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魔族を蝕む聖剣の光  作者: うさぎボーイ
第三章 「砂漠に潜みし煙の悪魔」
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「煙の魔物」

 *


 愛していた者と再会する幸せな夢だった筈が一転、突如として愛していた者に辛い現実を突きつけられる悲惨な悪夢へと変貌した。アイザックが抱く過去の強い無念は、今でも彼の心の奥底に沈殿しており、時おり彼の精神をこのように凄烈に痛め付ける。


 だが、今宵のそれは普段とは段違いに強力だった。呪縛の圧がいつもよりも遥かに重いのである。


「ぐっ……うわぁぁぁっ!!」


 アイザックは砂漠のオアシスで、魘されを超えた痛烈な悲鳴をあげていた。


「……!アイザック様!!」


 その大声に叩き起こされ目を覚ましたイリア。声がアイザックのものと理解するや否や、すぐさま彼の寝ている方向へと目を向けた。すると、そこには……。


「……ようやく気づいたか、神官の小娘」


 悪夢に苛まれ、寝ながら苦しそうに身悶えするアイザックと。そんな彼の側で、その光景をじっと見守る……黒い煙のような怪しい魔物の姿があった。


 奴に手と顔らしきものはあるようだが、足は無い。しかし煙はとある一点の場所から発生しているようであり、まるでロープのように煙がその場所と繋がっている。イリアはその地点を、煙を目で辿ることによって見つけ出した。するとなんと、そこには……アレックの体があった。


(……?)


 どうしてアレックの体から煙が?アレックという人間の正体が魔物だったのか、はたまたこの魔物がアレックの体に何かしたのか。


 浮かび上がった疑問に対して瞬時にその二つの推測を挙げたイリアの頭脳だったが、今のところ正答は出ない。そして魔物は、イリアが起床したことを確認すると、不敵な笑みを浮かべた。


「クッハッハッ……」


「……貴方は一体何者ですか」


「アイザック様からすぐに離れなさい!!」


 何にしても、これだけは言える。この煙の魔物は、彼女達にとっての"敵"だ。こちらに害をなす生命体だと見なしたイリアは、即刻アイザックから離れるように魔物に命ずる。が、しかし、魔物は首……いや、煙なので首は無いが、人間で言うところの首を縦に振ることはなく。


「そういうわけにはいかんな……俺はコイツにちょっとした"用事"があるのでな」


「"用事"、ですって……?」


「まぁ、それを貴様に教える義理は無いがな」


 彼は言葉を濁して、イリアを嘲笑ったのだった。


「くっ……だったら力づくで追い出します!覚悟なさい!」


 イリアはその挑発的な態度に憤慨し、臨戦態勢に入る。彼女は寝床の傍らに置いてあった自身の武器である魔法のロッドをサイコキネシスの遠隔操作によって取りだし、それを構えた。


 彼女は普段、仲間の援護に回るだけならこの武器――"聖杖フリーズ・クリスタル"を手に取らない。だが、自らが戦わなければならなくなった時……彼女は初めてこれを構える。


 フリーズ・クリスタルは氷と光、そして幻惑の力を宿したバレア王国の宝具。イリアがこれを振るう時、軍は彼女の手堅いアシストを失う代わりに凄絶な攻撃力を得る。


「"敵を凍てつかせよ、聖杖よ"」


「"絶対零度の氷にて"!」


 イリアは自身の比類なき魔力をフリーズ・クリスタルに注ぎ込む。そしてフリーズ・クリスタルはその魔力を凝縮し、一つの魔法弾にして大砲の如くぶっ放した。氷のように透き通った銀色の砲弾は、煙の魔物に一瞬のスピードで向かっていく。


「グォォッ!?」


 そして、彼に回避させる隙も与えることなく着弾した。刹那、膨大な魔力が解き放たれ、煙の魔物は壮絶な冷気に襲われる。凍えるような大寒波に、煙の魔物は悲鳴をあげながらもがき苦しんだ。だが。


「ぐわぁぁぁっ!?」


 それと同時に、なぜかアレックの悲鳴まで聞こえてきた。


「ッ!?」


「グフッ……ククク、言い忘れていたがな小娘」


「今、俺の体とアレックの体は鎖のように結ばれている」


「お前が俺を痛め付ければ、あの男の方にも相応のダメージが行くようになってるんだよ」


 攻撃が直接当たった訳でもないのにアレックが悲鳴をあげた理由を、煙の魔物がイリアに嘲笑いながら解説する。言うなれば今、奴とアレックの体は一心同体。痛覚を共有している状態にあるらしい。


「アレックはここに来るまで俺の"依代"となってくれただけの男よ……言わば今回の一件とは無関係の人間さ」


「俺はお前らに会うために、砂漠で遭難していたコイツに乗り移っていたんだよォ!」


「そォンな可哀想~な奴をこのままなぶり殺しにしても良いってんなら、どうぞ俺に攻撃してきなァ!」


 奴の下卑た笑いと発言から察するに、先程のイリアの推測は後者が正しかったようだ。


「卑劣な……ッ!」


 ただでさえ不幸にも砂漠で宛もなく放浪していたアレックを、救うでもなく自らの盾にするとは。この魔物の精神は根っこまで腐っている。イリアはそう確信し、心の底から奴を軽蔑した。しかし、彼女の睨みつける鋭い目を見ても、魔物は全く悪びれる様子がない。


「そういえば自己紹介が遅れたなァ」


「俺の名は"グラファ"……今は亡きファランクスの代わりにアイザックを葬る者よ」

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