「抗いの叫び」
俺は、ゆっくりと手を伸ばす。眼前の剣――アポロに向かって。いわばこれが、奴を倒す切り札。エリス様が残してくれた最後の希望。例えその希望が、俺を拒み、俺を焼かんとしても。果たさなければならない使命がある限り。
「ッ!」
俺は決して、諦めない。ついに触れる。魔族にとって禁忌とされる、封魔の聖剣に。
「――」
掴んだ。瞬間――。
「ぐわぁぁぁぁぁーーーーーーーーーッ!!」
「あぁぁぁ……ああぁーーーッ!!」
――熱かった。奴の言った通り、俺がこの剣を装備しようとした途端に凄絶な爆炎が噴きあがった。これが、アポロに秘められし聖なる炎。魔を滅する聖火の色は、エリス様の髪と同じ≪橙≫だった。そしてその炎は俺の右腕を容易く覆い尽す勢いで拡大していき、凄まじい熱気で俺を苦しめる。
「クハハハハハ!なんと愚かなことよ」
「あれほど忠告してやったというのに、我の言葉を無視して聖剣に手を伸ばすとはなぁ……」
聖剣に牙を突き立てられた俺を罵るが如く、ファランクスは口を大きく開けて嘲笑った。だが、そんな奴の笑いも気に留めていられないほど、今の俺の精神と肉体は極限にまで追い詰められている。
「ぐ……ッ!」
何とか制御しようと試みるも、炎はただその規模を広げていくだけで俺には全く応えてくれない。橙に燃える炎は、まさに俺を拒絶していた。
「ぐ……はぁ……ッ!」
……だが。この吹き荒れる業火の中、俺の右腕はなおも聖剣から手を離さない。激しく震えこそしているものの、確固たる意志が俺の手と聖剣を繋ぎとめているのが分かる。
「……ふぅぅッ」
やがて苦痛の叫びは、耐え抜く声に。徐々に俺の体が順応を始める。
「はぁぁぁぁぁぁッ!」
この剣を決して離してはならない。俺は自分にそう言い聞かせた。烈火に燃やされる自らの腕を顧みることなく、ひたすらアポロを装備することだけに注力する。
王宮の床を強く踏みしめ。歯を極限にまで食いしばり。目をこれでもかと見開いて。そして、募らせる。彼女への想いを。
「貴女が愛したこの剣――」
「――俺がこの身に代えても、永遠に語り継がせてみせる」
「聖剣アポロよぉぉぉーーーッ!」
アポロに呼びかけた。俺に力を貸したまえと。なぜなら俺は、この剣の持ち主であるエリス様と主従の契りを交わしたただ一人の剣士だから。例え俺がこの剣の嫌う魔族であっても、そこだけは変わらないはずだから。
この剣はきっと、応えてくれる。少なくともこれが、かつてのエリス様の≪魂≫と言える存在だったのであれば。
「――!」
――その時だった。痛みはまだ消えない。寧ろそれは依然として増え続ける一方。しかし、にも関わらず俺の脚は……既に駆け出していたのだった。
「ファランクスーーーッ!」
宿敵の名を叫びながら。




