「総力戦」
「≪敵を凍てつかせよ、聖杖よ≫」
「≪絶対零度の氷にて≫!」
イリアが呪文の詠唱を終えると、銀色に輝く冷気がフォード将軍の全身を包み込んだ。そしてその冷気はやがて氷の結晶になり、徐々に彼の体を凍りつかせていく。
「これは……氷」
「フン、まだ魔導士が残っていたか」
氷を見てフォード将軍は、余裕げにひとつため息をつく。すると次の瞬間彼は、全身の筋肉に力を込めた。そして彼の周りに段々と熱気が漂い始める。
立ち込める熱。やがて数秒後、フォード将軍の体が水滴で濡れてきた。見ると、先程までフォード将軍を侵食していた氷は単なる水になっており、彼の体からみるみる内に剥がれていってしまっている。彼はなんと、体内から放出される熱のみで氷を溶かしてしまったのだ。
「効いてない……!?」
イリアの呪文をも弾き返す不屈の肉体を目の当たりにし、イリアは恐ろしさのあまり絶句してしまう。だが、俺が思うに、全く効いていないということはないだろう。
確かに彼はイリアの氷の呪文を打ち破ったが、そのために多くのエネルギーを費やしただろうし、力を込めている最中は氷による侵食が続いていた。故に俺は、彼が無傷で済んでいることはまずないと確信する。
「いや。確実にダメージは与えているハズだ」
「ああ。フォード将軍様はガラにもなく強がっているだけだぜ」
俺は勿論、マルク君もまた同様にそう感じたようだ。そう、フォード将軍は全く効いていないように見せてはいるが、実は少なからず気力を減らされている。イリアの放つ呪文はそんなにヤワじゃない。俺は彼女の強さを知っている。
「調子づくな、雑魚共」
しかし当のフォード将軍はあくまでも不動の精神を貫く。俺達の言葉を一蹴した後、彼は槍を構え突進してきた。巨体のわりに俊敏な動きだ。風の抵抗をモノともしていない。
「ぐぅ……ううっ!」
狙いを定めた的確な突き。俺は聖剣を盾にして身を守る。お陰で槍の直撃は避けられたが、衝撃によって体が後ろへ少し飛んでしまった。何とか踏み留まって横転は免れるものの、聖剣の持続的ダメージもあって俺自身かなり息が切れかかっている。
だが俺は、果たすべき使命のためにここで死ぬわけにはいかない。魔王を倒すことが何よりの目的だが、このままサンメラ王国の人々を見捨てて先に進んだとあれば、誇り高きバレア王国の将軍として一生の恥であり、また、俺の心の中で一生の後悔となって残り続けるだろう。
「うぉぉぉっ!」
死ねないし、逃げれない。ならば勝つしかない。勝って、サンメラ王国を救い、魔王討伐の旅を続ける。これこそが俺の望む未来。その未来に向かって、俺は仲間と共にサンメラ王国最強の将軍に挑む。
強者への挑戦とは、自らの限界への挑戦でもある。俺は聖剣の痛みに耐えながら、刀身をフォード将軍に向かって一心不乱に薙いだ。
「く……この状況で更に押し返すか……!」
俺の一撃にフォード将軍は、右手に持つ槍で対抗した。剣の軌道上に、一本の丸太の如し鉄塊が立ちはだかる。相対する二つの武器が直撃した瞬間、俺の斬撃は槍によっていとも簡単に弾かれてしまった。火花の後、聖剣は勢いを失墜させる。
流石はフォード将軍だ。その鉄壁の防御は時間が経過した今でもなお顕在である。だがそれでも、攻撃を重ねる毎に少しずつ、確実に気力をすり減らせているようだ。フォード将軍がふと漏らした言葉が、その何よりの証拠である。
「ほらよッ!」
更にそこへ、マルク君の鎖鎌による追撃も加わる。鎖によって繋がれし鎌が、まるで命を刈るかの如くフォード将軍に襲いかかった。俺の攻撃に対して意識を向けていたフォード将軍は、そのマルク君の攻撃に対応しきれず、直撃を受ける。
「ごはっ……!?」
フォード将軍の強靭な胸板に一文字の切り傷が刻み込まれた。削がれた肉の裂け目から鮮血が吹き出る。少しやり過ぎてないかと俺は一瞬心配になった。
「これでどうです!」
だが、そんな俺の懸念とは裏腹に、イリアもマルク君に続いて容赦ない追い討ちを仕掛ける。聖なる杖、フリーズ・クリスタルに光の魔力を注ぎ込んで、呪文を輝きと共に詠唱した。
「≪光の精霊よ 敵に閃光の鉄槌を下せ≫!」
空中に映し出される、鮮明かつ美しき魔法陣。円を描いて回転するそれは、瞬く間にイリアの魔力を纏っていく。やがて光の力が最大まで達した時、その魔法陣は魔法の大砲と化して光弾を射出する。
「ぐぉぉ……!!」
極限まで威力を高めた必殺の呪文が、うなりをあげてフォード将軍を貫いた。光の煌めきが、彼の中で蠢いている闇を消し炭にしていくのが目視で確認できる。彼の体内から、灰になった闇が漏れているのだ。
鎖鎌による斬撃に引き続いて、今度は魔法の放った凄絶な一撃。かなりのダメージを負い、膝をがくっと落としたフォード将軍。今が攻め立てる好機と俺は悟った。
「はぁぁッ!」
今ここで痛めつけなければ、フォード将軍は止められない。俺は心を鬼にし、多少の人間性を捨ててでもフォード将軍の鎮圧に取りかかる覚悟を決める。聖剣を突き立て、彼の左腕にグサリと刺した。
「ごはぁぁっ……!?」
その状態で更に刀身を捻る。肉を抉ることで痙攣を起こさせ、自由に槍を振るえなくさせるのだ。俺はギリギリ治せそうな辺りまでそれを行い、その後引き抜く。その時、自分の中の獰猛な感情が脳裏を過り、少し嫌な気分になった。
「バカな……この、俺が……!!」
操られているだけのフォード将軍にここまでするのは罪悪感で一杯だ。しかしお陰でフォード将軍は左の腕を動かすことが困難になり、槍を握る手の力も一気に弱まった。槍が王宮の床に転がり落ちる。二つの槍を操りし武神は今、片腕しか動かせない手負いの戦士となった。




