「遥かなる夢の世界」
――ここは夢の中だろうか。聖剣の炎によって真っ黒焦げになった俺は今、不可思議な空間にて一人さ迷っている。空間は、濃厚な紫色によって構成されていた。幻想的で、かつ非現実的な世界が眼前に広がっている。
「!」
ふと俺は、異世界での途方もない放浪の途中で――唐突に、一つの人影を見かけた。それは橙の髪をなびかせていて、白銀の美しい鎧を纏って孤独に歩みを進めていた。その面影は、忘れもしない俺の大切な人――エリス様のモノだった。
「エリス様!」
そうか。死んだハズのエリス様がおられるということは、ここは天国か。俺は数多に残っている数々の不自然な点の全てから目を逸らし、エリス様を見つけるや否やまっしぐらに暗黒空間の中を駆け抜けていく。
発せられる足音は大理石を踏んだ時のそれと似ており、カツカツという透き通るような音が反響してこの空間を埋め尽くす。そして、エリス様のもとへと辿り着いたその時であった。
「……君は、どうしてここにいるんだい?」
「え……」
エリス様は、俺と再会するや否や不思議な問いをかけてきた。どうして俺は、ここに来たのか。もしここが本当に天国だったとしたなら、その理由はまぁ、俺が死んだから……だろう。
だが、そうだとしたら余りにも必然の答えすぎる。わざわざそのような分かりきった答えをお聞きになるほど、エリス様は察しは悪くない。だけど、現実に彼女は俺にその質問をぶつけてきた。
ということは、ここはもしかしたら天国ではないのかもしれない。ならばここは、当初の俺の予想通り夢の世界なのだろうか。……というか、さっきから発想がお伽噺のそれに近いことにふと気づいてしまう。
考えてて少し笑みが浮かんでしまったが、きっとエリス様の方は真剣に俺に問いかけている。俺は込み上げる笑いを堪えながら、しかし結局答えようのない質問に頭を悩ませるばかりだった。するとエリス様は、更にそこから言葉を続ける。
「君はまだ、私と会うべきじゃない」
「君にはまだ、≪やるべきこと≫があるんだからね」
……≪やるべきこと≫……?
「さぁ、そろそろ戻るんだ」
「君の可愛い"側近"が、待っているよ?」
ま、待ってください、エリス様。俺はまだ、もう少しここにいたいのです。……という俺の懇願は、既にもう彼方へと飛んでいってしまった。儚き夢だった。
≪やるべきこと≫。エリス様は確かにそう仰ったが……。
「……」
……きっとそれは、これから目が覚めてから分かることなのだろう。何にしても、とてつもなく短かったが良い時間だった。もう二度と会うことのなかったハズの御方と、もう一度こうして言葉を交わすことができたのだから。
俺は今一度剣を取る。エリス様の仰られていた、≪やるべきこと≫を完遂するために。




