「凛々しき少女はサンメラ将軍」
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階層は一気に下がって、ここは地下二階。この城は地下一階に監獄があるのだが、イクシス将軍のいる訓練室は更にその下にある。
勿論、だからと言って実際に訓練室に行く際には監獄エリアである地下一階を通過する必要はない。別の入り口から地下二階に通じる階段が設けられているので、そこを通れば良い。
俺達はその階段を今まさに下りている。ホルス様から頂いたこの城の地図に従って、訓練室までの道のりを辿っているのだ。俺達が今向かっている地下二階は、兵士達が訓練するための設備が集約されている場所と聞く。
勿論外にも訓練スペースはあるためそちらも使われているわけなのだが、特に魔法使い系の兵士はこの地下の訓練スペースを利用するのだと言う。
なぜなら、地下という空間は膨大な威力の魔法を試し撃ちするにあたって最適の環境だからだ。巨大な炎の弾丸を飛ばしたりするなどといった魔法は、もし万が一暴発や誤爆を起こした時、行った場所が野外であった場合は甚大な被害が予想される。
しかし地下であれば、暴発だろうが何しようが、的を外すだけで何の被害もない。一般市民への配慮をすれば、魔法兵は訓練を地上よりも地下でやった方が良いのだ。
「それにしても、地下なのに何となく明るい感じですね」
「床や壁が明るい色合いのタイルで張り巡らされているからだろうな」
「こうすると、照明で照らしたとき明るさがより際立つ」
そう。イリアの言うとおり、ここは地下なのに地上とあまり変わらない明るさを保っている。勿論、窓がないため地下特有の閉塞感は若干程度あるのだが、それでも他の城の地下と比べれば快適な設計となっている。
俺が予想するに恐らくこれは、訓練する兵士にストレスを与えないようにするための設計士の配慮だろう。もし訓練する場所があまりにも薄暗く、且つ閉塞感漂う陰気臭い地下だったら、まるで監獄で働かされている囚人のような気分を味合わせかねない。
だが、このように落ち着きを持てる居心地の良い空間であったならば、辛い訓練もより長くこなせるというもの。俺の予想が当たっていれば、これはそこで訓練する兵士のことを考えた良い設計だ。
俺は密かに感心しながら、さらに奥へと歩みを進めていく。階段を下りていくごとに、徐々に兵士達が呪文を唱える声が聞こえてきた。
やがて階段を下り切ると、今度は目の前に一本の通路が現れる。その両脇の壁には幾つもの扉があり、それぞれ番号が振り分けられていた。
ところで、ホルス様から伝えられた、イクシス将軍のいる部屋の番号がある。『109』だ。見ると、階段に一番近い扉の番号は『101』となっており、その向かいの少し奥側にある扉は『102』となっている。
101の扉を始点として順番に102、103と線で繋いでいくと、恐らくギザギザの線になるだろう。俺達はその線をイメージして辿っていき、109の部屋を目指した。すると……。
「あ、あの人さっきの兵士さんですよ」
「どうやらあそこで間違いなさそうだな」
先程ホルス様より伝達を承った兵士の姿があった。彼は今、109号室と思わしき部屋の外側で中にいる人物と話をしている。
「……あ!アイザック殿!いらしたのですね。こちらです」
と、兵士が俺達の接近に気づき、ここまで来るよう呼びかける。俺達は応じ、若干駆け足でそこまで向かった。するとそこには……。
「……ふむ。お前がアイザックか」
「私の名はイクシス……このサンメラ王国の誇り高き将軍の一人だ」
……水色の艶やかな髪を後ろで縛った、いわゆるポニーテールと呼ばれる髪型の、将軍と名乗る少女がいた。高貴な軍服姿に身を包み、姿勢をすらっと伸ばしながら彼女は真っ直ぐな蒼き眼差しでこちらを見つめている。相手が自分と同じ将軍でも全く臆することなく凛々しい佇まいで彼女――イクシス将軍は腕を組んでいた。
「お初にお目にかかる。俺の名は――」
「そういう堅苦しいのは良いだろう。これから旅を共にする"仲間"ではないか」
……なんと彼女は、もう既に俺達の仲間となる意欲を示している。最初の口調からして、ホルス様の命令とはいえ俺達の仲間となることを若干拒んでいるような印象を受けたが……。
「ふむ?してそちらの神官は?」
「あ……はい!私はアイザック様の側近のイリアと申します!」
「お会いできて本当に光栄ですっ!イクシス将軍!」
と、イリアは憧れのイクシス将軍を前にして興奮を隠しきれないのか、頬を赤くしながらイクシス将軍への自己紹介を行う。
「それはこちらとしても嬉しい。今後とも仲間としてよろしく頼む」
「はい!是非!是非!」
いくらなんでも喜びすぎだろう……と、俺はイリアに若干引いてしまった。
「……さて、アイザックよ」
と、ここでイクシス将軍は改まって俺に話を切り出す。彼女は何やら真剣な面持ちだった。彼女の雰囲気を察して俺は、それに同調するように真剣になり話を聞く。
「確かに私はお前達の仲間になる」
「だが――」
次の瞬間、彼女は自分の武器である"オーブ"と呼ばれる球体を手にとって、こう言い放った。
「――その前に見せてもらうぞ」
「お前の、将軍としての実力を」




