「天命」
「しぶとい奴め……!」
互いに極限の状態で行われる戦闘。しかし、魔石を手にしたことによって剣の呪いを緩和できたことは俺にとって大きな追い風となった。
この時まさに文字通り、風に吹かれたような感覚を味わった。好機という名の旋風が巻き起こった時、反撃の攻勢が始まりを告げる。
「はぁぁぁっ!!」
一太刀に込められる使命への想い。呪いの炎は確かに俺の腕を蝕んでいるが、左手に握っている魔石が同時に俺に癒しの力を送っているため痛覚は相殺されている。
だが俺はふと思う。魔石の力に頼ってまで聖剣を握り続ける意味は本当にあるのか。これだったらもう、普通にそこそこ上質な剣を振るっていた方がマシなのではないだろうか。
だが俺は、その自問ごと切り裂くかのように剣を振るった。その一撃は彼の鉄製の鎖鎌にヒビを入れる。
「くそォッ!?」
そうだ。確かに聖剣は俺の腕を焼く。ハッキリ言って効率が悪い。だが、俺は聖剣のそういう所も含めてこれを握ると決心した。この痛みこそが、俺が天命を全うするための原動力となっているからだ。
「確かにお前は強い……だがな!」
「守ってきた者の数も、守れなかった者の数も、お前より遥かに多い自信が俺にはある!」
「それは決して誇れることばかりではない。寧ろ、褒められたものじゃないことの方が圧倒的に多いのかもしれない」
俺は彼に語る。バレア王国の将軍である俺がこれまでの人生で背負ってきた誉れと苦悩を。確かに彼もまた、この路地裏で仲間達を幾度となく守ってきたのかもしれない。しかし、彼はまだ子供だ。
先程までの彼の余裕のある態度から察するに、彼はまだ失ったことがない。今のところ、全てを守り通してきている。いや、魔物の呪術にかかっている地点でそうとは言い難いが、仲間を死なせたことは恐らくまだない。それはきっと素晴らしいことだろう。
だが、失った者が何も無い戦士がじゃあ強いかと言われれば、そうではない。失ってしまったことを正当化することは絶対にしないが、俺はこの長い苦痛の日々を経て確信していることがある。
「しかしそうした記憶と経験の全てが、俺の糧となっている!」
そう、苦難の数だけ人は……更に強くなるのだということを。
「だからお前には……負けない!」
だからこそ……負けたくない!
「ッ……!?」
「これで決める……食らえッ!」
想いも、叫びも、何もかも、全てをこの一太刀に乗せる。どんな呪文よりも効果的な、俺だけの魔法。犠牲を回想する度に覚醒を続ける力。それだけは、この少年には勿論、イクシスにだって誇れるものだ。
「!!鎖鎌が――」
そしてその一閃は、彼の魂ともいえる鎖鎌を見事弾き飛ばす。聖なる光の炎はここに極まった。無防備になり怯む彼。俺はその隙を見逃さなかった。
「ハァッ!」
最後に俺は、魔石を握った左腕で彼の腹を殴打した。
「がはっ……!?」
彼は唾を飛ばし、直後、腹を押さえて痛みに苦しむ様子を見せる。やがて……。
「そ、そんな……この俺……が……」
……全ての力を失い、倒れた。俺はこの子に勝ったのだ。息切れしながらも、何とか。
「そ、そんな……あの"マルク"がやられた……!?」
「ごめん!」
「あっ……」
リーダー格の少年がやられたことによって、他の子達の攻撃の手が止まったところをイリアは杖で彼らの体を軽く叩いて気絶させた。
一番最初に気絶させられたあの女の子は、彼のことを"マルク"と呼んでいた。そうか……彼の名はマルクというのか。
「ふー……これで先に進めますね!早くイクシス将軍を助けましょう!」
と、敵を掃討して束の間、イリアはイクシスを救出するべく彼女のもとへ駆けつけ、早速薬による治療を始めた。
とりあえずこれでひと安心と言ったところか。イクシスの体力も徐々に回復しつつある。彼女が健常になり次第出発しよう。
……とも思ったが、俺にはここで少しやってみたいことがあった。
「ああ。それは勿論だがすまん。先に進む前に、少し良いか?」
「え……?」
*
「はーい!またまた呼ばれてやって来ました!薬屋のルスワールだよー!」
「って!?え!?何この死屍累々!?」
俺がルスワールちゃんを呼ぶのは初めてだったハズだが……"またまた"、ということはもしや、以前にイリアが何かのためにルスワールちゃんを呼んだということなのだろうか。まあそんなことは良い。
俺が今回ここにルスワールちゃんを呼んだ理由は一つ。
「皆気絶しているだけだ。この子達を治してやってくれ」
この子達の治療だ。診察も併せて行ってもらい、この子達にかかっている呪術の類いも取り除いてもらう。流石にこのまま放置しておくのは可哀想だ。
「いきなり呼ばれたから何が何だかさっぱりだよ……まあ良いや、お仕事だからパパッとやっちゃうね」
飲み込みが早くて助かる。俺は彼女に治療と解呪を任せ、それと同時に城に行く前の最後の休憩をするよう二人に促す。二人は頷き、その辺の地べたに腰をかけ力を抜いた。だがイクシスは一人、この初対面の少女を不思議に思うかのような眼差しで見つめている。
「アイザック。この少女は……?」
「ああ、イクシスは初めてか。あの子はルスワールちゃん。ドラドカの街の薬剤師だ」
俺はイクシスに、ルスワールちゃんを紹介した。
「ルスワールちゃんが作る薬はどれも一級品でな。俺達が普段使っている回復薬なども全て彼女の店で購入した物だ」
「えへへ、いつもご贔屓にしてもらってるんだよ!」
ドラドカの街で噂をもとに巡り会った、凄腕の薬剤師。それがルスワールちゃんという人物だ。赤い髪のツインテールがトレードマーク。
とても明るい性格なので、こうして会話しているだけでも精神的に癒してくれる存在でもある。また、彼女を召喚する呪文を唱えることによって薬のデリバリーや、こうした出張の治療も行ってくれるというサービスぶりだ。まだ幼いのにかなり有能な子である。
「あんな幼い子が、この薬を作っているのか!?……だとすればあの子は天才の類いと言えるぞ」
「ああ、どれもかなり良質な薬だ。特に状態異常回復薬は、グラファのかけた強力な呪術をも治せる万能の薬だしな」
「ルスワールちゃんにかかれば、この子達にかかっていた呪術も直に解かれるだろう」




