「熱戦」
「ほざけッ!」
「くッ!」
フォード将軍の苛烈な槍の連続攻撃が暴発する。幾多にわたる突きの雨。俺はこれらを剣で往なすのがやっとで、全く隙を見つけることができない。
やはりフォード将軍は、俺とは段違いたる強さを持った戦士だ。あんなにも重たそうな槍を両手に持って、この速度で連撃を仕掛けることができるなんて。
彼の力は底無しか。俺一人では全く敵う気がしない。……だが。
「フォード!今度は1対1じゃないぞ!」
「ぐッ……!?」
そこへイクシスが、斧に変形させたオーブをぶん回して加勢に来てくれた。そう、それはあくまで、"俺一人では"の話。イクシスやイリア、マルク君と力を合わせれば……。
「私達全員で、お前を倒す!」
「小賢しい……奴らめ……!」
……俺は、いや俺達は、フォード将軍に届く。サンメラ王国が誇る天下無双の槍使いにだって、一矢報いることができる。例え個の力で劣っているとしても、最後に勝つのは俺達だ。
イクシスは斧で、俺は聖剣で彼を攻め立て、イリアは回復魔法で俺の補助をし、そしてマルク君は愛用の鎖鎌で彼に不意打ちを仕掛ける。
「おっと、将軍様。こっちにも注意配らなきゃダメだぜ?」
俺とイクシスが二人がかりでフォード将軍を攻撃している最中に、彼は乱入するかのような立ち回りで牽制の一手を打った。
銀色の刃がフォード将軍の頬を掠める。その切れ味は良く、ほんの少し接触しただけにも関わらず切り傷がパックリと割れ、血が垂れ始めた。
「チッ……小童が!」
「おぉ、怖い怖い」
怒るフォード将軍と、嘲笑うマルク君。相対する二人の間に早くも火花が散った。フォード将軍が槍をマルク君に向かって振るう。しかしマルク君はこれを軽快な動きでかわした。槍が巻き起こす風圧が、マルク君の前髪を揺るがす。
「油断するな、マルク君」
「油断なんかしてねえさ。ま、相手おちょくりながら戦うのが俺のやり方ってだけよ」
確かにマルク君の実力は優れているが、だからといって相手を挑発する戦法は相手を逆上させやすいので危険だ。勿論、怒らせた分だけ相手の動きは単調になりやすいのでメリットもあるにはあるのだが、如何せんリスクが高い。
特にこのフォード将軍という強者が相手なら尚更だ。普段マルク君達が相手にしているような連中とは比較にならない。フォード将軍ならば、怒りをコントロールし力へと変えることも可能だろう。彼に対する迂闊な挑発はかえって窮地を招く。
「お前ら、いい気になるなよ……ここが我らがサンメラ城の中だということを忘れるな」
と、ここでフォード将軍が意味深な発言をしてきた。すると城内が段々と騒がしくなっていく。あちこちから足音が近づいてきていた。俺達は周囲を見渡す。
「居たぞ!侵入者だ!!」
「全てはホルス様のためにー!!」
兵士達だ。兵士達が俺達の存在に気付き、四方八方から援軍を呼びながら各々の武器を持ってこっちに接近してくる。皆、血眼という言葉が良く似合う切羽詰まった表情をしていた。
「兵士さん達に見つかってしまったようです!」
「イクシス。フォード将軍は俺達三人に任せて、お前は兵士達の掃討に務めてくれ」
イリアの報告を受け、俺はイクシスに指示を出す。彼女が仲間になった当初はこのようなことはできないものだと思っていたが……。
「了解した」
……今ならば、彼女は俺に従ってくれる。俺を、いや……仲間を、信じてくれる。
「≪星の魔玉よ 薙刀になれ≫」
イクシスはオーブに魔力と詠唱を捧げ、星の力宿せし薙刀を顕現させた。そしてそれを手に取ると一回振り、薙ぐ。
「はァッ!!」
気勢の良いかけ声と共に、閃光が如く刃が辺りを斬りつけた。鮮烈なる薙刀の一撃を食らった兵士達が悲鳴をあげる。
「ぐわぁぁ!!」
そして彼らは次々と、即座に気を失っていった。流石はフォード将軍と並ぶサンメラ王国の強靭なる将軍。雑兵が数を集めて押し寄せてきても全く体勢を崩すことなく刀をひたすら薙ぎ払っていく。
気迫のこもった力強き進撃。紫髪の少女は戦場に咲く一輪の花が如し。百花繚乱の巧みな薙刀さばきだ。これ程頼れる味方はそうはいない。これならば、フォード将軍の相手に集中できる。
「うぉぉぉっ!」
俺も彼女に負けず、気合いを入れて聖剣を振り払った。イリアの回復魔法のお陰で痛みはあまりない。思う存分聖剣の力を解放することができる。フォード将軍はこの一撃を槍で弾くが、俺の太刀筋は彼の槍に確かな振動を与えることができた。フォード将軍はその衝撃によって若干ではあるが体をよろけさせる。
「なんて奴らだ……」
フォード将軍ですら狼狽えさせた。勝利の兆しが差し込んできたのが分かる。このまま一気に決めたいところだ。
「おらァ!」
マルク君が更なる追撃を加える。鎖鎌による素早い攻撃は、フォード将軍の屈強な肉体に再び傷をつけた。
「ぐ……だが」
「イクシス一人に比べれば、お前ら二人なぞ……!」
すると今度はフォード将軍が反撃を仕掛けてきた。彼は二つの槍を自分の前で交差させると、その体勢で両腕に一気に力を込め、そして思いっきり薙ぎ払った。刹那、凄絶な強風が吹き荒れる。
「ぐっ!?」
「ちっ……」
フォード将軍の馬鹿力と巨大な槍のシナジーが巻き起こす竜巻が、城内にて暴れまわった。これによって俺とマルク君は勿論、イクシスやイリア、周りにいた兵士達も風の影響を受け、中には吹っ飛ばされる物もいた。
兵士達の悲鳴が渦巻くなか、イクシスとイリアは何とかこの風圧を耐えてやり過ごす。俺とマルク君も武器を盾にして防御したので無事と言えば無事だが、何ともまあ圧倒的なまでの怪力を見せつけられてしまった。戦意が喪失しそうになってしまうくらいに強力な一撃だった。
「大丈夫ですか、二人とも!」
「問題ない。が……このままでは手数が足りないか」
俺は現状のままだと防戦一方になってしまうことをここで悟る。よって、新たに攻撃する人員が必要になってくるわけだが……。
「イリア。お前も杖を持って加勢してくれ」
……ここはやむを得ない。イリアにフリーズ・クリスタルを装備させ、共に戦ってもらおう。ただそれをすると俺の回復が出来なくなってしまうから、やるなら短期決戦に持ち込まなければならない。
「しかしそれだと、アイザック様の回復は……」
「どの道このままだとじり貧だ。ズルズル戦闘を長引かせるよりは、イリアの力を借りて一気に決めた方が良い」
そう、この状況なら多少リスクを背負ってでも勝てる見込みのある方に賭けた方が良い。相手がフォード将軍である以上、もう後退するという選択肢は無いのだから。
「……分かりました。では!」
「ぐっ……!」
イリアが回復魔法の詠唱を止めたことにより、聖剣の痛みが甦る。




