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魔族を蝕む聖剣の光  作者: うさぎボーイ
第五章 「地獄にも勝る悪夢に終止符を」
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「孤児達」

「……ッ!?」


 突然、鉄の衝突する音が聞こえた。微弱な振動が地面に伝わる。俺達は何らかの物体が地面に落ちたと察し、反射的に足元に目をやった。するとそこには……。


「これは……鎖鎌!」


 ……そう。鎖鎌があった。長い鎖の先端に、鎌独特の曲折した刃を取り付けた武器。刃を敵に投擲するようにして扱い、鎖を駆使してその刃をコントロールする。使い勝手にかなりクセがあるが、使いこなせばとても有用な武器だ。


 鎖鎌は石畳の地面に微妙な亀裂を入れた後、上へと引き上げられていく。俺達はその方向を目で追った。するとどうやら、前方の建物のおおよそ二階と思われる位置からアレが放たれたのが分かる。


「あの鎖鎌……どうやらあの窓から飛んできたらしいな」


「曲者がこの路地裏に潜んでいる。それも多数だ。多くの気配を感じる」


 イクシスは言う。ここには、あの鎖鎌の使い手だけではなく、沢山の敵がいると。つまりこの路地裏の道は、敵が仕掛けた罠だったというわけだ。


 確かにイクシスの言うとおりではあったわけだが、これだと例え静かにしていたところでどの道同じ目にあっていたことだろう。


 とにもかくにも、次はどこから急襲されるか分からない。俺とイクシスは武器を構えた。瞬間、いつものように俺の腕に痛みが迸る。しかしイリアの魔法によってその痛みは緩和された。


 そして俺達は八方に注意を向ける。いつ、どこから、何が飛び出してくるか。目から入ってくる情報は勿論のこと、音にも耳を澄ませて。


 ……すると、ここでようやく敵がその姿を見せた。


「……全ては、ホルス様のために」


 その敵は案の定、他の者と同じように呪詛のような言葉を口ずさんでいたが。


「お前か!」


「……って」


 ただ、その者達の声はとても幼く。その者達の背丈は低く。その者達の表情は垢抜けていなかった。その者達は……子供だった。


「……おい、イクシス」


「この子達は……子供じゃないか」


 俺達はひどく驚いてしまった。こんな薄暗い街の影で、こんな年端もいかない少年少女が術にかけられてしまっているなんて、と。


 また、驚いたのはそこだけではない。皆、なんとも痩せ細った体で、まるでぼろ雑巾を縫い合わせたかのような古い服を着ているのだ。この外見的特徴から察するに、彼らは貧民層の子供。それも最も最悪な……"アレ"だ。


「全ては、ホルス様の……」


「ホルス様の……」


「ホル……」


 皆、一様に俺達を見つめている。何かを欲するかのような、あるいは何かを妬んでいるかのような、はたまた何かを恨んでいるかのような、そんな、負の感情が詰まった光なき瞳で。


「皆、武器は持っていますが……子供ですね」


「……二人には、この国の闇を見せてしまったな」


「……孤児か」


 そう、彼らは恐らく孤児という存在だ。どの国でも必ず持ち合わせる、逃れられない格差が生む闇。親を失った子供は、心優しい誰かに引き取られない限りは苦難の人生を強いられることとなる。


 かつての俺もそうだった。当時、人々から忌まれに忌まれた魔族として生まれた俺は、親に捨てられ、路頭に迷っていた。そこをエリス様に拾われたわけだが……あの時エリス様に救っていただかなければ、俺は今も闇の中だっただろう。もしかしたら最悪、死んでいたかもしれない。


「サンメラ王国では貧富の差が激しい。貧しい家庭に生まれた子の中には親に捨てられ、このような路地裏をさ迷っている者もいる」


 孤児は、様々な困難と常に隣り合わせだ。飢餓や迫害は勿論、孤独感に耐えかね自決する子だっている。俺のいたバレア王国では、そういった孤児の救済に積極的に取り組んでいた。俺という存在があったからだ。


 だがこの国では、まだそういった孤児救済の動きがまだ無いらしい。外部からの敵に強い分、内部のいざこざには余り手がつけられないのだろう。


「そんな……」


 あまりに酷い話だ。生まれてきた子には罪はないというのに、ほんの少し人より小汚ないというだけで迫害の対象にされる。本当に忌まれるべきはそういう排斥主義者だというのに。


 だが、俺達はフォード将軍に会うために先に進まなければならない。こんな小さな子供が相手とはいえ、彼らが行く手を阻むというのなら、押し通させてもらうしかない。


「……俺達はここで立ち止まるわけにはいかない」


「相手が武装している以上、戦わずしてここを突破する方法は無いだろう」


 俺は、彼らを殺さないことは前提にしつつ、彼らと戦うべきだと言う。


「じゃあ……戦えというのですか。こんな年端もいかない子供達と」


 しかし、心の優しいイリアは俺のその意見に反発した。戦うべきか、戦わないべきか。俺とイリアが口論しそうになったその時、その会話に割って入ってきたのはイクシスだった。


「……言っておくがイリア。子供だからといって彼らを侮らない方が良い」


「イクシスさん……?」


 イクシスは声のトーンを低くして、イリアに忠告するような口調で語りかける。彼女は"彼らを侮るな"と言った。はじめイリアは彼女のその言葉の意味が分からなかったが。


「あの子達は皆、路地裏という闇の中を懸命にあがき、生きてきた……いわば、戦士だ」


「恐らく、我が国の並の兵士よりは、一人一人が断然強い力を持っている」


「……!」


 ……"路地裏を生きてきた戦士"、彼らをそう例えられたことによってイリアは、イクシスの忠告の意味を理解したかのような、そんなハッとした表情を浮かべた。


 そう。イクシスの言う通り、彼らは哀れな孤児であると同時に、地獄のような環境の中でも必死に生き延びている戦士でもある。特に彼らのように武器を持っている孤児は、ありとあらゆる修羅場を潜り抜けている可能性が高い。


 少なくとも、向こうが戦う気である以上は、俺たちに戦わないという選択肢は無い。なぜなら、防戦一方の俺達を殺すことなど、彼らにとっては簡単なことだからだ。

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