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魔族を蝕む聖剣の光  作者: うさぎボーイ
第一章 「その魔族が聖剣を手にするまで」
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「大剣の悪魔」

 無論だ。俺たちには、ゴライアス様への絶対の忠誠がある。そして更に、バレアの兵士として国民を身を投じて守る責務もある。


 断るという選択は億に一つもありはしない。あるのは、従うことだけだ。


「はっ!」


「その任務、我らアイザック軍と……」


「……私たち、エリス軍が承りました!」


 俺とエリス様は跪き、ゴライアス様に誓いを立てる。必ずや魔物共を殲滅し、王国に平和をもたらすと。


「頼もしい限りだ、姫騎士エリスと将軍アイザックよ」


 ゴライアス様からありがたきお言葉を貰う。


「して、ゴライアス様……出陣の日は」


「明日の早朝だ、今日中に準備を整えられよ」


「はっ!」


 戦いの日程も聞いたところで、俺はこのことを部下に伝え、明日の決戦への準備を進めるために早々に踵を返した。それを見たエリス様も、ゴライアス様に「では」と告げ一瞥したあと、俺の後を追う。


 ……そう。これで終わるハズだった。王国を守る俺たちと、この世界を脅かす魔物共の因縁は。


≪奴≫さえ、来なければ……。


「……!」


 ……この時、ふと聞こえてきたのは翼の音。バサッ、バサッ、という力強い音だ。


 それは王国の西の方から響いているようで、こちらに近づいてきているのか、音が段々大きくなっていく。


「なに……?」


 エリス様、並びに王宮の兵士達もこの音に気が付いたようだ。


「……」


 俺は無言で鞘に手を伸ばす。この時俺が扱っていた得物は、≪大地の剣≫の異名をとる剣――≪グラン≫。


 グランはまるで、俺に警鐘を鳴らしているようだった。間もなく、≪刺客≫が現れると。俺自身、実際、既にそんな予感がしていた。


 近づいてくる翼の音と、同時に漂い始める異様なまでの殺気。戦士としての俺の勘、背を伝う一筋の冷や汗……。これらの要素を全て繋げていくと、この翼の音の正体が割れてくる。そう……魔物だ。


 魔物は、人からも動物からも遠くかけ離れた異形の持ち主。彼らの中には、翼を使って飛行するタイプも少なくない。翼を持った魔物の筆頭としてあげられるのは、石が魂を持って動き出したとされる≪ガーゴイル≫だろうか。


 だが、ガーゴイルは所詮下等な魔物……言ってみれば、雑魚だ。今鳴り響いているこの音の音量を考えると……とても、奴の貧弱な翼によるものとは考えにくい。あんな格下よりももっと強大な何かが、こちらに近づいてきている。


「王!あれを…!」


 すると、一人の兵士の声が聞こえた。その兵士は西の窓から見える景色を指さし、ゴライアス様に反応を求めている。「何事だ」と、王座を離れ様子を見に行くゴライアス様。俺とエリス様は互いに頷き、ただちにそこに向かった。


 少し走って数秒、問題の西の窓付近へ。俺たちはゴライアス様の隣に立ち、兵士が見せようとしている光景を目の当たりにする。


 すると、そこには――。


「……ッ!?」


 ――禍々しい、黒き大剣を携えた異形の戦士と、それに率いられ押し寄せてくる大量の魔物の軍勢の、見るもおぞましい姿があった。特に、魔物共の中心となって翼をはためかせているあの大剣の戦士は、かれこれ幾多もの戦地を渡り歩いてきた俺たちでも見たことがない謎の魔物。


 その体躯は巨人と錯覚してしまうような大きさを誇っていて、つま先から翼の先端まで全身が赤き剛毛に覆われている。筋骨は隆々と盛り上がっており、奴の怪力が既にうかがえるようだ。


 そしてなんといっても恐ろしいのは顔面で、巨大な双角を携えたその形相はあたかも伝説に記されている大悪魔の如く。……というか、あれはもしや本物の悪魔か。


 あれほど凶悪で、強大なオーラを放っている生命体はかつて見たことない。また、奴が率いている魔物共の数はざっと数えても数百はいる。まさか奴は、魔物の世界における将軍だったりするのだろうか。少なくとも、かなりの実力者であることは間違いないだろう。


「ゴ、ゴライアス様……お下がりください」


 声が、震えてしまっている。これまで優に幾千の猛者どもを屠ってきたこの俺が……おびえているのか。まもなく奴はここにやってくるというのに、心の準備が全くできていない。


 ……と、そこへ。


「なぁに身構えてるのさ!アイザックッ」


「エ、エリス様」


 エリス様が笑顔で俺の肩を叩き、緊張で震えていた俺の鼓動を一瞬止めた。


「君と私がいれば、どんな敵が来たって怖くない!」


「迎え撃ってやろうぜっ」


 エリス様には、奴に対する恐れや震えといったものがまるでない。彼女の俺を見つめる目はただひたすらに真っ直ぐで、迷いなきその言葉が俺の心を鼓舞する。


「……はいッ!」


 俺は彼女に呼応することで、平静さを取り戻した。そう、どんな敵が来ようとも、後退はどの道俺の心が許さない。


 エリス様の言うとおり、迎え撃ってやるしかないのだ。


「……ッ!」


 ついに俺は鞘からグランを引き抜き、銀色の刀身を晒す。腰をゆっくりと落として構え、敵の襲来に備えた。エリス様や、ほかの兵士達も同様に臨戦態勢に入る。


 ……そして。


「来るぞッ!」


 一人の掛け声があがった刹那、遠くから見えていた怪物共は、俺たちの眼前へと降臨する。窓越しに対峙する両軍。


 兵の数ではあちらの方が断然有利だ。だが、ここは我が軍の本拠地。救援要請を送れば、すぐに援軍が来る。


 戦場がこの王室というのが恨めしいところだが……王族の命さえ守れれば最悪それでもかまわない。


 状況はまさに一触即発。どちらから攻め始めても不思議はない。


 そこへ最初に口火を切ったのは……。


「……全兵士に告ぐッ!」


「≪勇者≫の血筋の者を探し、見つけ次第殺すのだッ!」


 ……敵の大将と思われる、雄々しき翼をはためかせる黒き大剣を持ったあの悪魔だった。


≪勇者≫の血筋。奴は確かにそう言ったが、この時の俺にはそれが何のことだか分らなかった。


 ただ一つ確かだったのは。


「グォォォォッ!!」


「グギャァァァァッ!」


 ……敵がこの城の窓を割って攻め入ってきた、という事実だけだった。

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