「解毒」
意を決したイリアは、グラファが氷の壁に行く手を阻まれている内にその横を素早く通り過ぎて、アイザックとアレックが魘されながら寝ているキャンプ地点まで戻ってきた。
キャンプの焚き火はとっくに消えており、夜の暗さがイリアの行動の障壁となるが、目が既に慣れているためアレックを発見することに然程の苦労は強いられない。グラファの沈黙が解けるまであと僅かしか時間が残っていないので、急いで携帯薬を取り出すイリア。
(これを、アレックさんに飲ませれば……!)
粗っぽく治療薬のキャップをこじ開ける。そして……。
「……!」
イリアは薬の入っている瓶の飲み口をアレックの口に無理矢理押し込み、強引にイッキ飲みさせた。アレックが若干苦しそうな表情を浮かべたが、イリアは焦りからかそのことに全く気付かない。やがて薬をアレックが飲み干したのを確認すると、イリアは空き瓶をその辺にポイッと投げ捨てた。
(お願い……!)
そして最後は、天に神への祈りを捧げるのみ。彼女は神官ゆえ、信仰心に関して言えば常人の比では無いくらい秀でている。果たして勝利の女神は彼女に微笑むか、否か。
跪き、両手の指を絡め、目を瞑って祈ること数秒。アレックは――
「…………」
「…………っ?」
――目を覚ました。
「あれ、ここは……どこ?」
「貴女は……誰?」
彼の挙動から察するに、グラファが彼を操っていた頃の記憶は彼自身には無いらしい。寝起きに見ず知らずの土地と人間に突然直面し、困惑するアレック。
しかし……。
「……もしかして貴方は、僕の命の恩人ですか?」
どうやらアレックは、イリアが自分を助けてくれた張本人と思ったらしく、彼女に対してはそれほど警戒する様子を見せなかった。
「良かった……正気に戻ってくれたんですね」
と、アレックの無事を安心したイリアだが、懸念すべき箇所はまだ残っている。そう、グラファとアレックを結んでいたあの鎖。
結局アレは取り除けたのだろうか。あの鎖を状態異常によるものと仮定し、その前提でアレックに薬を飲ませたイリアだったが……ふとイリアは気になって、アレックの体をじろじろと見渡してみた。
「え、あの……?」
するとアレックは照れ臭いのか、不思議そうな表情を浮かべながら顔を少し赤らめてしまう。しかしイリアはそれに構うことなく、アレックの体に何かしらの異常がないかを目視で調べあげた。そして、気づいた。あの黒い煙が、跡形もなく消えていることに。




