「女王との対面」
*
幾つもの階段と通路を通過していったその先で、俺達はようやくホルス様のいる王室の入り口前へと到着した。大蛇の意匠が施された分厚く頑丈な扉の向こう側から凄まじいオーラを感じる。
あの扉を開けた先にこの国を治める若き女王が君臨していると思うと、この地点で凍てつくような緊張感が襲う。くれぐれも、粗相の無いようにしなくてはならない。俺達の態度や言動次第では、今後バレア王国との交流が絶たれる可能性もあるのだから。
「ではどうぞ、こちらへ」
「……っ」
兵士の言葉にも俺は怖じ気付いて満足に返事をすることができない。一方でイリアもまた怖いのか、俺との距離を狭めて離れない。
「ホルス様。バレア王国からお越しになられたアイザック殿とその側近、イリア殿をお連れいたしました」
兵士の淡々とした報告。
「お入れせよ」
「はっ!」
ホルス様の声が扉の向こう側から響いた。肉声が聞こえてくると、俺達の緊張の汗はピークに達する。室内は十分涼しいのに、俺達だけは昼間のような暑がりようを見せていた。
そして兵士は両手で扉の取っ手を掴み、力強く押して王室とこの通路を隔てる壁を取り除いていく。やがて扉を開くのが完了すると、俺達は兵士に促され室内へと入っていった。
床には、一目で高級だと分かるくらい質感に秀でた赤いカーペット。奥の壁には、中央に歴代国王らしき遺影が4個程。左右にはサンメラの国旗……大蛇が描かれているのが特徴的な立派な国旗が飾られている。
部屋の真ん中には、一際大きい木製の机が。書物が大量に置かれたその机の向こう側で、彼女は一人腰かけていた。艶のある黒色の短髪と、美しい褐色の肌。腹部と足を大きく露出しており、身に纏った黒いインナーのような服には、黄金の豪華な装飾品が数多く取り付けられている。
若くして妖艶な雰囲気を纏いながらもその表情は凛としていて真剣そのもの。真っ直ぐな眼差しで彼女は――ホルス様は、俺達を見つめていた。
「ようこそ、アイザック殿……お久しぶりですね」
「そしてその側近のイリアさん、初めまして」
「私がこの国を治める女王・ホルスです」
彼女は丁寧な口調で挨拶をし、一礼する。俺達は若干慌てぎみになりながらもその礼を返した。
「ふふ、あまり緊張しなくて宜しいのですよ」
「私は今度ともバレア王国とは良い付き合いをしたいと思っていますから」
そうは言われても緊張してしまうのが常というものだ。ホルス様の御前故に、滅多な真似は出来ない。俺達は緊張を上手く解せず、已然として硬直したような立ち方をする。寧ろ、こういった態度こそが失礼に当たるのか。だとすれば……ああ、どうしたら良いのか分からない。
「……ところで、アイザック殿」
「今日は何用で我が国に……?」
「は……はい。実は――」
*
「何と!!あのエリスお嬢様がお亡くなりに……!?」
「魔物による所業とは……なんて惨い」
俺は事の顛末を一つずつホルス様に伝えていった。ファランクスという魔物の将軍が軍勢を率いてバレア王国の城に攻めこんできたこと。
そして勃発したその戦争で、エリス様が命を落としたこと。その後、俺達は魔王と呼ばれる存在を倒すべく南の国・≪ザザンヒル≫に向けて旅立ったこと。
その全てが壮絶な思い出であり、今の俺達を突き動かす悲惨な過去。あの悲劇を皮切りに起ころうとしている次なる悲劇を、俺達の手で食い止めなくてはならない。
一通り俺達の話を聞いたホルス様は、何ともいえない表情を浮かべながらも少しずつ俺達に言葉を紡いでいった。
「それは大変、惜しまれる訃報でございます」
「エリス様のご冥福を心よりお祈りさせて頂くと共に、我が国からも僅かながら援助をさせていただきます」
「え、援助……ですか?」
するとホルス様は唐突に傍らにいた兵士に声をかけ、何やら小声で命令をしている。やがて命令を承った兵士は頷き、王室を後にしてどこかへ行ってしまった。
「アイザック殿達さえ良ければ、我が軍から"イクシス"将軍を同行させましょう」
「彼女は一流の魔法の使い手ですから、きっと貴方達の旅に大いに役立つハズです」"イクシス"将軍……聞いたことのある名だ。
いつか風の噂で聞いた彼女の武勇伝を思い返すと、サンメラ王国が誇る美しき女性魔法使いで、"オーブ"と呼ばれる特殊な武装を用いて戦闘を行うということを記憶している。
その実力は一騎当千が如くとされており、一人で数百という敵を一瞬にして倒せる程の強力無比な呪文を使いこなすのだという。そんな最強の名に相応しい魔導士が仲間になってくれるのなら大歓迎だ。
(イクシス将軍……!私の憧れの人だ……!)
そしてイクシス将軍の名を聞くや否や、イリアが何やら至極嬉しそうな表情を浮かべている。まあ、それは無理もない話だ。と言うのも彼女は、自らの目標としてイクシス将軍の名を時折挙げていたのである。
自分とそう歳が違わない少女に対してあれだけ憧れの念を抱けるのだ。イクシス将軍がそれだけ桁違いに強い魔導士であるということである。
「心強い限りでございます。是非とも仲間に迎えさせてください」
「よし!ならば今、先程向かわせた兵士にイクシスと話をさせている」
「今イクシスは魔法専門の訓練室で鍛えているハズだ。良ければアイザック殿達も足を運んでみてくれ」
「はい」




