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魔族を蝕む聖剣の光  作者: うさぎボーイ
最終章 「聖剣の魔族」
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「死闘の終幕」

「モルド……今こそ、お前の苦しみに終止符を打つ時だ」


「お前自身が背負ってきたそれも、お前が誰かに与えてきたそれも……この一撃で全てが終わる」


「お前の母がお前に残した『強く生きろ』という願い……それを断ち切ってしまう罪を、俺は今から犯す」


「だが、躊躇いはない……。同じ魔族として、歪みきったお前の魂は俺が葬らなければならないのだから」


 ……そう言葉を紡ぐ俺ではあるが、この瞬間に至るまで実は俺は僅かながらに“モルドと共存する未来”を描いていた。このまま彼を殺しては、彼の母が報われないままだと思ったからだ。だがしかし、それはやはり間違いなのだろう。この聖戦には、必ず白黒をつけなければならない。お互い、譲れない信念のもとでこの戦場に立ったのだ。


 だから俺は、モルドを殺す。例えこの先、いかなる罰や怨念が俺を待ち受けていようとも。彼を生かしておけば、再び世界は無の脅威に晒されることとなる。俺は自身の心にて断じた。彼の母の想いを捨て……今この世界で生きている全ての尊い命に、未来を託すと。


 それが、俺が……いや、俺達が今まで旅をしてきた意味なのだ。その本質を見失ってはならない。俺は全ての迷いを食い破り、この閃影宝剣に……俺の全身全霊を注ぎ込んだ。


 ……そう決めたハズなのに、なぜだろうか。


 モルドを倒すことについては何ら忌避感を覚えていない。にも関わらず……俺の瞳からはその時、“涙”が流れ出ていた。


 俺の感情と表情が、矛盾を起こしている。こんなにも悲壮感に溢れた(つら)を、なぜ俺は浮かべているのだろうか。



 ***



 ……私の名は、《モルデッド・D・ペンドラゴン》。あるいは、《モルド・レアビイルト》。後者は私自身が作った偽名だが、大抵の者はこちらの名で呼ぶ。それは、前者の名を知る知人が殆どいないからなのだが……。


 ……今、私の目の前で私の腹を撃ち貫いている《アイザック・バレア》、及びその仲間達は、私の真名を知っているにも関わらず、私のことを未だに“モルド”と呼んでいた。


 私がまだ彼らの仲間であった頃の名残りなのは分かる。だがいつまで経っても彼らは私のことを“モルデッド”と呼ぼうとしない。


 まさかとは思うが、彼らはまだあの頃の偽りの私の面影に(すが)っているのか? だとしたらとんだ愚か者だ。あんなもの、単なる虚構の産物に過ぎないというのに。


 ……そういえば、かつて私の母も、私のことを“モルデッド”とは呼ばず“モル”と呼んでいた。他愛もないあだ名ではあっただろうが、俺はふとその真意が気になって母に聞いたことがある。なぜ、そう呼ぶのかと。そしたら母はこう答えた。


『……“デッド”の部分が、お母さんは少し苦手なの』


『“死者”って意味じゃない? お母さん……貴方には強く生きてもらいたいから』


『もしかして、“モル”って呼ばれるの……嫌だった?』


 ……嫌な訳がなかった。


 “モルデッド”という名は、私の愚父(ぐふ)が名付けたものだ。“モル”は、とある魔族の英雄の名から。“デッド”は、やはり“死者”を意味している。要するに、()の英雄がそのまま墓からゾンビとして蘇ったかのような人物になれという願いが込められている訳なのだが、母は父のその思惑をよくは思ってなかった。


 母は私に言ってくれた。『モルはモルで良い』と。私には、彼女のその言葉が何よりも嬉しかった。


「……アイ……ザック……」


「何故……君は……“モルド”と……ッ?」


 ……じきに私は、アイザックの閃影宝剣アポカリプス・ノクターンのこの一撃によって葬り去られる。その前に私は彼に聞いてみることにした。なぜ、私を“モルド”と呼ぶのかと。


