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魔族を蝕む聖剣の光  作者: うさぎボーイ
第四章 「星々が如く煌めきの少女」
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「届け。この想い」

 闇が高まるごとに、光もまたそれ以上に高まる。俺は光の炎纏いし刃をイクシスに振るった。彼女を殺すのではなく、彼女を取り戻すために。しかしイクシスはその一撃を斧を構えてガードする。


 だが俺はその刹那、すぐに剣を斬り返して彼女との距離を取り、体勢を変える。今度は深く腰を落とし、イクシスの足元を払った。


「ッ!?」


 これには流石に対応し切れなかったイクシス。転ぶとまではいかなかったが、体勢を微妙に崩すことには成功した。その隙を突いてイリアが再び呪文を詠唱する。



「≪敵を凍てつかせよ、聖杖よ≫」


「≪絶対零度の氷にて≫!」


 目の前の大気の温度を急激に下げることで敵を氷結させる氷の呪文が彼女の透き通るような声で響き渡った。瞬間、辺りが凄まじい冷気に包み込まれる。


「ぐっ、これは……!?」


 瞬間、イクシスの腕や足が氷付けになり、徐々に動かなくなってきた。これでは斧を持つことができず、斧は小さい音を立てて地面に落ちる。彼女が武器を手放した今がチャンスだ。


 俺はこのまたと無い機を逃すことなく、腰に下げたポーチから状態異常回復薬を取り出す。ルスワールちゃんの店の印が施された特効薬だ。聞けば、あの時アレックさんをグラファの呪術から解き放ったのもこの薬だったらしい。


 俺はこの薬がイクシスにも効くことを祈った。そして開栓し、蓋を投げ捨て中身の液体をイクシスの口元に流し込む。イクシスは抵抗の意思を示したが、氷付けの体では満足に俺を妨害することもできない。とにかく俺は、彼女が頭まで氷結する前に薬を飲ませることに専念した。


 やがて瓶の中の液体が尽きる。全ての量を彼女に余すことなく与えたつもりだ。後はこれが効果を成すかどうかだが……。


「くっ……うぅ……ウゥァァァァァッ!!」


「イクシス……!」


 イクシスが激しく苦しんでいる。氷付けの体にも関わらず彼女は凄まじい悶えようを見せ、絶叫をあげながら俺を見上げていた。その瞳は、この少女が本来持つ瞳ではない。凶悪な魔物のそれだ。彼女は未だ邪な何かに精神を支配されている。だが、今苦しんでいるのが彼女ではなく、その邪な者だとしたら……。


「……っ!」


 ……ふと俺は、剣を左手に持ち変え、イクシスの震える右腕をそっと右手で掴んだ。


「!?……は、放せ!」


「放さない」


 俺のその行為を拒もうとするイクシス。しかし俺は彼女の細腕を放さない。なぜなら、今、俺の右腕には剣の聖炎が燃えたぎっているから。この炎を彼女に伝えれば、彼女の中の闇を聖剣に宿りし光が滅してくれるハズだ。


 状態異常回復薬のお陰で、イクシスの中の闇はかなり弱っている。しかしトドメはまだ刺せていない。このままではまたすぐに力を取り戻す。そうなる前に、俺がこの炎で――


「絶対に放すものか……!」


 ――彼女の闇を、祓う。


 俺はもう、仲間を失うわけにはいかない。俺は彼女の腕を掴むどころか、彼女を強く抱き締めた。そうでもしないとこの闇を芯まで焦がすことはできない。イリアの慌てて止める声が一瞬聞こえたが、俺は聞こえないフリをしてでもイクシスを手放さなかった。


「うわぁぁぁぁっ!!やめロォォォォッ!!」


 イクシスを抱く俺の全身を、聖剣の炎が飲み込む。相変わらずその炎は熱く、おまけに今はイリアが回復魔法を止めてしまっているために皮膚がどんどん火傷によって傷ついていく。


 しかしそれでも俺は、この代償を背負ってでもイクシスを取り戻そうとした。なぜならイクシスは、俺達の大切な仲間だから。


 言うことを聞いてくれなくたって良い。好きに生きれば良い。俺達と共に来てくれるだけで、俺はどんな強敵にも勝てる気がするんだ。


 だから戻って来てくれ、イクシス……!


「……ううっ、うぅぅっ」


 ……やがて、イクシスの苦しむ声が止む。俺は彼女を抱くのを一旦中止し、彼女の表情を観察した。すると俺の目の前にあったのは、将軍としての彼女をまるで思わせない、無垢なる少女の安らかな寝顔だった。


「イク……シス……」


 正気に戻ったのか、あるいは……いや、そんなことはあってはならない。彼女はこの程度で死ぬ玉では無いハズだ。


「イクシス!」


「イクシス将軍!」


 俺達は必死に彼女に呼び掛けた。武器ももう必要ないから手放した。今は彼女が目を覚ますように声をかけることだけに注力するべきだ。


 声が枯れるまで叫んだ、その末。彼女の瞼は……。


「……っ」


「アイ……ザック……?」


 ……ようやく、奇跡的に……開いてくれた。


「イクシス!!」


「良かった!」


 俺達は成功した。彼女を……大切な仲間を、闇から救い出すことに。


 *


「そうか、私は……お前達に危害を加えていたのか」


「いや、アレは恐らく、フォード将軍がお前にかけていた呪文のせいだ。お前が気にすることは――」


「だがだとしてもだ。私はお前達を手にかけようとした。それだけは紛れもない事実だ」


 イクシスを救い出したのも束の間、彼女は自分がしてしまったことに対しての自責の念に囚われてしまっていた。実質操られていたようなモノなのだからイクシスが悪いことは一つも無いのだがな……参った。


 どうやって彼女を励ませば良いのか分からず、かける言葉に悩む俺達。するとイクシスは突然オーブを短剣に変えた。そしてそれを俺に手渡してこう言い放った。


「私の首を切れ。それが私にできるせめてもの償いだ」


「いやどんだけ思い悩んでいるんだ!?」


 いくらなんでも思い詰めすぎだろうと、思わずツッコミじみた台詞を言ってしまう。というか、今ここでイクシスの首を切ったらせっかく助けた意味が無くなってしまうだろう。それに……。


「バカな真似はよせ。イクシス。俺達なら本当に大丈夫だ」


「俺達は……お前がこうして正気に戻ってくれただけで十分だ」


 ……今ここにイクシスとイリアがいる。俺は少なくともそれだけで満たされている。何の償いも必要ない。なので俺はイクシスにナイフを返した。

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