「主君として、親として」
「……終わった、な」
「ゴライアス様……」
葬儀の後、エリス様の墓の前でゴライアス様は虚ろな表情を浮かべていた。灰色の石を見つめる、灰色の眼。最愛の娘は、もうこの世には居ない。
戦で死したことは、武人としての道を選んだ以上、宿命として受け入れる他無いのだろう。だが、それはあくまで道理であって、個人の感情とは無関係だ。今、ゴライアス様は深い悲しみに陥られている。俺は、なんとお声がけをすれば良いか分からなかった。
「……アイザックよ」
「私のもう一つの願い……聞いてはくれぬか?」
「無論でございます」
「かたじけない」
願いがあるならば、いくらでも。俺は心の底からそう思った。それが俺の≪やるべきこと≫と言えるからだ。俺が従う主君にしてエリス様のお父上……ゴライアス様の頼みとあらば、俺にそれをやらないという選択肢はない。
必ず遂行させる。なんとしてでも。俺は心して、ゴライアス様の命に耳を傾けた。
「今から私は、王としてではなく――」
「――お主の≪父≫として、願いを言う」
「私にとっても、お主にとってもかけがえの無い家族だったエリスの無念を……晴らして欲しいのだ」
……ゴライアス様は俺を、家族と呼んだ。そして、願った。すがった。次第に、涙を流しながら。
「ひいては――」
「――魔物共を、この世から根絶やしにして欲しい!!」
……この懇願が鼓膜に焼き付いた時。俺の中の何かが目覚めた。そして……叶えなければ、と思った。エリス様の無念を晴らすため。≪やるべきこと≫をなすため。
この御方の≪子≫として。覚醒とは、まさにこの事を言うのだろう。高鳴る鼓動が俺の心を引き締める。胸を押さえ、握り、俺はそこに決意を封じ込めた。
「……はい」
「このアイザック……その命を賭けて」
「全力で……当たらせてもらいます」
ゴライアス様の涙は、俺の信念に火を灯した。
「私も共に参ります、アイザック様」
そしてその炎は、横にいたイリアにも伝染したようだ。
「……ありがとう」
「ありがとう……ッ!」
……娘の眠る地に膝をつき、泣きながら礼を綴るゴライアス様。そう。これこそが、俺の≪やるべきこと≫。ようやく見つけた。
それは、俺の生きる意味だ。必ず、俺の人生を以てやり遂げてみせる。魔物共を……根絶やしにしてやる。
「……はっ」
……と。
ここで俺は、一つ重大な欠陥に気づいてしまった。
「しまった……先の戦いで俺は愛用していた剣を失ってしまったのだった」
先の戦い……つまり、昨日のファランクスとの一騎討ちでのこと。そこで俺は、ファランクスの放った魔力によって大地の剣≪グラン≫を木っ端微塵に粉砕されてしまったのだ。
エリス様の剣――≪アポロ≫を代わりに振るったことであの場はなんとか凌げたものの、魔物討伐の旅に出るならば剣を新調しなければならない。だが、あのグラン以上の剣がアポロの他にあるとは到底思えない。
少なくとも、今すぐ獲得できるであろう武具の中では。それが欠陥だ。さて……どうしたものだろう。顎に指を当て考え込んでいた、その時。
「……!」
ふと、俺の脳裏に一つの方法が過った。
「……ゴライアス様」
「俺はあの最悪の日、エリス様から受け継いだ聖剣≪アポロ≫をグランの代わりに装備して、彼の憎き宿敵・ファランクスを討ち滅ぼしました」
「何!……それはなんと、見事な」
「そこで、なんですが……まことに僭越であるのは承知で、一つ提案させては貰えないでしょうか?」
……その方法は、極めて無謀で、愚かで、身の程知らずなもの。しかし現状、手立てはそれしか無いと思われる。なので俺は、思い切って口にした。これから始まる使命の旅を果たすにあたり……その第一歩として。
「申してみるが良い」
ゴライアス様の許可は降りた。
「ありがとうございます……では」
「……どうかこの俺に、聖剣アポロを託してはくれませんか?」




