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魔族を蝕む聖剣の光  作者: うさぎボーイ
第五章 「地獄にも勝る悪夢に終止符を」
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「魔石の正体」

「イケるぞ!」


 この好機を見逃してはならない。相手が有する力を半減させた今が、彼に解呪の薬を飲ませる絶好のチャンスだ。俺は腰のポーチからルスワールちゃんの薬を取りだし、栓を外して、彼に飲ませようとする。


「ぐ……まだだァッ!」


「な……っ!?」


 だが、フォード将軍は未だになお戦意を失わせていなかった。俺の差しのべた手を右腕で払いのけ、薬の服用を拒絶する。瓶が床に落下し、粉々に割れてしまった。"結構高いんだぞコレ"という場違いな怒りが一瞬生まれたが、今はそんなことを気にしている場合ではない。


「まだ俺は、倒れるわけにはいかない……!!」


 左腕を動かせなくなっても已然として戦う意思を示す彼は、まさに不屈の戦士。如何なる窮地に追いやられても決して自ら戦闘を放棄することをしない。彼の意地と誇りは今、最高潮にまで達している。


 ぷらーんと左腕を垂らしながらも、フォード将軍は不動が如し精神で立ち上がった。闇にその身を侵食されても、彼がホルス様に抱く敬意と忠誠の念だけは闇には染まらない。


 "全てはホルス様のために"。フォード将軍は、闇に堕ちる前からその理念を掲げていたのだろう。絶対に敵からホルス様を守り抜くという彼の凄まじい執念がその姿から窺える。例えホルス様自身が悪に成り下がったとしても、彼の生きる理由はきっと変わらない。


「チッ!マジモンの化け物じゃねぇか!」


 マルク君は戦慄のあまり、フォード将軍を化け物と称する。それも、マジモンの。まさに彼の言う通りだ。フォード将軍は忠誠心の塊。故に、命の続く限り戦いを止めない真の化け物ともいえる。


「うぉぉぉぉッ!!」


 普段から心を修羅に染めなければ、例え闇に操られていてもここまでの戦いぶりは出来ないだろう。人には必ず、死に対する恐怖がある。そして自分が死に近づく程、その感情は増大していく。


 その恐怖に耐えかねた時、人は逃走という選択を強いられる。かつての俺もそうだった。俺はファランクス戦において、一瞬だけ逃げ出しそうになってしまった。仲間達も、最愛のエリス様すら置いていこうとした。


 今でもその時の自分の心の弱さを忌んでいる。しかし人の心なんてのはそれだけ脆いモノだ。自分の命を守るためだとしても、まして人のためだけに戦い続けられる者などそうはいない。


 だが、フォード将軍にはそれができる。彼は自分の全てをホルス様に捧げることができる。フォード将軍は満身創痍の肉体を懸命に振るって突進してきた。そして槍を握る右腕を大きくぶん回し、俺に向かって渾身の力で薙ぎ払う。


「ぐわぁぁ!!」


 俺の体は衝撃によって宙を舞った。目に映る世界がぐるぐると回転する。やがて床に落下すると視界がグニャリと歪んだ。また、全身を強打したことで体のあちこちが腫れ上がっていく。ここまで体にガタがきてしまうと、最早立ってるのがやっとといった具合だ。


「アイザック様!!」


 イリアが俺を心配して駆け寄ってくる。


「ぐ……うぉぉぉぁぁっ!!」


 しかしその瞬間、俺に更なる追い討ちが降りかかった。聖剣を手にして立ち上がろうとしたら、俺の剣を握る腕が橙色の炎に包まれる。この局面で、聖剣の呪いが甦ってきたのだ。


「いけません!聖剣の炎が……」


「俺に構うなイリア!!攻撃を続けろ!!」


 聖剣によって足止めを食らう俺。しかし今はそんな俺に構っていられる余裕はないハズだ。彼女の優しさは嬉しいが、今は突き放すしかない。俺はイリアに、介抱ではなく攻撃を命じた。


「ッ……!!」


 一瞬イリアが躊躇ってくれたことが、正直俺にとっては嬉しかった。だけど行け。行ってくれイリア。俺も後から必ず追い付く。今はフォード将軍を止めることだけに専念してくれ。


「≪氷の精霊よ 敵を凍てつかせてしまえ≫!」


 イリアは再びフォード将軍の方へ顔を向け、呪文を唱える。その澄んだ声で紡がれるは氷の呪文。敵を凍らせる恐るべき魔法。


 魔法陣から放たれる氷塊の弾丸。数多に及ぶ数のそれが、フォード将軍の体を打ちつける。


「効かんッ!」


 しかしフォード将軍はそれすらモノともしない。先程のように力を溜めることによって熱気を纏い、氷を溶かすことによってその威力を激減させ、難なく凌いでしまう。


「そんな……!」


 左腕を封じられてもまだ攻撃を防ぐだけの力を有しているフォード将軍。イリアはその底無しの耐久力を目にして、緊張のあまり思わず唾を飲んだかのような仕草を見せる。


「これで終わりだ……!」


 やがてフォード将軍は再度進撃を始める。彼が定めた標的はどうやら俺のようだ。イリアの横を通り過ぎ、フォード将軍は真っ直ぐ俺に向かって猛進してきた。


 刹那、槍の尖端が俺の頭上にかざされる。アレが突き刺さったら一瞬にして俺は絶命するだろう。それだけは何としてでも免れなければならない。


「……俺とて、まだ倒れる訳にはいかない!」


 俺は限界まで力を振り絞り剣を握って、槍に刀身をぶつけてその軌道をズラした。お陰で槍の一撃は俺の頬を掠めただけで済み、そのまま床に突き刺さる。


「ぐぅ……しぶとい奴め……!」


 槍が思ったより深く刺さったらしく、フォード将軍はそれを抜くのに若干の時間をかけた。その隙に俺は命からがら彼との距離を置く。


 そしてあの魔石を取り出した。握ると俺に活力を注いでくれる不思議な石。その正体は謎に包まれているが、その癒しの力は聖剣の呪いをも和らげてくれる。


「ん?」


 と、ここでマルク君が俺の握っている魔石を見て、何かに気づいたような声を出した。そして彼は次に、一つの推測をする。


「アイザックさんが持ってるあの石……もしかして、"デスタメタル"じゃないか?」

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