「烈火と化して」
「これで――」
「――終わりだぁぁぁぁぁッ!!」
最後は、鋭い突きの一撃で決めにかかる。剣を一度後ろに引いて、まずは狙いを定める。俺が照準を定めたのは……既に何度も抉っている奴の腹。あそこなら、刃先が肉によく通ることだろう。
「うぉぉぉぉぁぁぁーーーッ!!」
枯れた声、なおもあげる叫び。腕いっぱいに力を込め、引いた剣を一気に加速させる。前方へ走らせ、閃光の如く穿刺。グチャッ……血が滴っている奴の腹に、剣が今一度刺し込まれた。
「グォォォッ……!?」
まだだ。これだけでは奴は死なない。今こそ、この剣の炎を最大限に解放する時。
「はぁ……はぁ……」
呼吸を入れて、再度力を溜める。剣の炎を引き出すためには、俺自身の闇を剣に憑依させる必要がある。故に、ここからは自分自身の感情との戦い。
奮い立たせるのだ、激情を。思い出せ。王室を襲われ、数多の兵士を殺された恨みを。そして……この世で最も愛しい者を亡き者にされた悲痛を。その全てを、この剣に乗せるのだ。さずれば、火は灯る。
「……グァァ……!!」
そのまま奴の内部から、この炎で焼き尽くしてくれる。聖剣の炎は魔を穿つ。敵味方関係なしに、ただひたすらに悪を討つ。
それは、聖剣の使い手である俺とて例外ではない。俺は魔の血を引いた魔族であり、そして愛する主君を守れなかった愚かな騎士。聖剣が牙を向くには十分な理由を持った人間だ。
だからこそ俺は、この剣に全てを委ねる。この聖剣アポロが、奴を葬る代償に俺を道連れにしようと言うのなら……大人しく従おう。とにかく、今はただ。
「ファランクスゥーーーーーッ!!」
眼前の敵を殺すことだけに意識を向ける。炎はついに最高潮へと達した。煉獄が渦巻き、悪しき魔を祓っていく。
「貴様は……俺と共に死にゆく運命ッ!!」
「覚悟するんだなァッ!!」
「お……おのれぇぇぇッ!!」
屈辱の表情を浮かべるファランクスと、意を決して心中する覚悟を示した俺。一対の魔族は、やがて炎に導かれ天へと還る。
「死んでしまえェェーーッ!!」
俺は怒り、憎しみ、全ての感情を爆発させ、闇の爆炎を巻き起こした。
「ウォォォァーーーッ!!?」
そしてファランクスは、ついにその身を炎によって完全に包みこまれる。死にゆく魔族の将軍は、辛苦の悲鳴をあげながら最後まで俺を見つめていた。……だが、何故だろう。
その時の奴の瞳からは、既に『悔い』が消えていた気がした。……いや、そんなわけないか。奴は自らの油断、傲りによって愚かにも己を滅ぼしたのだ。相当悔しかったハズである。
「…………」
やがてファランクスは業火に焼き尽くされ、灰となって宙に散る。
「勝った――」
「――――っ」
そして、俺の意識もここで飛んでしまった。床に倒れこみ、他の兵士達の屍の中に紛れる。俺もついにここまでか。エリス様を死なせてしまった……その失態は今でも心に焼き付いている。
だが……最期に彼女の仇を討つことができた。天で待っているエリス様は、きっとこれから向かう俺を暖かく出迎えてくださることだろう。……良い人生だった。心からそう思えた瞬間だった。
――尤も。
ここから俺の苦難は、更に深まることとなるのだが……。
これで第一章は終わりです。




