「聖剣と共に」
「お前は……アイザック!?」
「どうやって悪夢から目覚めた!?」
アイザックは、ルスワールの薬を服用していないにも関わらず、グラファがアイザックに見せていたであろうあの悪夢から自力で脱出した。薬によって自分がかけた呪術が解かれるならまだしも、自力で破られてしまったことにグラファは驚愕し、ショックを受ける。
グラファは自らの魔力に強い自信を持っており、それが人間の力によって解除されたことは彼にとっては屈辱そのもの。一時グラファは愕然とし言葉を失ったが、次第にその感情は怒りへと変わっていく。
「……クソが!どいつもこいつも舐めた真似しやがって!」
荒っぽい口調でそう吐き捨てたグラファは、邪魔なアイザックを沈めるべく更に詠唱を重ねていった。すると、ヴァルハラスフィアの放つ魔力が一段と強さを増し、アイザックの体に重くのしかかる。
降りかかろうとしている魔界の大剣を、アイザックはアポロの細い刀身一本ではね除けようとしているが……アポロの聖炎だけではヴァルハラスフィアの闇の炎に対抗することができない。徐々に、徐々に押し返されていく。
「ぐぁぁっ……ぐっ」
そして、アポロもアポロで相変わらずアイザックの腕を燃やしているため尚更防ぐことがより困難を極めている。
*
あの夢でエリス様は俺に教えてくださった。アポロは、俺に"勇気"の力を与えてくれる剣だと。そして俺は感じた。このアポロは、俺の勇気の力に応じて強くなっていくと。
この剣は、剣でありながらまるで生き物のようでもある。俺の勇気を試し、俺に勇気が無ければ容赦なく腕を無意味に燃やし続け、逆に俺の勇気を認めれば今度は俺に力を貸してくれる。
アポロは本来、魔族には装備することすらできない聖なる剣。しかし、アポロはそれでも俺に機会を与えてくれる。聖炎という名の戒めを常にその柄に宿しながら。
振るう度に迸る痛みは、確かに戦いの時にはハッキリ言って邪魔だ。だが……最近は寧ろ、俺にはこれが必要なのではないかとも考える。俺に使命を思い出させてくれるこの激痛は、俺の勇気の源でもあるのだから。
「うぉぉぉぉぉっ!!」
アポロと共に行くから、かつて無いほど強大な敵にも躊躇なく立ち向かえる。
そして、大切な者を守り切ることができる。この剣はもう、俺にとっての……命だ。コイツと一緒なら……。
「うらぁぁぁぁぁっ!!」
どこまでだって……行ける!
「バカな……コイツのどこにこんな力が!?」
俺は踏ん張り、全身全霊で腕を上へ上へと押し上げて、あのバカデカい大剣を徐々に動かし始める。アポロは、あの質量の刃と真っ向から鍔迫り合いしても全く折れる気配をみせない。
これこそ、この世の全ての剣を超越する最強の聖剣の力だ。 大きさばかりの大剣には負けないということか。ならば俺も負けていられない。
アポロが如何に俺の腕を苛もうとも、耐え抜いて見せよう。俺はここが正念場と見た。もう片方の腕も使ってアポロを掴み、全力で大剣の脅威に対抗する。ジリジリと異次元の穴へと戻されていく大剣。そして。
「これで……どうだァッ!」
最後に渾身の力で、俺はアポロを思いっきり振り抜いた。刹那、爆発した光焔は煌めきを放ちながら辺りに壮絶な爆風を巻き起こす。すると。
「なっ……!?」
その衝撃によって大剣は、切っ先を粉々に砕かれ。それを皮切りに、みるみる内にボロボロと崩れ落ちていく。
「バカな……これは撃滅の暗黒剣・"ヴァルハラスフィア"だぞ!?」
「なぜお前ごときに破壊された!?」
あの煙の魔物にはどうしても解せなかったようだ。奴にとって最高の切れ味を誇る撃滅の暗黒剣が、たかが俺のような魔族の端くれごときに敗北を喫してしまったことを。故に魔物は叫び、問う。
「なぜ……なぜ、お前ごときに!!」
俺は、こう答えた。
「――アポロには俺がいたが、あの剣には握る者が居なかった」
「それだけの話だ」




