「裁き」
「聖剣の――ひいては勇者の魂は、魔の血に甚大なる毒を染み込ませ、その業火を以て焼き尽くす」
「その事実を君と出逢ったことで既に知っているこの私が、今更それを欲しがると本気で思っていたのか?」
「だとしたら本当に傑作だよ。アイザック。君は本当に真面目で、純粋で、そして愚かだ」
その焔は、モルドの狂気に満ちたネタばらしが進むにつれて、大きく……広がっていく。その膨張は、今の俺の弱り切った意思では止めることはおろか、僅かな時間抑制するさえできない。
まるで手がつけられない、聖焔の成長。止まることなき火の手は、俺の肉体も、神経も、感情も……何もかも、包み込んでいった。
「聖剣の力の源とも言えるその魂を、魔族である我々が食らって無事でいられる訳が無いだろう?」
魔王は、暗夜の城にて嘲笑を反響させる。俺をその狡猾な罠に嵌めたことで愉悦感が胸底から湧き上がっているのか、彼は余すことなく、躊躇うことなく、まるで湯水のように笑いの咆哮を辺りに撒き散らす。
やはり奴は――モルドは、食えない。憎い。度し難い。ここまで他者を自分の思い通りに動かせる者など、彼を置いて他にいないだろう。彼のその追随を許さない駆け引き――いや、一方的な扇動によって、俺はまんまと乗せられたのだ。
「これは私にとっても“駆け”だった。君がもしこれにそれ程興味を示さなかった場合、もしくは君がこれを食べることを拒絶した場合……私のこの策略は虚しく砕け散っていた」
「だが安心したよ……君の、エリスに対する忠誠が本物で、かつ常軌を逸したモノで」
「普通なら、いくら力が得られるといっても、かつて愛した者の魂そのものを食べるなんて考えつかない……君が異常なヤツだったからこそ、私は今、こうして笑っていられるんだ」
……違う。そんな邪な考えで俺はエリス様を食らった訳ではない。お前に食われるのが嫌だったから……あれ? でもだからと言って、なら自分が食ってしまおうというのは、やはり……。
……俺の考えは、狂っていた……?
そう、俺の頭が自らを結論づけたその時。
ついに、勇者の聖焔がその牙をむく。
「君が今から受けるのは、私ではなく……エリスが与える“報い”さ」
「その薄気味悪い忠誠心を……破邪の緋焔によって焼き尽くされてしまえ!」
そうか。これは――“罰”なのか。
「……ぐぉぉぉぁぁぁぁぁぁあああああッ!!?」
この痛みも、この傷も、この血も……全て、あの方が俺に下した裁きなのか。その哀れな魔族があげた慟哭は大気を割り、断罪の滅魔火炎は、魔族の体を悉く覆い、そして焼き尽くす。
硝煙が辺りを包み込む時、その醜悪なる精神は、聖光の導きによって浄化されていく。いくら仲間が俺の名を叫ぼうとも、動き出した運命は止まらない。
まるで、神が俺を怒鳴り散らしているかのような――そんな“究極の苦しみ”がそこにはあった。宣告によって身を焦がされた罪人は、贖いの猶予すら与えられず、やがてその末路を迎える。
「ァァァァ……ァァァ……!!」
「ァ……ァァ……」
「……ァ……」
……沈黙を喫した魔族。叫びは枯れ果て、涙は乾ききって、血は、炭となって崩れ去った。その無言で立ち尽くす姿はまさに“焼死”を物語っている。
この時の自分は、あまりにも惨めな最期を晒していた。無論、意識などとうになく、仲間達が俺に向けた絶望の眼差しは、死体となった――かのような――魔族の姿を映して、次第に涙を溢れかえさせる。
だが、この男――モルドだけは、最後に笑った勝者らしく、これ以上ない高笑いを存分に轟かせた。
……尤も。
その将軍の生涯には、まだ……続きがある訳なのだが。
ここから先は、俺がその時訪れた――いわゆる“死の淵”から始まる。




