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魔族を蝕む聖剣の光  作者: うさぎボーイ
最終章 「聖剣の魔族」
130/141

「王女の世界」

***


……目が醒めた時、そこは草むらの緑色で染まっている、だだっ広い原っぱだった。雲一つない青空のもとで、俺は先の戦いで受けた傷を一切残していない――不自然なまでに(・・・・・・・)健常な体を起き上がらせる。


自分はついさっきまで、ザザンガルド城にいたハズなのだが……ここは一体、どこなのだろうか。だがなぜだろう。どこか見覚えのようなものがあるのも感じる。遠い昔、俺は誰か(・・)とここで過ごしたことがある……?


「……おーい! アイザック!」


「ひめさまっ! あまりとおくへいかれては、きけんですっ!」


……子供の声がする。それも、俺にとってとても親しみがあり、懐かしくもある声だ。あの声は――幼少期のエリス様と、俺のモノだ。


声がした方向に目線をくれてみる。するとそこにはやはり、幼き頃の我々がいた。ここで俺は、誤った(・・・)理解をする。自分は“走馬灯”を見ているのだと。だが、その間違った認識は次の瞬間、“あのお方”の言葉によって覆されることとなる。その人物は……。



「……ここは夢の世界でもなければ、過去の世界でもない」


「君の体は今でも、ザザンガルド城にあるのさ」


「尤も、その意識は今……私の魂の中にあるんだけどね」



……橙色のショートヘアをなびかせる、白銀の鎧を着込んでいながら色褪せることのない美貌を放っている麗人。その名は――《エリス・バレア》。俺がかつてその生涯に賭けて忠誠を誓い、仕えた……バレア王国唯一の王女。


この人が今、俺の目の前にいるということは……それこそ、ここは死後の世界というヤツなのでは? しかし彼女が言うには、俺の肉体は今もあのザザンガルド城は王の間にあって、精神はエリス様の魂の中にあるらしい。


つまり、俺はまだ生きている……そういう認識で良いのか?


「エリス様……どうしてここに?」


「あと、何故俺がザザンガルド城にいることを?」


エリス様にこうして再び出逢えた感動も、モルドを倒せないままこんな所に来てしまった自らの無力さを責めるあまり、噛みしめることができない。俺は取り敢えず、この二つの疑問を彼女にぶつけてみることにした。


するとエリス様は、どこかくたびれたようなため息をついた後、俺のその問いにこう答える。


「彼――モルドが言ったように、あの聖剣に私の魂の結晶が宿っていたことは君も知っているだろう?」


「その結晶を君が食べたことで、君の精神は“私の世界”に訪れた。そこに私がいることは不思議なことじゃない。寧ろ必然なのさ」


「そして二つ目の質問についてだが、魂となって聖剣にずっと宿っていた私は、実は君達一行の旅をずっと側で見させられてきたんだ。これまで君達どんな旅路を辿ってきたのかは、私も把握している」


……なるほど。言われてもみれば、俺の質問はどちらも当然のことを尋ねていたのか。先程エリス様があの苦笑いを浮かべた理由が分かった。俺はその愚問のあと、しかし未だに実感が湧かないでいる。エリス様がこれまでずっと、俺のそばについていてくれてたなんて。


こんなにも喜ばしく、かつ幸せなことは無いハズなのに……どうしてだろう。何故か俺は今、笑うことができない。やはり……あの場所でモルドを倒すことができなかった無念が、俺の心を苛んでいるならなのだろうか。


そんな痛惜の思いに駆られ、ふと俺は、虚ろな瞳を眼下の雑草に向けてみる。すると、その雑草にすら劣等感を抱き始める自らの虚弱な心を俺は悟った。雑草は、他者からいかに邪魔者扱いされようとも、例えその命を無慈悲に引き抜かれそうになっても、強い生命力で、最後の最後まで粘り強く生き続けようとする。


それに比べて俺は、モルドの仕掛けた罠に嵌められ、エリス様の魂を食べた報いを受け、奴の思惑通り戦闘不能にまで追いやられ……今、何をやっている?


度し難い。己の弱さが、そして愚かさが、この上なく。あの時、モルドの企みを看破できていれば、モルドはエリス様の魂を聖剣に戻さざるを得なかっただろうに。あの魂は、モルドにとっても毒であるのだから。それを、一時の激昂に身を任せ自ら墓穴を掘り、あげくエリス様の魂をこの穢れた肉体に取り込んでしまった魔族(おれ)の罪は、この世界に蔓延るいかなるそれよりも遥かに凌駕して重いだろう。


モルドだって、方向性は極めて邪悪で決して許されることではないが、母の為に“無の世界”を作るべく、いつだって彼なりに英断を下してきたつもりなのだろう。彼でさえ、その所業に悔いは無いハズだ。なのに俺は今、凄烈なる後悔によって自らの運命を呪っている。


俺は奴と違って、中途半端な男だ。突き抜けることができなかった。最後の最後で、俺は……エリス様への忠誠心を、歪めてしまった。


俺は……俺は……ッ!!



「……ありがとう」


「君が私を食べてくれたお陰で、私は本当の意味で……」



「……君の力になれる」

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