「詩」
――イクシスとマルクがこれまで積み上げてきた、努力の結晶とも言えるその技の数々を懸命に繰り出しても、その大剣の前では全てが虚ろなる塵となる。
砕かれた希望。欠片となって飛び散るは夢。それらを二人が再び繋ごうとしても、失望という名の泉に浸る半身が二人の足から勇気を奪う。
しかし、そんな絶体絶命のイクシスとマルクを救うべく、不死鳥の如く再臨した魔族がいた。それはアイザック、その人である。
「アイザック、イリア!」
「兄さんっ!」
この二人の戦線復帰に、イクシスとマルクは一時は笑顔を取り戻し、喜んだものの……。
……この男の笑い声が轟いた時、その歓喜は再びドン底に沈む。
「フハハハハッ! 良いねえアイザック!」
「中々に盛り上がる演出じゃないかっ! 真打ち登場のシーンは、どんな時でも燃えるモノだねぇ!」
その魔王の熱狂ぶりは、まるで一つの劇が迎えたラストシーンに沸き上がる観客達の歓声のよう。この戦いは、彼にとってはまだ遊び感覚なのだろうか。
しかしアイザックは、そのモルデッドの意気揚々とした態度に異を唱える。
「精々、そのまま寝首を掻かれないように気をつけろ」
「例えお前の力が、俺達の想像を遥かに超えていようとも……」
「……最後に笑うのは、俺達だっ!」
復活して早々、《エンド・オブ・エクスカリバー》を目の当たりにしたにも関わらず、アイザックは全く臆する様子を見せてはいない。
単に命知らずなだけか。それとも……彼なりに、“勇者”になろうとしているのか。しかしその身に宿った勇気の炎は……確かにかの英雄のそれと言えよう。
後は、実力がモルデッドに追いつけるかどうかが問われる……!
***
俺が目を覚ました時には、既にモルドがあの大剣――《エンド・オブ・エクスカリバー》だったか。アレを持ってマルク君とイクシスに襲いかかっていた。
モルドがあの大剣を手にした経緯は分からない。恐らくその頃は俺はまだ気絶していた。イリアの治療魔法のお陰で再び意識を取り戻せたのは幸いだったが、現在の戦況が読み取りにくく、正直なところ、やや困惑気味である。
だがそれでも、俺のやるべきことは変わりはしない。この聖剣で奴を討つ……その宿願の為に、俺は精神の深淵から舞い戻ってきたのだ。
「気をつけろ、アイザック」
「あの大剣は、触れたモノに付与されている効果を全て消してしまう」
「お前の聖剣の聖炎も、もしかしたら例外では無いかもしれない」
俺にそう伝えるイクシスの表情は、ひどく動揺に満ちていた。目も、口元も、飲み込まれた唾が通る喉も……彼女の全てが震えている。
彼女の話を聞く限りでは、確かにそれは恐ろしい能力と言える。恐らく今、イクシスは、限りなく薄れてしまった勝機を惜しむあまり、焦燥感と絶望感の両方に駆られ、そしてそれらを同時に抱えている状態なのだろう。
こんな時、俺が彼女にかけてあげられる言葉は……。
「……想いは、消えない」
「そして、想いが続く限り、勝機もまた潰えない」
「皆で探っていこう……方法を」
……これくらいのモノだろう。
「……アイザック……」
「……たまにお前は、詩人のような台詞を言うことがあるよな」
……そう言われると、なんか恥ずかしくなってきた。
「私はお前のそういうところ……嫌いじゃないぞ」
だが……こうして彼女がまた微笑みを見せてくれたならば、この恥じらいもあながち無駄では無かったと言えるだろう。
それに……そんな風に言ってもらえたのは、俺としても嬉しい。戦いの最中だと言うのに、こんな気持ちが湧き上がってくるのは何となく不自然だ。
しかし、この気持ちのお陰だろうか。今の圧倒的不利な状況にも関わらず、不思議と戦意の衰えを感じることはなかった。
「……それは置いといて、だ」
「聖剣の炎があの大剣に通じないかどうかは、やってみなければ分からない」
「それに、仮に結果が否であったとしても、大剣の守りを潜り抜ければ、攻撃は当てることができる」
戦況そのものも、十割がた敗色によって塗り潰されているわけでもないハズだ。聖剣が放つ炎はモルドの肉体に対しては間違いなく有効だし、攻撃さえ命中させれば勝機は必ずある。
だが、俺のその発言に対して、《エンド・オブ・エクスカリバー》を肩に担ぐモルドは……。
「潜り抜けることなんて、できないよ」
「何故なら君は既に……私の剣の届く範囲にいるのだからね」
その言葉と同時に、俺の目の前に……やってきた。
「死ね……アイザックッ!」
そして次の瞬間には、《エンド・オブ・エクスカリバー》で、目の前を俺ごと斬り払おうとする。
最初の一瞬だけ、俺は驚愕した。だが、イクシスと他愛もない会話をしている間、『そろそろ来る』とも思っていたから、何もできない程に動揺することも無かった。
それに何より……“対策”もしてある。




