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魔族を蝕む聖剣の光  作者: うさぎボーイ
最終章 「聖剣の魔族」
132/141

「不死鳥が如く魂」

 ***


「……おかしい」


「何故だっ!? 何故彼の死体から、“英雄の魂”を引き出せない!?」


 ……場所はザザンガルド城、王の間。激闘の果てに荒廃しきってしまったかつての王室は、今となっては血と瓦礫の残骸が積み重なりし暗夜の戦場と化している。


 そこで一際大きな怒号を撒き散らすのは、魔王の血を受け継ぎし反逆者――《モルデッド・D・ペンドラゴン》。


「アイザックほどの人物から“英雄の魂”が摘出されない訳はないっ! 彼はアルハートを遥かに上回る器の持ち主なんだっ!」


「なのに何故だっ!! 何故……っ!?」


 モルデッドは、アイザックの仇であると同時に、アイザックの力を心より認めし者でもある。少なくともアルハートなどという俗物よりもよっぽど英雄の器であると、彼は確信していた。


 だがしかし、アイザックの死体――らしきもの(・・・・・)――からは、モルデッドがいくら呪術を唱えようとも一向に“英雄の魂”が顕れる気配がない。その理由を知りたいがあまりモルデッドは、神にでも問うかの如く叫び、答えを求めた。


 考えられる原因は、三つ。


 一つは、アイザックが英雄の器ではなかった可能性。


 だがそれはあまりにも不自然だ。確かにアイザックは途中我を忘れ、挙げ句の果てに自らがかつて仕えた姫の魂を食らうという暴挙に出たが、それが英雄としての魂を失墜させたのであれば、彼よりも更に無様な死に方を遂げたアルハートから“英雄の魂”が生み出せたのはおかしい。アルハートから出せるのであれば、アイザックからも出せて然るべきなのだ。


 二つ目は、モルデッドが呪文の詠唱を間違えている可能性。


 ……言うまでもないが、これもあり得ない。無駄な推測だ。


 となると消去法で、最後の一つがこの不具合の原因ということになる。それは――



 ――アイザックがまだ生きているという可能性だ。



 モルデッドの呪術は、その抽出する魂の依代が既に生命力を失っていなければ効果を発揮することができない。その性質上、アイザックに首をはねられたアルハートや、依代が無生物の聖剣だったエリスの魂は抜き取ることができるのだが、依代である肉体――この場合ならアイザックがまだ存命している場合、呪術は失敗に終わる。


 となればアイザックはまだ生きているということになる。あれだけの業火をその身に受けてなおも未だに息が続いているというのもモルデッドからしてみれば十分あり得ない事態なのだが……生憎、根拠はあるのだ。


 一時的にエリスの魂が映し出したあの世界に霊体を転移させたアイザックは、そこで彼女が唱えた呪文により、再びこの現世にてこれから息を吹き返す。未来に起こりしその奇跡こそが、彼の存命を裏付ける根拠。エリスの口づけより数秒が経った今、その蘇生劇はついに始まりを告げる……!


「……アイザック……様……?」


 イリアがふと彼の名を呼んだ時、そこにいた彼の焼死体もどきは突如として……橙色の光輝に包まれた。


「アイザック……!」


 イクシスはその光を目の当たりにして、それまで絶望によって閉ざされていた心に希望が芽生えていくのを感じる。


「兄さん……!」


 マルクがその目に映した希望は、やがて焔を纏う。その焔は次の瞬間、アイザックの体にこびりついた(すす)ばんだ黒色を、なんと……薄めていった。


 それは癒やしの聖焔。ただ魔族だからという理由で彼を苛んだ愚かな焔の姿は、そこにはもういない。これから始まるのは、“魔族を蝕む聖剣の光”ではなく……“悪を蝕む勇者の光”の物語。正しき心を見抜き、正しき力によってその力を奮う、滅魔(めつま)の閃光。


 今こそ不死鳥の如く甦れ。汝が進むべき道はそこにある。この血みどろの決戦に終止符を打ち、最後に世界を掴み取るのは……汝だ。


 ――《アイザック・バレア》!


「……待たせたな。モルド」


「お前を……倒しに来たぞ」


 意識をようやく取り戻したアイザックは、聖剣を片手にしながら、イリアの回復呪文も無しに平然とそこに立っている。聖剣の炎は今も彼の体を覆い尽くしているが、その橙色のベールはもう、魔族(アイザック)を蝕みはしない。


 この時、アイザックの髪の毛は純粋な金色ではなくなっていた。毛束のいくつかが橙色に染まっており、金と橙の二色が美しく織り重なり合っている。彼の仲間三人は、彼の身に何が起きたのかを疑問に思うよりも先に、この彼の復活に歓喜を極めた。


 それぞれがアイザックの名を呼ぶなか、しかしただ一人、この想定外の事態に狼狽えを隠せずその声を荒げた者がいた。それは……。


「……アイザックッ!? 何故君が生きているッ!?」


「エリスの魂に焼き尽くされ死したハズではなかったのかッ!? 答えろォッ!」


 ……終焉を求めし魔王――《モルデッド・D・ペンドラゴン》……その人だった。


 彼の怒りの問いが、暗闇の戦場に反響する。その音波は瓦礫の塵を僅かに崩し落とし、耳を劈くかの如くその怒声は周囲の者の喜びをかき消し、その口を黙らせる。


 だが、その時流れた沈黙は短かった。アイザックはモルデッドの凄むような態度にも一切臆することなく、毅然とした面持ちでその問いに応じる。


「……聖剣の――ひいてはエリス様の炎は、俺を生かした」


「俺とお前の想定は外れたが……これがエリス様の判断だ」


「文句はあるまい?」


 ……モルデッドはあの時、自身ではなくあくまでエリスの意思によってアイザックを殺そうとした。だがここにある“今”は、アイザックにとってもモルデッドにとっても予想だにしなかった展開を迎えている。エリスが下した裁きは、アイザックを殺さなかったのだ……。

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