「畳み掛け」
――今回は少し遅かった。瞬間移動の為に奴が消えてから、再び現れるまでの余白の時間が。
「……」
あまり時間を稼がれてしまっては困る。俺は常にこの焔の痛みに耐えながら剣を握っているので、その状態のまま無の時間が続くというのは中々に苦行なのだ。
……もしや奴はそれを狙って、わざと消失の時間を長引かせているのか。そうだとすればなんと狡猾な奴だ……と言ってやりたいところだが、残念ながらうまいこと弱点を突いているなと言わざるを得ない。
確かに俺は聖剣を手にしたことで絶大な力を得ることに成功したが、それによって背負っているデメリットもバカにならない。痛みに耐えかね剣を右手から左手に持ち変えたは良いものの、それも長くは持たないだろう。
剣は俺が手にし続けている限り、その焔を増大させていく。このままいけば俺は灰燼と化す運命だ。故に、早急に奴との決着をつけなければならない。
「――!」
その時、気配を感じた。黒く禍々しく、殺気に満ちた気配を。後方からだ。即座に振り向く。するとそこには煙があった。
「見つけたぞッ!」
その煙は、奴が瞬間移動する際にのみ出現する出入口。この気体の扉から、奴は奇襲を仕掛けてくる。俺は奴が現れる前にアポロを振るった。奴の出現を予測して。刃先が煙に接触する。それと同時に。
「――ぐはぁぁ……!」
奴は――ファランクスは、まんまと、案の定、俺の背後を狙わんとしてのこのこ顔を出してきた。刹那、予め薙がれていた聖剣がファランクスの腹部に更なる傷を刻み込む。
「ぐ……ッ!」
痛み、悶えるファランクス。しかし俺は、体勢を崩している奴に容赦なく追撃を加える。
「はぁッ!」
「ぐわぁッ!」
まずは下から上へ、刀身を掲げるかのような軌道を描いて奴の左肩を斬る。
「ふッ!」
次にそこから勢いを生かしたまま剣を横に構え、一気に振りぬき奴の胸部を一閃。一文字の赤き刻印を力強く残す。更に縦、斜め、縦、横……と、不規則に、しかしハヤブサの如く素早く剣を振っていき、奴の体にどんどん傷をつけていく。
その一つ一つの度に悲鳴が木霊する。しかしその悲鳴は、決して奴のものだけとは限らない。
「ぐぅ……あぁぁ……ッ」
俺自身、今にも聖剣に食い殺されるんじゃないかというぐらい聖炎を纏って攻撃している。当然、伴ってくる痛みは半端じゃない。
だが、この炎こそが逆に、今の俺の糧となっている。炎は痛みだが、同時に俺の振るう剣に威力を与えてくれている。そしてその威力は、ファランクスをもここまで苦しめる程に壮絶なもの。
故に俺は、耐えることができる。少なくとも――
「――うぅぉぉぉーーーッ!」
――コイツを、この手で倒すまでは。