 その時アイザックはなぜか涙ぐんでいたが、彼は私のこの問いに、震えた声色で次のように答える。


「……“デッド”なんて、なんか嫌じゃないか」


「俺としては、“モルド”の方が呼びやすい」


「……もしかして、嫌だったか?」


 ……なんだ。殆ど私の母と同じ理由じゃないか。彼にとって私は、姫を殺した張本人――いわば宿敵で、さっきまでは凄惨な殺し合いだってしていたのに、今更“呼びやすさ”なんてものを気にするんて。変なやつだ。


 だが。



「……嫌じゃないさ」



 私の気分は、存外悪いものでもない。


 寧ろ……。



「ありがとう」



 ……嬉しかった。


 ……私の方がよっぽど変だ。自分で自分が気持ち悪い。これからアイザックに殺されるところだというのに、なぜ私は彼に礼など言うのだ? “モルド”と呼ばれたことがそんなに嬉しかったか? 血塗れた化物風情が、気色の悪い。


 しかしそんな私の自責の念とは対照的に、アイザックは、私のこの言葉に対してどこか“和らぎ”のある表情を涙ながらに浮かべていた。


「……最後に俺から、一つだけ聞いていいか?」



「俺とお前は……“友”か?」



 ……アイザックは何を言っているのだ? 私と彼は敵同士。それ以上でもそれ以下でもないハズなのに。“友”など、ありえない。あってはならない。


 にも関わらず、私の口もまた、次の瞬間にはありえない返事を返していた。



「……君がそう思うなら、そうだ」


「私もまた君を……“友”だと思いたい」


「そう願っているからな」



 ……私が、彼と“友”になることを望んでいるだと? バカな。しかし、自らのその心は否定できない。だがどうせ、彼からは拒絶されるに決まっている。私は彼の大事なものを奪ってしまったのだから……。



「……なら、“友”だな」



 ……なん、だと。


「モルド……お前はエリス様の仇で、確かに憎らしい存在だ」


 なら、なぜ。


「だが……それと同時に、お前は俺のかけがえのない“戦友”だもあった」


「誰が何と言おうとも、な」


 ……コイツは、本物の馬鹿だ。


 だが、彼にそう認めてもらった時の私の心は……やはり躍っていた。


「……私を殺すのが君で良かった」


「野望こそ達成させることはできなかったが……私の人生は、最後の最後で君に救われた」


「改めて礼を言うよ。アイザック」


「さぁ……」



「……私を、殺してくれ」



 ……それは、私の最期の言葉だった。



「……ああ!」



 アイザックは快諾する。彼と私は友なのに。……いや、友だからこそかな? なんとも不思議なやり取りだった。実に不可解で、しかし愉快でもある。死ぬ前の余興にしては、中々出来が良かった。褒めてやろう。


 これで楽しく、そして悔いなくあの世へ行けるというもの。願わくば母のいる桃源郷へ行きたいところだが……残念ながら私は罪人だ。並外れた罰がひしめく地獄の深淵へと魂は叩き落とされるだろう。だが、それもまた一興だ。


 この世界がダメなら、今度は地獄を無に帰してくれる。なぜなら私は、いつだって……“反逆者”なのだから。


「……うぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉっ!!」


 アイザックの叫び声が轟く。光炎万丈たる聖魔の煌めきに包まれながら、私の不浄の肉体は彼の宝剣の光によって焼き尽くされていった。皮膚が剥がれ、流血が焦げ落ち、魂が煙を起こして燃え尽きる。しかし不思議と、私の喉から悲鳴は湧き上がってこない。それはまるで安楽死のような、心地の良い時間であった。


 ……最後になるが、私はここでようやく認めることができた。自らの敗北と、彼の勝利を。彼の『この世界を守りたい』という想いが、私の滅びの思想を打ち破ったのだ。敵ながら天晴(あっぱれ)だ。彼こそ、この世界の希望であり、奇跡だ。


 この世界において愚民共に迫害されがちな魔の血を引いていながら、私のように歪むことなく、ここまで辿り着いてみせた。彼はまさに、皆が憧れる“英雄”そのもの。この世界には私も幾度となく絶望させられたが、彼という存在だけは肯定できる。


 世界よ……最初にして最後の礼を言う。


 私と彼を、出逢わせてくれて……ありがとう。

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