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魔族を蝕む聖剣の光  作者: うさぎボーイ
第一章 「その魔族が聖剣を手にするまで」
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「圧倒的な力」

「王をお守りしろッ!」


「おおッ!」


 魔物たちが城に侵入するやいなや、死闘が勃発する。


「ここは任せたぞ、エリス、アイザック!」


 護衛の対象であるゴライアス様はそう言い残すと、数人の兵士を連れてまずはこの場から逃走なされた。それを見届けた俺たちは、ついに自らの剣でこの神聖な王室を真紅の血で塗らすという罪を犯す。


「はぁッ!」


 俺の愛剣―グランが唸る。振り下ろされた銀の刃は魔物の肉に触れると、それを圧倒的な殺傷力を以てして引き裂いた。瞬間、響き渡るは魔物の聞くに堪えない醜悪な断末魔。嫌でも耳に入ってくる雑音を脳内でかき消しながら、俺はグランと共に戦場をかけ抜けていく。


 真紅の絨毯を上塗りする鮮烈な血の雨。赤が赤を侵食するのと同時に、襲い来る敵を次々と斬り伏せる。


「ギャアアアアッ!」


「ぐわあああぁぁぁっ!」


 両軍は共に、悲鳴の連続。人間も魔物も、死ぬ時に出す声の色はさほど変わらない。


「ぐは――」


 今、目の前で兵士が魔物に殺された。


「はぁッ!」


 その直後に俺は横から乱入し、兵士を殺った魔物を剣にて瞬殺。


「ギャオオォォッ!?」


 真一文字の切り傷を刻まれた魔物はそこから大量の血潮を撒き散らした後、程なくして絶命。最後に短い吐息をし、力なく先ほどの兵士の上に覆いかぶさるようにして倒れこんだ。結果的に俺は、彼の仇を取ったことになる。


「……ッ」


 魔物の骸の下で眠りにつかなければならない彼の無念は如何程のものか。だが、それを考えている余裕はない。


 今はただ、敵の数を減らすことでしか……。


「……うぉぉぉぉっ!」


 ……彼の無念を晴らすことはできない。


 斬って、斬って、斬り続ける。そんな途方無き殺戮の中、名乗りを上げる者が一人。


「我は≪魔王≫様直属の将軍、≪ファランクス≫なり!」


「勇者の血を引く者よ……ただちに我の前に来るがいいッ!」


 先ほどの一際目を引く大悪魔のような魔物……名を、ファランクス。奴は、この時の俺たちがまだ聞いたことのなかった言葉を言い放っていた。≪勇者≫だの、≪魔王≫だの。


 俺たちがこれらの言葉の意味を知るようになるのは、この戦いが終わってからのことである。この時の俺たちは、ただひたすらに、この魔物の圧倒的な威圧感に戦くのみであった。


「勇者?」


「なんのことだ……?」


 兵士たちがその単語に困惑する最中で……。


「……ッ!」


 ファランクスの目に、ふと、戦場を華麗に駆ける一人の戦姫の姿が映る。……いや。今思えば、その時彼が最も目を向けていたのは彼女ではなく、彼女が――エリス様が装備していた聖剣・≪アポロ≫だったのだろう。


「……ククク」


「見つけたぞ……勇者の血族よッ!」


 魔物将軍は、まるで絶好の得物を見つけた鷹の様に、洗練された狩猟の構えに移る。光らせた眼光に狂いなし。標的を定めるや否や、彼は王室の床を思い切り蹴って――


「ヌンッ!」


 ――猛進。


「ファランクス様!?」


「何ッ!?」


 その進撃は、敵も味方も無差別に貫いた。


「グギャアアアアッ!」


「あいつ……自分の部下達まで巻き添えにしているぞ」


「や、やべぇ……」


 軍勢が密集していた王室内は一変、嵐の様に過ぎ去ったファランクスの直進によってむりやりこじ開けられ、一気に空白が目立つように。


 奴が刹那に築き上げた死屍累々の山。


「っ……」


 その凄惨な光景を目の当たりにして、俺は運よくそこから離れていて助かった他の兵士共々息をのむ。そして、戦慄した。仲間の命も顧みない……なんて卑劣で、残酷で。


 ……圧倒的な実力の持ち主なのだろう、と。


「ハァァァァァッ!」


 ファランクスは、自らが携えし大剣を大きく振りかざした。


「!」


 一方、その間際にようやく奴の接近を知覚したエリス様は、振り向きざまに剣を腰元に構え。


「やぁッ!」


 掛け声と共にファランクスの懐へ飛び込み、一閃。


「グウ!?」


 アポロの刃を奴の腹に食い込ませると、そのまま一気に振りぬいて抉り返した。己を赤く染める返り血にも彼女は全く動じておられる気配がなく、凛とした表情で痛みに悶えるファランクスを見つめる。


