「白髪の少年」
「来るぞ!」
「分かっている」
襲いかかる子供達。俺達は不本意ながらも武器を手に取り、戦いの体勢へと移った。俺は痛みに耐えながら剣を持ち、イリアは俺の背後につき引き続き援護。そしてイクシスはオーブを持つと、また新たな呪文を詠唱した。
「≪星の魔玉よ 籠手になれ≫!」
オーブは、彼女の命に従って"籠手"という武器に姿を変える。籠手は両手にはめて使う武器。手を固い物質で覆うことによって、格闘による一撃の威力を高めるのだ。
「籠手だと?……また変わった武装だな」
「斧や薙刀などといった斬撃系の武器では彼らを殺してしまう可能性がある。こういう時は籠手の方が小回りも効くし手加減もしやすいから良い」
イクシスが言うに、相手を斬りつける武器を使ってしまうと、彼らを殺害してしまう可能性があるのだという。確かにあの子達は先程の兵士と違ってかなりの軽装だ。それにかなり華奢である。あんな小さな体をあのデカい斧や薙刀で斬りつけたらどうなるか分かったものじゃない。
「なるほどな」
俺は納得し、逆に剣を装備している俺は細心の注意を払わなければならないだろうと自覚する。とはいえ、その辺りのことに気を使っていて逆に彼らにやられてしまうようなことがなければ良いのだが……。
「うおぉ!!」
と、だが残念ながら相手はそんな俺の配慮を考えることなく、容赦のない攻撃を仕掛けてきた。俺は一旦思考を止め、目の前の少年に意識を向ける。
彼が短剣を振りかざしたその瞬間、俺は彼がそれを振り下ろす前に行動した。剣を持つ右手に神経を集中させ、巧みに聖剣の刀身を動かし、彼の短剣を弾き飛ばす。そして相手が怯んだその隙に俺は彼の懐に素早く飛び込んで、肘打ちを彼の腹に叩き込んだ。
「ふっ!」
「うっ!?」
俺もイクシスと同様、出切る限り剣は使わず格闘によって相手を倒す選択をする。しかしながらこれはかなり精神的な労力が伴う。剣で敵の攻撃をかわすことと、やり過ぎない程度に敵を気絶させることを同時にやっているのだから。
多くの神経を使っている分、聖剣が常時俺に与えてくる持続ダメージもより一層デカく感じる。イリアが回復に徹してくれているため幾分マシにはなっているが、普段よりはその効き目も薄い。
だが、そんな集中力が早くも切れそうな俺とは対称的に、イクシスは相変わらず圧倒的な力でかつ器用に子供達を気絶させていく。
「はっ!」
「うぁぁっ!!」
「せいっ!」
「あああっ!」
彼女は剣術や砲術だけでなく、武道にも長けているらしい。もはや魔導士とは何なのかを軽く考えさせられるが、彼女は目にも止まらない早さで、棍棒を持った少年とムチを持った少女を沈めてみせた。
「操られているとはいえ、やはり子供を相手取るというのは気分の良いことではないな」
「仕方のないことだ。ここは心を無にして、ただひたすら成すべきことのために戦っていくしかない」
情と使命の狭間で揺らぐ俺の心。するとそこへ、突如として銀色の残像が俺の視界に出現した。
「はッ!」
「うおっ……!?」
まさに文字通り間一髪で、頭を微妙に反らすことでそれをかわす。前髪が少し切れ、目の前で離散した。スローモーションのようにその光景が目に焼き付く。俺はあまりの臨場感に肝を冷やした。
若干よろけながら、俺は残像が飛んできた方向に目をやる。するとそこには、鎖鎌を携えながら舌打ちをする一人の白髪の少年がいた。
「あの子、さっきの鎖鎌の子じゃないですか?」
鋭い目付きで俺達を睨み付けている少年。あの眼には、殺意や憎悪といった負の感情が沢山植え付けられいる。一目見ただけで分かる。
感情を冷徹に染められた幼き命は、俺達の前に立ちはだかり、俺達の息の根を止めようとする。邪な魔物の言いなりになって。
「アイザック。気をつけろよ。恐らくあいつは相当な鎖鎌の使い手だ」
「ああ。雰囲気で分かる。あいつは恐らくこの中で一番の実力者だろうな」
どんな集団にも必ず、最強と呼ばれる者が居るものだ。あるいはリーダーだったり、あるいは、そう。俺達のような将軍であったり、呼び名は様々あるが。恐らく彼こそが、この集団における最強の戦士なのであろう。オーラが他の子達と一線を画してる。俺には分かる。彼が越えてきた幾つもの修羅場を。
「お前らを殺す……ホルス様のご命令だ」
きっと、こうなる前は数々の困難をこの仲間達と共に進んできたのだろう。彼が中心となって。しかし今はそんな彼でさえ、魔物の術下になってしまっている。何とも見ていて胸の痛くなる姿だ。
「やれやれ……どうやらあいつには少々強めのシツケが必要らしいな」
イクシスはそう言い、拳を構える。刹那、少年は鎖鎌の矛先をイクシスに向け、電光石火の速度で刃を飛ばした。
「うぉぉぉっ!」
「甘い!」
するとイクシスはこれを、避けるのではなく、なんと平手打ちで刃を打ち返すことによってガードした。あんな芸当、凄まじいまでの精神統一を経なければなしえない神技である。あの速度で迫ってきた刃を、こうも簡単に返すとは、やはりイクシス恐るべきだ。
「くっ……今の俺の一撃を弾くとはな」
「伊達に将軍をやっているわけではないのでな」
余裕に満ちたイクシスの笑み、しかしここで少年もまたニヤリと不気味に笑う。
「ああ。流石だな。だが……これならどうだ?」
「何……?」
意味深な彼の言葉。すると……。
「!イクシス、真上だ!」
「なッ!?」
「イクシス将軍!」
……なんと彼女の真上から突如として、"魔法"が振りかかってきた。軌跡を辿っていくとその魔法は、後方の建物の3階ほどの高さの階層にある部屋から突然放たれたらしく、そしてその魔法はイクシスに直撃した。
するとイクシスの体が徐々に痙攣を始め、やがて自由に身動きが取れなくなってしまう。あれは、敵を痺れさせる電気の属性の魔法だ。あの少年は自ら囮となり、仲間の伏兵のサポートをしていたらしい。
「これで一番厄介な奴の動きを封じることはできた……今の内に、ホルス様のおっしゃっていた聖剣の魔族を殺すとするか」
操られていて自我を失っているにも関わらず、かなり巧みかつズル賢い戦術を使用する子だ。もしかしたら、操られる前から元より邪悪な性格だったのかもしれない。




