「対極の剣」
――復活を果たした俺を前にしても、モルドは物怖じする様子一つ見せなかった。彼は戦慄大剣の防御力に不動の自信を持っており、俺達がその守りを掻い潜ることなど決してあり得ないとまで断言してみせる。
そして瞬時に俺との距離を詰めたモルド。彼が払った《エンド・オブ・エクスカリバー》は、俺の胴体を両断すべく、その赤黒の魔刃で俺を威圧しながら襲いかかる。
「……俺とて、ただ体力が回復した程度で完全に戦線復帰が出来るとは思っていない」
「お前がマルク君達と戦っている間に、色々と“準備”を……」
……迫る戦慄の巨剣。
「……させてもらった!」
俺はこれを、瞬時に屈むことで……避けた。
「何ぃ……!?」
そう。俺は何の手土産も無しにここまでノコノコとやってきた訳ではない。予め、手は打っておいた。
イリアには重ね重ね感謝しなければならないだろう。何故なら彼女は、俺の身体に、傷の治療と同時に……“強化”まで施してくれたのだから。
「ふっ」
そして、しゃがんだ俺の真上で大剣は虚空を斬る。この時俺は、その言葉の通り“潜り抜けて”みせたのだった。今なら、奴の懐に斬閃を浴びせることができる。
炯眼を以て、モルドの胸部を射抜く。定めたその狙いは絶対に外さない。聖剣の切っ先に、神聖なる勇者の焔を迸らせて、
「はぁっ!!」
斬り裂く!
「……ぐぉぉっ!?」
流石のモルドも、得物を全開に振りきった直後の隙だけは埋めることが出来なかったようだ。この俺の斬撃は、見事に彼の胸板に一文字の裂傷を刻み込むことに成功する。
そしてその傷から溢れ出る彼の魔の血に、引火した聖焔が荒ぶる。熱く燃え滾る橙色の業火は、彼に少なくないダメージを負わせたハズた。事実彼は今、素で悲鳴をあげている。アレが演技だと言うのは流石に無理があろう。
……と、思ったのも束の間、その悲鳴は何故か途中でその音量を急激に落とした。まだ聖焔は燃えているのに。もしや効いていないのでは……とも一瞬思ったが、彼の顔面がこれ以上なく歪みきっているのが確認できた。アレは、今も痛み苦しみのさなかにあることを裏付ける何よりの証拠。
では、悲鳴をあげないのは単なる痩せ我慢か? と、俺がそんな不可解な思いに駆られていると、その時……。
「……なるほど」
……もっと不可解な言葉が、彼の口から飛び出してきた。
『なるほど』とは、一体どういうことなのだろうか。彼は、何に合点がいったのか。何の脈絡も無さ過ぎて、俺は困惑のあまり、戦闘の途中なのに次の攻撃を仕掛けることに対して逡巡を覚えてしまった。
彼はこの期に及んで、まだ何か企んでいるとでも? つくづく底の知れない奴だ。せっかく優勢に持ち込めたと思っても、それによって喜びを感じることはない。彼との戦いは、常に緊張感によって満たされている。
「ククク……クハハハハァッ!」
「全く君というヤツは……! どこまで私を楽しませてくれれば気が済むんだ!?」
するとモルデッドは、何故か突然笑い出して、俺に向かってそんなことを言う。『楽しませる』……? 俺が、モルドを?
ますます訳が分からない……。一体彼は、先程から何を言っているんだ?
「……その顔、どうやら君には自覚が無いらしいな」
「まぁ良い……それならば好都合というものさ」
自覚……だと? もしや、俺の身体に何か異変が起こっているのか? 俺は確認の為、仲間達それぞれに一通り目を配ってみる。だが、俺の姿を見て何か違和感を感じているような素振りは全く無い。皆はいたって平常であった。
もしここに鏡でもあれば手っ取り早いのであろうが、そんなモノは当然ここには無い。それに、モルドの言う通り、俺自身にはそういった異変が起きている自覚が全く無い。
ならばモルドは一体……何のことを言っているのだろうか。
「……アイザック」
「君を食らうのは、後だ」
「まずは……“それ”をいただくとしようっ!」
……刹那。
「なっ……!?」
大剣を担いだモルドが、再び俺の視界を覆い尽くした。
「寄こせェッ!」
「くっ!?」
俺と彼がゼロ距離で向かい合ったその直後、互いの得物がその斬閃を衝突させ、辺りに火花を散らす。この瞬間、聖剣は《エンド・オブ・エクスカリバー》の刃――全ての付与効果を掻き消す物質に完全に触れていたが、砕魔の焔は変わらず燃え滾っている。
「ふむ……この《エンド・オブ・エクスカリバー》を以てしても、その焔だけはやはり消せないか」
「やはり……?」
「《エンド・オブ・エクスカリバー》は、その魔力の大部分が闇の力によって支配されている」
「その力が“無効化”の能力を作り出す訳なのだが……闇の力に拒絶反応を起こすその聖剣を相手取った場合、これの“無効化”の力も発揮されない」
「喜べアイザック。君にもまだ、勝機はあるぞ」
……それをコイツに言われたらおしまいなんだがな。
そんなことを思いながら、俺はモルドと言葉を剣を交わす。取り敢えず、体さえ大剣に触れられなければ、イリアがかけてくれた補助魔法は打ち消されない。この追い風があるからこそ、今のように奴と互角の競り合いができている。ゆめゆめ、油断だけはしてはならない。




