだ。


「うぉぉぉっ!!」


 確かに俺は何も聞かなかったが、何故だか込み上げてくる怒りがある。俺はその怒りに身を任せ、剣の一撃をフォード将軍に叩き落とした。


「がはっ!?」


 切り傷が、マルク君のつけたものと交差して更に縦に刻まれる。十字の刻印は紅に染まった。噴き上がる血飛沫は、彼の命が削がれていることを如実に語っている。


「バカな……ここにきて、力を更に上げていくだと!?」


 魔石……いや、デスタメタルを手にした俺の底力に、あのフォード将軍でさえ狼狽えてしまう。聖剣の痛みに苛まれ、絶望的な状況に瀕していたのが一転、デスタメタルのお陰で今度は優勢に立つことができた。


「せやぁッ!」


「ぐは……ッ!?」


 俺は更に剣撃をフォード将軍にぶちこむ。聖なる炎を宿せし刃は今、最強の怪物を窮地へと追いやっていた。魔を穿つ聖剣の真骨頂は、今ここに顕現している。


 吹き荒れる斬撃の嵐。一太刀一太刀重ねる毎に、フォード将軍の闇は呻き声をあげて離散していく。闇に抗う光の旋風。闇は成す術もなく、逃れることも叶わず、ただ斬り刻まれるだけ。


「ぐ……うぉ……ッ!」


 いつしかフォード将軍の体には無数に傷跡がつけられていた。その傷のあちこちから、多量の血が流れ出ている。苦しみの声を枯れぎみにあげるフォード将軍は、ついに床に膝をつき、戦闘不能の状態になった。


「今だ!トドメを刺せ!」


 マルク君の声が城内に響く。その言動にいち早く反応したのはイクシスだった。彼女はマルク君に振り向き、怒りの形相を浮かべる。しかしその彼女もまた周りの兵士の掃討に追われているため、直接彼に抗議することはできない。


 故に今、全ての判断はこの俺に委ねられている。フォード将軍を生かすか、殺すか。その答えは勿論決まっている。


「……いや、それはできない」


 俺の回答は、拒否だ。フォード将軍はあくまでも操られているだけに過ぎない。言ってみれば罪のない人間だ。城内の兵士にしたってそうだが、今彼らは自分自身の感情で動いていない。黒幕の謀略によって良いように使われているだけである。


 よって、俺はフォード将軍を殺すわけにはいかない。逆に、今ここで彼を殺したところで、償えるモノなど何もない。罪なき者を殺したという罪だけが残る。


「おい、そんな甘ぇこと言ってる場合かよ!」


 しかしマルク君は俺の判断に反発する。俺も、彼の気持ちは分からないでもない。少なくとも、このままフォード将軍を放置しておいたら非常に危険だ。この状況から逆襲してくることは十分考えられる。


「勿論、俺とてこのままフォード将軍を野放しにしておく気もない」


 だがそれは、フォード将軍が闇に心を奪われたままの状態である場合の話だ。彼が正気を取り戻しさえすれば、これ以上戦闘を行い続ける必要もない。


 だから俺は、倒すという選択肢ではなく――


「この薬を飲んで貰うぞ、フォード将軍!」


 ――"治す"という選択肢を選ぶ。俺はもう一度ポーチから薬を出して、蓋を開け、飲み口をフォード将軍の口に突っ込んだ。


「うぐっ!?」


 先程飲ませようとした時は弾かれてしまった薬。しかし今の瀕死のフォード将軍になら、抵抗させることなく飲ませることができる。そして俺の狙い通り、薬はフォード将軍の体内に無事に注ぎ込まれていった。


「や……やめ……っ」


 中止を求めるフォード将軍。しかしはいそうですかと言って止めるわけにはいかない。フォード将軍を闇の呪縛から解くには、こうするしかないのだから。


 やがて瓶の中の薬が空っぽになる。どうやら薬を全て注ぎ終えたようだ。俺はフォード将軍の口から瓶を外す。


「うっ……うぅぁ……!!」


 瞬間、彼の体内で蔓延していた闇が一斉に放出された。その闇は空気中で跡形もなく消え去っていく。闇の依代となっていたフォード将軍はその後、殆どの力を失い……。


「……っ」


 ……床に、倒れこんでしまった。その際の表情は熟睡時のそれで、微かながら呼吸音も聞こえる。穏やかな息遣いだ。彼は闇から解放されたことで、ようやく心に安らぎを得られたのだろう。


「フォード……!」


「大丈夫、気絶しただけだ」


 フォード将軍を、已然兵士達と戦いながら心配するイクシス。俺は彼女に、彼の命に別状は無いことを伝えた。


「アイザック様!今すぐに治しますからね!」


「ああ、頼む……」


 この傷が癒えたら、今度はイクシスの加勢に行かねばならない。フォード将軍の鎮圧には成功したが、兵士達はまだまだその頭数を増やしている。まずはこの状況を切り抜けなければどうにもならない。

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