「代償を背負った攻勢」
猛り、昂ぶり、俺の手に取った聖剣は眼前の怪物に雄々しく牙をむく。しかしその刀身が宿しているのは、聖剣がもとより持っている光の焔だけではない。
使い手が魔族の俺になったことで、俺が先程から燃やしているこの激情の闇もまた、アポロに巻きつくようにして憑りついている。しかし聖剣の光は、その闇をも滅しようとしていた。
闇を祓うために、光は輝きを際限なく高めていく。そして聖剣が放つ光輝が増す毎に、俺の魔に穢れし肉体は焼け焦げていく。しかしだからといって、この溢れんばかりの闇を制御することも叶わない。
なぜなら、この闇はいわば俺の闘志の顕れだからだ。俺は今、粗削りではあるが聖剣を手にし、振るい、そして扱うことができている。奴が≪不可能≫と嘲笑った現実を、覆している。痛快なのだ。この瞬間が、とても。そして、これであの憎き仇敵を討てるのかと思えば……。
「うぉぉぉぉーーーッ!」
……感情、ひいては闇の膨張はもはや歯止めのきかないモノとなる。そしてその闇すら糧として増大を続ける光の一撃を……奴の頭上目がけて、叩き込む。
「ぐわぁぁぁーーーッ!?」
響き渡る凄絶な悲鳴。しかし狙いだった頭は外してしまった。だが、胸部から下腹部にかけて手痛い一閃を浴びせることができた。まるで干ばつによって地割れした大地の様に、ファランクスの胴体は傷によって大きく裂ける。
「ぐはァッ……!」
裂け目からの出血がおびただしいのが見て取れる。今奴を襲っている強烈な痛みを想像すると、こちらまで腹の調子が悪くなってくるようだ。
「バ………バカな……魔族であるハズの貴様が、なぜその剣を装備することができた!?」
予想もしない事態に驚愕を隠し切れないファランクス。その驚きようを見ると、これまでもが奴の演技だということはどうやらなさそうだ。奴の、俺を恐ろしげに見る目は紛れもなく本物である。
しかし、容赦の二文字は依然として微塵たりとも浮かび上がってこない。恨むなら、俺に反撃する隙を与えた愚かな自分自身を恨めば良いのだから。
「うぉぉぉぁぁーーーッ!」
俺は更なる追撃を仕掛ける。聖剣を手にし、騎士として進化を遂げた今の俺は速度で奴を遥かに凌駕している。故に、この追撃は普通にいけば必中なのだ。だが……。
「……ぐうぅッ!?」
……魔族を蝕みし聖剣の呪いは、例え剣を交えている最中だろうが問答無用で不規則に襲ってくる。聖炎の妨害によって俺は攻撃の手を緩めてしまった。
「くそっ……」
まだ聖剣を完全に使いこなせていないのが現状だ。いや……そもそも、これを魔族の俺が使いこなせるようになる日は永遠に到来しないのかもしれない。聖剣の光と俺の闇が混ざり合ってアポロが独自の強さを発揮しているのはこの地点で俺も何となく察していたが、その代償として発生している継続的なダメージが何とも厄介だ。
これに対し俺ができる唯一の対策は、この痛みに慣れてしまうことだけ。それも、この辛く苦しい激闘の中で、俺はもっと強くならなければならない。




