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魔族を蝕む聖剣の光  作者: うさぎボーイ
第三章 「砂漠に潜みし煙の悪魔」
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「ひとまずの勝利」

 *


「……ぷはっ!?」


「良かった……目が覚めたか」


 酷い怪我で倒れていたイリアに回復薬を飲ませた。彼女のあちこちに出来ていた切り傷や痣は一瞬にして治り、勢い良く目覚める。起き上がり周囲を見渡したイリアは、俺の存在を確認すると驚きの反応を見せた。


「アイザック様!?どうして……!」


「俺が悪夢に魘されている間、よく耐えてくれた」


「そして、すまなかった……お前を独りにしてしまった」


 俺は、困惑する彼女に感謝し、次に謝罪する。胡座をかきながら深々と頭を下げ、反省の気持ちを示した。この度の戦闘は、イリアの尽力無くしては絶対に乗り切ることができなかっただろう。


 故に俺は、俺が目覚めるまで何とか持ちこたえてくれた彼女に心からの感謝を述べる。するとイリアは……。


「……ううっ」


「イリア?」


 なぜか、眼を一杯の涙で満たして、俺の方を笑みを浮かべながら見つめていた。そして、次の瞬間……。


「アイザック様~~っ!!よくぞご無事でぇ~~っ!!」


「い、イリア!?どうしたんだ急に!?」


「このイリア、アイザック様がご健在で本当に、本当にうれしゅうございますぅぅ!!」


「落ち着けイリア!口調が何か変になってるぞ!」


 イリアはどういうわけか執事のような言葉遣いをしながら、俺にいきなり抱きついてきた。これでもかと言うくらい彼女は号泣しているが……そんなに俺のことを心配してくれていたのだろうか。だとしたら嬉しいばかりだ、自分の側近にそこまで心配してもらえるなんてな。


「……イリア」


 未だ泣き止むことの無い彼女を、俺はそっと抱き返す。右手を背中にポンと当てると、彼女のサラサラな青髪に触れた。とても手触りが良いせいで、俺はついそれを撫で下ろしてしまう。しかしイリアは俺が撫でるのに不快感を示すことはなく、寧ろ心地良さそうにしていて徐々に泣き止んでいった。


「ううっ……アイザック様ぁ……」


 涙が引いてきたようで、俺はひとまずほっと一安心。気持ちを落ち着かせてくれたようで良かった。


「水を持ってくる。とりあえず飲め」


「はいぃ……」


 俺は一旦立ち上がって、備蓄品のあるスペースから水の袋を取り出し、それを惜しむことなく彼女に手渡す。イリアは両手で袋を持って、グビグビと一気に飲んだ。


 次に、涙や鼻水を拭くための紙も渡し、とりあえず顔面を綺麗にするよう促す。イリアがぎゅっと目を拭いて、ズビズビと鼻をかんだ後、俺達は落ち着いたところで話の続きをするのだった。


 *


「あの煙の魔物は、自らのことをグラファと名乗っていたのか」


「はい。そしてアレックさんの体を乗っ取ったグラファは、私達になんらかの目的で近づいて襲撃を仕掛けました」


「本当に申し訳ございませんでした……私があのような魔物に取り憑かれていたばかりに」


 事の顛末を簡潔に説明するイリアと、奴に乗っ取られていたことに対し謝罪するアレックさん。どうやら砂漠でアレックさんと出会ったあの日には既にグラファはアレックさんの体に乗り移っていたようだが……。


 なるほど、だからか。だからあの時、自分自身……いや、アレックさんが何のためにこの砂漠に来たのか答えられなかったのか。グラファは。


「謝ることはない。アレックさん」


「貴方は今回の一件とは何の関係もない……寧ろ、ここで貴方を救助できたことが幸いだった」


「皮肉な話だが、奴が貴方を乗っ取らなければ俺達は貴方を助けられなかった」


 そう。こう言ってはなんだが、グラファがアレックさんの体に取り憑いていなければ俺達は一人砂漠でさ迷うアレックさんを救うことができなかった。


 確かに、彼を連れ出したことが俺たちを窮地に追い込んだ。というのは間違い無いだろう。だが、そうした運命が重なって、困難を乗り越えた結果一人の人間を救えたなら、バレア王国の誇り高き騎士として大変な誉れだ。


 アレックさんを助けたことに、俺達は何の後悔もしていない。少なくとも、失ったものよりは得たものの方が多いからな。……ただ。


「……それはそうと、奴が逃走した方角だが……もしかしたら奴はサンメラに向かったかもしれない」


「そうですね……あの方角を進んだ先には確かにサンメラの国があります」


 一つ気がかりなことがある。それは、逃走したグラファの行方だ。奴が逃げていった方向には、サンメラの国がある。宛もなく一目散に逃げて偶然にも方向が一致しただけなら良いのだが……意図的に向かった可能性が高い。


 グラファは、俺達がサンメラに向かってこの砂漠を歩いていることをアレックさんの体の時に情報として得ているハズ。だとすると、サンメラに先回りして何か企んでいるということも十分考えられる。奴はこの場で仕留めるべき存在だった……が、あと一歩足りなかった。


 クソッ、もしこれでサンメラの人々が被害を被ることになったら、俺はどのようにして償えば良いのだろうか……と、あれこれ考えている内に段々表情が強張ってきた。そんな俺の様子を見かねたのか、イリアは俺に一声かける。


「……まあ、考えていても何も始まりませんから」


「今日はどの道もう遅いです。 しっかり休んで、明日また対策を練りましょう」


 そうだ。戦いによって忘れていたが、今はもうとっくに就寝しているべき時間帯。そろそろ寝なければ、明日の出発が遅れると共に体力に響く。


「そうだな……グラファも、今日のところは少なくとも襲ってはこまい」


「俺達はもう寝るとしよう」


 気持ちに区切りをつけた俺は、就寝の準備に取りかかった。明日の暮れにはサンメラに着いている予定だが……嫌な予感がしてならない。

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