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魔族を蝕む聖剣の光  作者: うさぎボーイ
第五章 「地獄にも勝る悪夢に終止符を」
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「フォード再び」

 *


「思った通り、監視の目が張り巡らされていますね」


 監獄を見張っていた門番の目を上手く盗み、無事に通り抜けた俺達。しかしその先でも、傀儡と化した兵士達が城の中で巡回を行っていた。


 俺達は彼らに見つからないように抜き足差し足忍び足で回廊を進む。時に壁に、時に柱に隠れ、チャンスを見つけては一気に通り抜けることの繰り返し。


「ああ。見つかるのは時間の問題だろうから、今の内に戦闘の心構えをしておくと良い」


「やれやれ。今ばかりは、我が国の頑強な警備が憎らしく思えてしまうな……」


 国の中枢を守る鉄壁の布陣は、普段こそとても頼りになる。しかし今回ばっかりは邪魔でしかない。味方につけると心強いが、敵に回すと厄介なのだ。


 これだけの戦力を前にしていざ戦闘となったら、切り抜けるのが大変だ。いくらこの精鋭とはいえ、敵を気絶させながら戦うのにはかなり骨がいる。


「……しっ、誰か来るぜ」


 と、マルク君が何者かの接近を察知し、人指し指を口元に当て俺達に沈黙を求める。俺達は咄嗟ながらもそれに従い、壁に身を潜め、俺はそこからほんの少しだけ顔を出して向こう側の様子を伺った。


 するとそこには、俺達が探し求めていたあの人物の姿があった。金髪に褐色の肌の、二つの槍を装備せし屈強なる戦士――"フォード"将軍。


「……」


(アイツは……フォード!?)


(思ったよりも早く見つかったな……だが、なぜこんな所にいる?)


 フォード将軍はあの時俺達の前に突如としてその姿を現し、イクシスに怪しげな術をかけて彼女の心を闇に閉じ込めた、謎多きサンメラ王国の将軍だ。


 二つの槍を巧みに扱い、圧倒的なパワーで周囲の敵を蹴散らす。その高き実力の片鱗を俺も味わったが、まるで歯が立たなかった。聖剣を手にした俺をも軽く往なしてしまうあの槍さばき……彼は、俺が今まで戦ってきた戦士の中でも随一の強さを誇っている。


 俺が今回この城に乗り込んだ理由は、このフォード将軍と話をするためだ。彼がそこにいるのなら話は早い。しかし、今飛び出したりしたら周りの兵士が勘づくだろう。それに、フォード将軍がまともに俺達との会話に応じるかどうかも……。


「……そこにいるのは分かっているぞ」


「ッ!!」


 ……と、フォード将軍に近づくための策を色々と考えていたら。


「ふんッ!」


 槍が一閃、飛んできた。


「くっ!?」


 俺はその迅速なる一撃を間一髪でかわす。あと一瞬反応が遅れていたら、あの槍で顔を貫かれていた。虚空を突き刺したフォード将軍の鋭槍は俺の眼前で鈍色に光っている。


 やがて槍が引かれると、壁の向こう側からフォード将軍が出て来て、俺達の前に立ちはだかった。その無なる表情で俺達を冷たく見下ろしている。俺達はひとまず立ち上がり、彼と対峙した。


「おいおい、なんだありゃ。あんなデケェ二つの槍を両手に持ってやがるぜ」


 マルク君は、その初見にして圧巻たる光景を見て戦慄する様子を見せる。これだけの大男があれだけの大きな槍を両手に携えている姿というのは中々に迫力満点だ。下手な魔物よりもずっと恐ろしい。こうして目を合わせている時の絶望感が半端ではないのだ。


「フォード……なぜ私たちがいるのが分かった!?」


「気配で感じ取れる」


 サンメラ王国の将軍同士の会話は緊張感に溢れていた。特にイクシスは、仲間だったフォード将軍に裏切られたショックもあり、かなり攻撃的な態度をとる。対してフォード将軍は悪びれる様子もなく、已然として寧ろ極めて冷静だ。


「まぁ良い。俺達はフォード将軍。貴方に用があってここまで来た」


「フォード将軍……貴方は誰に操られている?」


 俺はひとまず無駄な会話を避け、彼に単刀直入に尋ねる。それは、この事件の黒幕に迫り得る質問だった。まあ正直に答えてくれるとは更々思っていないが。


「……俺は操られてなどいない。全てはホルス様のために。俺の行動原理はそれだけだ」


 フォード将軍の回答はそれだけだった。ホルス様のために、ということはつまり、全てホルス様の命令で動いたまでのことと言いたいのだろうが……俺は騙されない。


「……それは、ホルス様に罪を着せるための嘘だろう」


 俺は看破しているつもりだ。この事件の真の黒幕はホルス様ではないことを。


「何の根拠があって言う?俺はホルス様に虚偽の罪を被せるような真似は絶対にしない」


 フォード将軍は俺の揺さぶりにも全く動じることなく、ただただ淡白な応答を繰り返すだけ。だが俺は、決してそういう意味で彼に言ったわけではない。


「……勘違いしないでくれ。フォード将軍がホルス様に罪を被せているとは誰も言っていない」


「何……?」


 そう、ホルス様に罪を被せようとしている者は別にいる。フォード将軍もまた、その者に騙されているだけにすぎない。ホルス様の命令で動いていると、そう思わさせられている。


「どうやら貴方には、自分自身で操られているという自覚が無いようだ。まあ、マルク君もそうだったが」


「何を訳の分からないことを……!」


 確かにややこしい話だ。だが俺には察しがついている。敵はホルス様に罪を被せたうえで、ホルス様の名を用いてサンメラ王国の人々を手中に収めているのだ。


「……アイザック、どういうことだ?」


「恐らくだが、敵はホルス様にとり憑いて、ホルス様の皮を被って国民全員に呪術をかけた」


「操られた人々が皆一様にホルス様の名前を連呼するのは、恐らく敵がホルス様に罪を着せるためにそうするように刷り込んだからだろう」


 これが俺の推理だ。周囲にホルス様の仕業と認知させることによって、敵は自らの存在を伏せている。自身が罪を背負わないために。全ての罰をホルス様に向けるために。


「なんて卑劣な……」


 イリアは俺のその推理に同調し、率直な感想を述べる。そう、俺の予想が的中していれば、敵は相当に狡猾な性格の持ち主だ。そして、断じて許されることのない行いをした。


「……俺がホルス様以外の者に従わされている。そう言いたいのか?」


「ああ」


「戯けたことをッ!」


「ッ!」


 と、俺の考えを聞いて激高したフォード将軍が俺に向かって槍を走らせる。俺はこれを回避し、鞘に手を伸ばして臨戦態勢を整えた。


「俺はホルス様以外には決して従わん……!」


 ホルス様以外の誰かに従わさせられていることを信じようとしないフォード将軍。その言葉からは、ホルス様に対する心からの敬意が窺える。


「フォード……」


 イクシスは、彼の中に残りしその忠誠心を目の当たりにして少し安堵したような表情を浮かべたが、素直に喜ぶことができない。そんな彼は今、俺達の敵として立ちはだかっているわけなのだから。


「……操られていてもなお主君を敬うその精神。見事だ」


「貴方は素晴らしき将軍だ……すぐにその目を覚ましてやろう」

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