「序章の砂漠」
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暁に照らされる空を宿屋の窓から見上げ、目覚めの一息をつく。ぐっと背伸びをした後、俺達はまだ眠っていたい気持ちを押し殺して旅の支度を始めた。荷物を一通りリュックサックの中へと詰めていき、それをしょって部屋のドアへと向かう。
「ドラドカともお別れですね、何だか寂しいです」
「美味いものが食えなくなるからか?」
「ち、違いますよ!ルスワールちゃんと会えなくなるからです!」
「ま、そういうことにしておくか」
「ぐぬぬ……」
と、頬を膨らませるイリアをからかいながら談笑し、階段を降りて一階のロビーへ。そこで宿屋の店主に鍵を返し、礼を言ってチェックアウトを済ませた。そして宿屋を出たところで話は、次に向かう町についての話題へと代わっていく。
「アイザック様、次はどこへ?」
「ザザンガルドまでの道のりを地図で見ていくと、この先にある砂漠地帯を乗り越えていくルートなら早く着けるのが分かる」
「よって次は、砂漠の国・"サンメラ"へと向かうぞ」
広大な砂漠の上に存在する国、"サンメラ"。その国は"ホルス"という女王が統治している大規模な都市であり、文明こそ他の国にはまだ及ばないが、周辺で採取できる石油や鉱石のお陰で富豪の人口がとりわけ多い。
俺も一度だけ、ゴライアス様の護衛としてかの国に赴き、彼女の顔を拝見したことがあるが、それはそれは美しい女性だった。短く艶やかな黒髪をなびかせ、光沢のある褐色の肌を晒しながらゴライアス様と国際会議をしていたホルス様の聡明かつ凛々しい表情は今でも印象に残っている。
……ふと、その時何故かエリス様に睨まれたのを思い出した。あれは何故だったのだろうか……今でも理由は分からない。
「砂漠ですか……」
(砂で服が汚れるから砂漠は嫌なんだよなぁ)
砂漠と聞いた瞬間イリアが表情を曇らせたが、まあ付き合ってもらう他ない。と、そうこう話している内に馬が待っている地点まで来た。
「ヒヒーン!」
「ブルルッ」
ジョーとフレイヤが、今すぐにでも走りたそうな眼差しでこちらを見つめている。俺達はそれぞれの馬に跨がり、手綱を引いた。そして馬の腰を打ち付け、出発させる。
瞬間、全速力でジョー達は草原を駆け抜けていった。次に目指すは砂漠の国・サンメラ。ザザンガルドに向かう俺達の旅はまだ続く。
*
照らしつける灼熱の太陽。俺達の体力を奪っていく殺人的なまでの熱気。果てしなく続く砂の荒野。
行けども行けども砂漠というのは似たような景色ばかりだ。全く、嫌になってくる。俺達は今、"サラジャ砂漠"という砂漠のど真ん中をサンメラ方面に向かって横断していた。
行くべき方角を見失わないよう、方位磁石を片手に持ちながら。馬の体力が既に限界なので、俺達が手綱で馬を誘導しながら徒歩で移動している。滝のような汗が已然として止まらない。
ドラドカの商店で備蓄しておいた水の減りが早く、目的地まで持つかどうか不安だ。
「暑いですね……」
「言うな、余計暑くなる」
「とりあえず、夜になるまでの辛抱だ」
そう、夜になればこの暑さが嘘のように無くなる。砂漠だから、夜は寧ろ寒いと言いたくなるぐらい涼しくなるだろう。そして寒いだけならば、大抵着込めば対策が可能。
ただ暑いと、いくら脱いだところで暑いものは暑い。なのでどうしようもない。だからどちらかといえば、気温が高い昼の砂漠の方が圧倒的に地獄と言える。まぁ、俺の個人的な感想だが。
「……ぐっ……はぁ……」
「んぅ……」
俺もイリアも馬も、汗だくで仕方がない。視界を揺らす陽炎のせいで胸焼けまでしてきた。
「……ん?」
と、いい加減暑さにうんざりし、意識が朦朧としてきたその時だった。ちょうど数十メートルに大きな岩があるのを確認した。
あの岩の陰だったら、休憩が出来るだろう。俺達は嬉々として、蜃気楼でないことを祈りながらその岩へと向かっていった。




