「双炎の激突」
「……っ」
聖剣の打つ鞭に耐えつつ、俺はイクシス将軍の方をじっと見つめる。一方で彼女は、自らの身長に匹敵する全長の得物を何とも涼しい顔で持ちながら俺との間合いを徐々に詰めていく。そして、次の瞬間彼女は床を強く蹴って、急激なスピードで加速してきた。
「行くぞッ!」
その宣言は、戦闘開始の合図。臨戦体勢に切り替えた彼女が最初に行った攻撃は、斧を振りかざしてから思いっきり振り下ろす攻撃。この時俺は、その攻撃の速度に驚愕した。
「ッ!?」
巨大な斧であるにも関わらず、振り抜く速度は剣……それも短剣のように速い。先程イクシス将軍は、この斧を振るうのに力は必要ないと言っていたが……だからと言ってこの速さはあまりにもありえない。
少なくともこの大きさの鉄塊であれば、どんなに軽い材質であっても振る際に風の抵抗を受けてある程度スピードが落ちる。だが、彼女のあの斧は……そう。風の抵抗を全く受けていないように見えるのだ。
「ぐっ!?」
間一髪で彼女の攻撃をガードする。アポロを横に構え、斧の縦一文字に斬る攻撃を防いだ。その時俺は、彼女の斧を間近で目に映したが……。
「……なんだ、この斧は……ッ!?」
……この斧の表面、よく見てみると金属のモノでは無いことが分かる。ではこの斧は何から出来ているのか。しかし俺には、その答えは分からなかった。
なぜなら、それは今までの人生で全く見たことのない代物だったからだ。ただ一つ、パッと見の見た目から言えることがある。この斧は、まるで……星々が煌めく夜空のようであった。
「ほう。今のを防ぐか……流石と言いたいところだ」
そう言うとイクシス将軍は、バックステップを踏んで再び俺との距離をとる。すると彼女は、今度は呪文の詠唱を始めた。
「≪火星の王よ 烈火が如く舞え≫」
瞬間、彼女の膨大な魔力が解放され、その全てが灼熱の炎と化した。そしてその炎は斧に取り込まれていき、斧がそれによって炎の属性を宿して紅く光る。
(火星……)
バレア王国の天文学者の話で聞いたことがある。火星とは、我々が住んでいる星とはまた違った場所にある星……確か、惑星と呼んだか。
惑星には他にも様々な種類があるらしいが……彼女の唱える呪文は、その惑星にまつわるモノなのだろうか。そうだとすれば、あの斧の星雲のような模様にも何となく納得がいく。
「聖剣の炎と火星の炎……どちらが真に強い炎か、試してみようじゃないか」
今の彼女の戦いは、本気の鍔迫り合いというよりは試験などで行うようなシミュレーションに近いものがある。どうやら、単純な勝ち負けだけで俺の力を量るようなことはしないようだ。彼女の中である程度納得がいくかどうか……恐らくはそこにこの勝負の終結点がある。
「ぐっ……はぁ……はぁ……」
……どちらが真に強い炎、か。真に、という言葉に鑑みると、俺の聖剣の放つ炎は果たして真なるモノか、甚だ疑問が残るところだ。が、だからと言ってこの勝負、退くわけにはいかない。例え真なるモノでは無かったとしても、彼女の放つ火星の炎に勝てば力は証明される。
「ぐぅぅぅぅぅぅッ!!」
俺は内に眠りし激情に火をつけ、聖剣に俺の中の闇を伝達させた。すると聖剣は、俺のその闇に反応して、それを滅するべく噴火の如く聖炎を巻き起こした。
「アイザック様!」
「手出しするなッ!イリアァッ!」
「うっ……!」
いつもならここでイリアの回復魔法を頼るところだが、今回ばかりはイクシス将軍の為に俺の個としての力だけで戦わねばならない。俺は心を鬼にしてイリアの心配を振り払い、一心不乱に炎の出力をあげることだけに専念した。
「それが聖剣の炎か……なんと凄まじい迫力、そして美しいことよ」
「私の魔力を以てしても互角と言ったところか……」
そう言うとイクシス将軍は、火星が分け与えし灼炎を宿した斧を構え、再び接近してきた。
「さあ、受けてみるが良い!」
彼女のその進撃には一切のフェイント的動作が無く、正々堂々と俺に向かって真っ直ぐ突き進んでいく。
「はあッ!!」
彼女自身が真っ向から激突を仕掛けることによって、俺の全力を試そうとしているのだろう。
望むところだ。俺はこの戦いを制し、彼女に……イクシス将軍に。
「うぉぉぉぉぉッ!!」
力を……示してみせる!
剣と斧、衝突。刹那、辺りに凄まじい爆風を巻き起こしながら俺と彼女の力比べが始まる。お互いの放つ炎によって漂う超高温の熱気。砂漠のように陽炎が揺らぎ、それぞれの視界を揺さぶる。滝みたく沸き出る汗が床に落ちたとき、その汗は一粒一粒一瞬にして蒸発していく。
「ぐぅぅっ……!」
「くっ……!?」
イクシス将軍は、まさに"全身全霊"と言った感じの表情であった。そして、俺もまた同様であろう。この押し合い……恐らく、弾かれた方が事実上の敗者となる。そのことを悟った俺は、力の限り踏ん張って、イクシス将軍を押し返そうとした。だが……。
「――ッ!?」
「ぐわぁぁぁぁぁァッ!?」
ここに来て、聖剣が俺に牙をむいた。突然全身を迸った凄惨なる激痛。あがったのは咆哮のような悲鳴。痛い、痛すぎる。俺はこの痛みに耐えかねそうになりながらも、恐る恐る自分の腕に目をやった。すると、俺の腕は……。
「……あ……ああ!!?」
……なんと、皮膚が焼け焦げ、中の肉が露になっていた。




