「薬屋の少女」
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ドラゴンとの戦いの後、あの大広間から更に進むこと数十分。洞窟はまだまだ深く続いていて、しかし上層と比べると魔物などの他の生物の姿は殆ど見なくなってきた。そんな不気味なくらい物静かな洞窟内だったが、特に危険な気配等は感じなかったため、気にせず先へと進んでいく。
「……!」
と、ここで俺たちは目の前の景色に僅かながら光が差し込んできたのを察知した。だが、こんな地上からかけ離れた深層に出口などあるはずがない。
故に、あの光の正体が太陽によるモノでないことは明白。となると、他に洞窟内の光源として候補に挙げられるのは……。
「アイザック様、もしかしてあの光……」
「ああ」
「財宝、かもな」
そう。金や銀といった物質が放つ、眩いまでの光沢。その可能性が高い。また、仮に他の物質……例えば水晶などであったとしても、採取すれば高値で売れる鉱物である場合が多い。
まさに文字通り、光明が差したと言ったところ。俺たちは駆け足で、光の差す方へと向かっていく。するとその先にあったのは……。
「……やった!やりましたよアイザック様!」
「お宝ですよ!」
「よし……!」
……期待通り、宝の山だった。特大サイズの宝箱が複数個置かれており、その中に溢れんばかりの金貨や宝剣、ネックレスなどが山積されている。どれもこれも、売ればかなり高額になりそうだ。俺達の瞳を黄金に染める、夢の顕現ともいえる塊。全部持ち帰り、魔王討伐のための資金としよう。
しかし、この荷量を運んでもう一度来た道を辿り出口まで……というのは明らかに無理がある。効率云々の前に、まず物理的に不可能だ。上層まで戻れば魔物だって出てくるわけだし、回復魔法のお陰で傷こそ無いとは言えども、前までの戦いによって蓄積された疲労感はしっかりと残っている。
そんな状態でこの宝箱達を運搬しながら戦うなど、例えどんな召使いであったとしてもしない。だからここは、イリアの出番だ。
「≪異次元の扉よ 今ここに開け≫!」
イリアが今唱えたのは、この世界とはまた別の次元へと繋がる時空の穴を作る呪文。すると、異世界への扉が洞窟内に創造された。これを、一時的な金庫にする。
異次元の扉は、一定のスペースがある空間上にならどこにでも作ることができる。そしてここにしまいこんだ宝は、洞窟の外で再び呪文を唱えればいつでも回収が可能。なので、荷物を楽に移動させたい時にはこの呪文が非常に便利なのだ。
「ありがとうイリア」
「ふふっ、じゃあ戻りましょうか!」
便利な魔法を覚えてくれていたイリアに感謝しつつ、俺達は帰路につく。ドラゴンとの戦いで経験を積み、財宝も手にいれ富が潤った。
成果としては実に上々。後は、町外れにあるという薬屋がどれだけの品を取り揃えているか、と言ったところだか……。
*
ドラドカに戻ってきた。そしてやって来たのは、街の質屋。質屋の店主は、俺達が持ってきた財宝の数々に目ん玉をひん剥いて驚いていた。
「ぎょぇぇーー!す、すげぇな旦那ァ……よくこんだけの量をこさえてきたなァ」
「買ってもらえるだろうか?」
「勿論だぜ!どれもこれも掘り出し物のお宝ばっかだなァオイ!」
若干言葉遣いが荒い店主だが、これらの品物に相応しい値をつけてくれそうで安心した。
「この金貨はざっと見積もっても数百万はくだらねェな……こっちの剣も、マニアに転売して出る利益を考えればこれぐらいの値をつけてやっても良い……!」
この地点で凄まじい額が彼の算盤の上で叩き出されている。しかしそんな別次元の桁が算出されている中、店主はとある一つの宝玉を前にした途端言葉を詰まらせた。
「……?なんだこりゃあ、見たこと無ェ宝石だな」
「旦那、悪いがこれは持ち帰ってくれ!値がつけられねェからな」
「?……ああ、分かった」
店主からそう言われて返された宝玉を、俺は手にとって確認する。それは紫色をしていて、まるで水晶のような質感の結晶だった。そして、クリクリと触っていると何だか心地良くなってくる。
この宝玉……中から魔のエネルギーが染み出ているのか。魔のエネルギーは、俺達魔族にとっては元気の源となる。それが永続的に内部から染み出ているこの結晶……これは確かに、俺も見たこと無い物質だ。
もしや新種の鉱物か?……まあ、これは売るよりは俺が携帯していた方が良い。戦闘中、聖剣によって傷ついた腕を癒すのに使えそうだからな。
*
こうして一通り宝を売りさばいた俺達。巨万の富を手にいれた俺達が次に訪れたのは、町外れの薬屋。店の名前は――"ルスワール"。人の名前から取ったのだろうか。
閑静な住宅街の隅にポツンと建った木造の小屋。古い建物であるようだが、外観としては新築とはまた違った奥ゆかしさがある。これはこれで趣があって好きだ。
今のような夕暮れ時には特に映える。さて、外観を見て楽しむのも程々に俺達は、店の扉を開けて中へと入っていった。カランカランと、ドアチャイムの音が響く。
ああ、良いなぁ。何となく表情が綻んでしまう。
「あ、いらっしゃーい!」
この店の者の声が聞こえた。とても甲高い、少女の声だ。辺りを見渡し、声の主を探す。棚に無数に置かれた、様々な色の液体が入ったフラスコ。カウンター側のあちこちに散乱している書籍の数々。
薬屋特有の匂いが漂うこの部屋は、何となく実験室のような雰囲気もある。すると……。
「ようこそ、薬屋ルスワールへ!」
「アタシが店主のルスワールだよ!」