 腹をおさえ、出血を塞ごうとするファランクスだったが。


「なぁに休んでるのさ!」


 すぐさまエリス様は追い打ちをかける。アポロをかかげ、今度は奴の腕を切り裂くべく縦一文字を描いて刀身を振り下ろした。


 だが、奴もやられっぱなしではない。


「甘いぞ……小娘ッ!」


 ファランクスは腹を未だ抱えつつも、片腕のみで大剣を持ち上げ盾の様に扱い、アポロの斬撃を防ぐ。


「くッ!?」


 そして攻撃を妨害されたエリス様は、あの見上げるような大きさの大剣に弾かれ、大きく体勢を崩してしまう。その隙を突いてファランクスは、まんまと立て直した。


「なんて硬さだよ……私の手が震えるなんて」


 エリス様の右腕には未だ、弾かれた時に発生した衝撃による痺れが根強く残っていた。奴の堅牢な守りは、あの頑丈な大剣だけではなく、それを支える奴の鍛え抜かれた肉体からも生み出されているのだろう。


 生物が持つ筋肉と金属の足し算は、単純明快ながらに凄まじい効果を発揮する。特に奴の場合、その合計はまさに桁違いだ。姫騎士と恐れられたあのエリス様でさえ個の力で奴に劣っているとなると、もはやこの城内で奴に太刀打ちできる者はいない。


 ならば、俺が加勢するしかない。


「うぉぉぉッ!」


「ギャァァッ」


 余計な敵を連れて来ぬようあらかた魔物を掃討した後、俺はすぐにエリス様のもとへと走った。人、魔物……ありとあらゆる屍を越えて。


 死体を踏み潰すと、血が足の裏にまで染みこんでくるのが分かる。身も心も、俺は既に真紅だった。そしてその濃さが増す度に、俺の中の修羅の精神が顔をのぞかせ始める。


「ウォォォォォォァァァァッ!!」


 それは、魔族として生を受けたこの俺が生まれながらに心に秘めている、魔族特有の邪悪な闇。俺が感情的になる程にその闇は膨張を続け、やがてそれは敵を穿つ力へと昇華する。


 咆哮の瞬間、ついに爆発した闇はグランの刃先へと宿った。そしてグランは唸りをあげ、俺の描いた軌道に沿って迸る。


「ッ!?」


 標的は無論、ファランクスだ。奴の死角から一気に間合いを詰めた俺の攻撃は不可避の強襲。


「グハァッ!」


 グランの一撃は、エリス様の刻んだ切り傷に交差するようにして直撃する。切れ味を喰らったファランクスは悶絶し、再び腹部を抑えた。


 その隙を見逃さなかったエリス様は腕の痺れを振り払い、もう一度ファランクスに斬りかかる。


「はぁぁぁぁっ!」


 俺もそれに続いた。


「うおぉぉぉぁぁっ!」


 俺とエリス様の両方に包囲されたファランクスは、まさに孤立無援の状態。確かに単体の力ではこいつに勝らないだろうが、二人がかりでファランクス一体なら倒せるハズ。


 アポロとグランは共に王国最高の名剣なうえ、使い手はそれぞれ王国最強の二人だ。そして、俺とエリス様がひとたび戦場で徒党を組めば、そのコンビネーションは向かうところ敵なしと言われる。


 そう……この時の俺たちには、あらゆる面から見て勝算しかなかった。


「うぉぉぉぉっ!」


「やぁぁぁぁぁぁぁっ!」


 ついに、アポロとグランによる同時攻撃が放たれる。


 勝った。俺は確信した。


 当たれば一撃必殺になるであろう威力の攻撃と、それを回避不能にする現在の圧倒的優勢な戦況。俺たちとファランクスのアドバンテージの量を比べれば、もはやファランクスに打つ手はなかった――


 ――ハズだったのだが。


「……」


「……ククク」


 このファランクスの不敵な笑いの後。俺たちの勝利のビジョンは、一気に崩されることとなる。


「剣を振るうしか能のない猿共に、一つ良いものを見せてやろう……」

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