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魔族を蝕む聖剣の光  作者: うさぎボーイ
最終章 「聖剣の魔族」
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「英雄の魂、その光」

 ……その時響いたエリス様の言葉は、まるで先程までの俺の自責を全て否定するかの如くであった。自身の魂を食べられたというのに、何故彼女は今、俺に対し礼を述べたのか? そして、『俺の力になれる』とは一体……?


「今、私と君の精神は同一次元上に存在する」


「この状況を利用して、今から私は君に“呪文”を唱える」


「それは、彼を――モルドを倒す可能性を秘めた呪文だ。私が《バレア》の名に賭けてそれは保証しよう」


 ……“呪文”? 俺にかけるということは、それは肉体強化系の呪文か? エリス様曰く、その呪文はかの魔王を打ち破ることのできる力を有しているらしいが……何故彼女は、それを保証できる?


 エリス様のことを信じられない訳では決して、断じてない。だが、湧き上がる疑問を抑えることもできない。故に俺は彼女に問う。“根拠”を。するとエリス様は次のように答えた。


「……彼は言った。私は勇者の血族の末裔だと」


「私自身が彼の言葉を聞いてそれを自覚した時、一つの呪文が頭の中に浮かび上がった。その呪文からは……“聖剣(アポロ)の力”を感じた」


「恐らくこれが彼の言う、“勇者の力”ってヤツなんだろう。だとしたらこれこそが、魔王を倒せる唯一の手段なんじゃないかな?」


 ……エリス様が感じたことが真実ならば、そうだと言えるだろう。伝説の最後では勇者が魔王を討ち滅ぼしたのだから、その勇者の力を借りれば、魔王一族の末裔たるモルドを倒せるのは理にかなっている。


「どの道、君にはもう時間が無い。積もる話は()だ」


「君に捧げよう。その勇者が残した呪文を」


「そして……私という存在の、全てを!」


 ……次の瞬間、エリス様はそのクリスタルのように透き通った歌声で、古の時に忘れ去られたハズのその呪文を詠唱する。俺は彼女のその声を一言一句、逃すことなく……しかとその耳に聞き入れるのであった。



「――《魔を穿つ英雄の魂よ》」


「《今ここに顕現し その力を示せ》」


「《そして授けよ 恒久なる光焔の輝きを》」


「《絶望を破る 唯一無二たる一条の希望となれ》……」


「……《リヒト・オブ・エインヘリヤル》!」



 ――聖剣(アポロ)の焔が勇者の煌めきと共鳴する時、希望の呪文が爆誕を遂げる。エリス様が作り出した世界はその光によって一面が橙色に包まれ、草むらも、幼き頃の俺達も、そこから姿を消し、やがて……俺とエリス様の二人きりとなった。


 そして、その光は一点――俺のところへと集束していく。しかしその光は、俺の中に流れる魔の血を焼こうとはしなかった。寧ろこの光は、何よりも俺の心を安らがせる。それこそ、《紫紺の魔玉》よりもずっと、暖かな抱擁で……。


「……今から君は目覚め、もとの世界に戻る」


「だけど今度は、私も一緒だ」


「もう私の魂は、聖剣じゃなく、君の中にいるんだからね」


 ……そう語るエリス様の表情は、とてもにこやかであった。先程もエリス様は俺に『自分を食べてくれてありがとう』と仰っていたが……俺が犯したその罪をエリス様は、許してくださるというのか。


 なんと慈悲深きことか……やはり俺は、世界で一番幸せな魔族だ。エリス様と出逢って、優しさと強さを学び、共に背中を預け合って戦地に赴き、幾多もの死線を掻い潜ってきた俺の生涯は、誰に対しても胸を張って誇れる。


 エリス様が笑ってくださるのなら、俺はもう……。



 ……何も恐れるものはない!



「……アイザック」


「大好きだよ」



 ……その時、彼女は俺の頬に、唇を……つけた。


 一瞬俺は、エリス様に何をされたのか分からなかった。彼女が顔を近づけてからの記憶が、とてもぼんやりとしている。ついさっきのことなのに。だが、瞬間的に俺の鼻をくすぐった彼女の爽やかな香りは、俺にその感動を徐々に思い出させる。


 そう。それは……“キス”だった。


 とても久しぶりだった。このお方から口づけを頂くことは。幼少期に一度、戯れで貰ったことがあったが……しかしたった今俺の頬に触れたそれは、あの時とは違う感情が込められているように思える。尤も、その感情の正体は分からない訳なのだが。


 その世界で最後に見たエリス様のお姿は……俺に屈託なき笑顔を、頬を紅く染めながら向けておられた。

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