「守るための力」
*
「アイザック殿!ここにおられましたか」
「!」
繁華街を散策していると、そこへ一人の兵士が俺達の所にやって来た。彼は、先程あの壁の門で番をしていた兵士だ。この国の女王・ホルス様に報告をすると言って相方に番を託し城へと向かって行ったが、俺達の所に来たということは報告が完了したということなのだろうか。俺達は、ホルス様の判断を聞くべく、兵士の言葉に耳を傾ける。
「先程ホルス様から通達を承りました」
「アイザック殿達を城へ丁重にご案内しろとのことですので、どうか足を運んで頂きたく申し上げます」
どうやら彼女は、俺達を歓迎してくれているようだ。とりあえず一安心した俺はその兵士の伝言に頷き、承諾。城への案内を彼に任せ、俺達は彼の後に続きながら広い繁華街を徐々に抜けていった。
両脇が屋台で埋め尽くされた長い長い道のり。サンメラの人々が盛り上げる活発で賑やかな街並みは正直うるさいと思ってしまうぐらいに騒がしいが、かといってそれ程不快なものでもなく、寧ろ見ていてまるで飽きない。
こう言うのが嫌いじゃない自分が居ることを知り、ふと何となくおかしくなって俺は一人笑みを浮かべてしまった。やがてこの商業エリアを抜けていくと、その先にはこれまた広い噴水広場があった。
この辺りのシンボルと言える大きな噴水を中心に地面には白い石畳が敷かれており、砂漠の国でありながら何となく西洋の雰囲気を醸し出している。
先程までの繁雑な商店街とはうってかわって、ここら一帯はそれなりに上品な景観。道行く人は貴族階級が多いのか、華麗なドレスを纏った婦人などの姿が頻繁に確認できる。
そして、この噴水広場の向こう側を見据えると、そこに"それ"はあった。天高くそびえ立つ、巨大な白き城。と言っても今は夜なので色は分かりづらいが、以前来たときには白かった。
この国を治めし聡明なる女王が、あそこで王として果たすべき責務を日々務めている。そう。あの城こそがこの国の本丸……"サンメラ城"だ。
「ふわぁ……おっきぃですね」
「ああ。外壁を優に越すほどの高さを誇る巨大な城だ」
「因みに、あの城の高層部に設けられているバルコニーは、その一部は大砲などが置かれた軍事用スペースになっていて、アレで壁を越えて襲来してきた敵を迎え撃つらしい」
「へぇー」
俺は、以前ここに訪れた時に得たこの城の知識をイリアにひけらかしてみる。この通り、サンメラという国は特に軍事面でかなりの防衛力を持っていることでも有名。
石油などの貴重な資源を多数保有している故に、軍資金として回せる額も他国とは桁違いなのだ。勿論、大砲などといった兵器だけでなく、軍隊……即ち兵士やそれらを束ねる将軍の実力も中々に高いと聞く。
その話を聞くと絶対敵に回してはいけない国だというのが分かるハズ、なのだが。残念ながら、石油等を狙われて他国から傭兵を送り込まれることが多々あるらしい。それ故に、この国は防衛力を限り無く高めていくのだろう。自分達の大切な資源を守り抜くために。
「こちらです」
立派な城を見上げるのも束の間、兵士に促されその後を引き続き追っていく俺達。噴水広場と城の敷地は、木製の可動橋によって繋げられており、橋の下にはお堀があってそこには透き通った水が張られている。
数々の景観を自分達の国の城と頭の中で比べながら、俺達は城内へと入っていく。瞬間、俺達が踏む地面は石畳から大理石に変わり、カツカツという足音がこのだだっ広い部屋の中で反響した。
横を見上げれば美しいステンドグラス、上を見上げれば壮大なまでに大きく且つ精巧なシャンデリア。今にも落っこちてしまいそうなそのシャンデリアは、見ていると何となく真下から離れたくなってくる。
兵士が言うに、ホルス様の居る階層は9階、最上階らしい。どこの国の王室も、一階から目指すとなるとやはり途方もない道のりになってしまうようだ。
*
サンメラ城は階層を上に進んでいくごとに雰囲気がより厳かになっていく。女王の居る最上階に近づいていく度に、その場の空気が張り詰めていく。
このプレッシャーのような気配……これは、彼女、ホルス様の放っている魔力と言われている。と言うのも、ホルス様は一国を治める女王であると同時にとてつもない魔力の使い手でもあるのだ。
俺も以前拝見させて貰ったことがあるが、彼女は腰に≪天帝剣≫と呼ばれる伝説の武器が納められた鞘を携えており、自らの身を守る際にはその剣と自身の計り知れない魔力によって返り討ちにするのだという。
つまり彼女は、王としてだけではなく戦士としても超一流の実力を有しているのだ。だが、それはあくまで自衛のため。その力を使って他国に攻め入るような真似は今まで一度たりともしていない。
彼女は、貴重故に狙われがちな資源を守るため、あるいは暗殺などといった脅威から我が身を守るため、その兵器が如くの圧倒的な力をやむを得ず保有している。まさに、この世界でも指折りの絶対王。逆える者は誰一人としていない。




