「星の魔玉」
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イクシス将軍に誘われ、俺達は訓練室よりも更に下の階層へと進んでいった。先程以上に長い階段を下りたその先にあったのは、何もないがだだっ広く天井が高い殺風景な空間。
この部屋の名称は"実戦室"という。つまり、この部屋は兵士達が実際に戦闘のシミュレーションを行うのに使うのだ。この広さを利用して、本番さながらの戦闘経験を積むことができる。イクシス将軍が今回俺達をここへ案内したのには、彼女のとある"願望"がある。
「お前達の仲間になる前に、私はここでアイザックの実力を試しておきたい」
「即ち、私が従うだけの価値があるかどうか……それを見極めさせてもらう」
彼女が言うに、"仲間になること"と"従うこと"は別物らしい。仲間になるのは前提にしても、その後俺に従うかどうかは彼女自身が決めたいそうだ。
そして、俺にはそんなイクシス将軍の気持ちが理解できた。と言うのも、現在、彼女にとって一番の主は、恐らくはホルス様なわけであり。彼女が最も信頼を寄せるべき者であり、最も従うべき者なのである。
しかし彼女はこれから、ホルス様の下を離れて今日出会ったばかりの俺達と行動を共にしなければならない。彼女は……イクシス将軍は、俺達のことを信頼するためにも、俺の実力をここで見極めておきたいのだろう。
俺はイクシス将軍の意見に賛成し、頷いた。すると彼女は部屋の奥へと進んでいき、俺達との距離をとる。そして次に、彼女はこう言い放った。
「では勝負と行こう。アイザック」
「剣を取れ」
……そう。彼女が提案する見極めの方法、それは一騎討ち。俺と一戦交えることで、イクシス将軍は俺に従うか否かを決める。俺は、イクシス将軍に信頼してもらうためには、この勝負に勝たなければならないだろう。サンメラ王国最強の魔導士に戦いを挑み、勝利を収めるのだ。
「良いだろう」
俺はこの勝負を受けて立つ。その意思を示すべく俺は、彼女の言う通り腰に下げた鞘から一筋の刀身を引き抜いた。柄から吹き出るは魔を滅する封魔の炎。切っ先にて輝くは聖剣の光。
「ぐっ……!」
聖剣・アポロは俺にとって諸刃の剣。多大な攻撃力をもたらす代わりに、壮絶なまでのダメージを俺に与え続ける。
「その剣はまさか……≪姫騎士≫の?」
「知っていたか……そうだ。これは元々エリス様の剣」
「今はわけあって、俺が所持している」
エリス様……またの名を姫騎士が振るっていたこの剣は、他国の軍事関係者の間でも有名な代物。彼女は生前、このアポロを使って並みいる敵を次々と斬り捨てていった。
その圧倒的な強さは瞬く間に武勇伝となって各国に行き渡り、同時にこの聖剣・アポロもまた伝説の剣としてその名を轟かせた。尤も彼女亡き今、その伝説は途絶えてしまったことで廃れつつあるのだが……。
「……理由は後で聞くとしよう」
「では、行くぞ」
そう言うとイクシス将軍は、手にとったオーブを魔力で宙に浮かせ、何やら呪文を唱え始めた。"オーブ"……それは、ここ最近開発されたばかりの最新型魔法武装。
俺も名前だけは聞いたことがあるが、これの使い手と実際に戦闘を行うのは初めてだ。そのせいか、今の地点で既に俺の頬を緊張の汗が伝っている。自分にとって全く未知のものと相見える以上、油断は決して許されない。
「≪星の魔玉よ 斧になれ≫」
イクシス将軍は、オーブに命じるようにしてその呪文を詠唱した。すると、オーブの周りが突然眩しい光によって覆われる。俺は目に激しい刺激を感じて、咄嗟に手でその光を遮った。
やがて閃光が止んだ頃、俺は恐る恐る手をどけながら前方を見てみる。するとそこには……巨大な斧を携えたイクシス将軍の姿があった。あのオーブはどこに行ったかと思い、俺は若干あの斧に目を奪われながらもその行方を探す。
すると、あの斧の柄と刃を繋ぐ中間の部分……そこに窪みがあるようで、その窪みの中に先程のオーブがスッポリと嵌まっていた。
「驚いたか?これが最新鋭の武装・オーブの特徴だ」
「オーブに専用の呪文を唱えることによって、オーブはありとあらゆる武器にその姿を変える」
「しかもその武器は魔力によって操作するため、腕力は一切必要としない」
「己の魔力が許すまま、軽い力で強靭な武器を振るうことができる」
なるほど、あの斧はオーブの変形した姿なのか。……いや、変形というよりは、あのオーブを核として様々な形を作っているように感じられる。"ありとあらゆる"という彼女の言葉から察するに、あのオーブは斧以外の武器にも形を変えることができるのだろう。
変幻自在の武装というわけか……中々興味深い代物だ。俺は最初、オーブという新たなる武器の登場に少し恐れのようなものを抱いていたのだが、その感情はいつしか興奮に変わっていた。
戦局に応じて多種多様に武具を変形できるのは、戦いでは大きなアドバンテージとなるだろう。このイクシス将軍が仲間になれば、俺達はその力を得ることができる。
魔王討伐の旅に、大いに役立つことだろう。だが、問題はその力を従えることができるか否か。もしこの戦いに負ければ、俺はイクシス将軍の信頼を得ることができない。何としてでもここは、意地でも勝たなければならないのだ。




