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魔族を蝕む聖剣の光  作者: うさぎボーイ
最終章 「聖剣の魔族」
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「劣等感」

 ――マルクの放った鎖鎌の一撃は、確かにモルデッドの胸部を引き裂いてみせた。だが、その直後に少年を待ち受けていたのは、勝利への兆しではなく、逆襲の脅威。


 自らが流した血を凝固させ、弾丸へと変えるモルデッドの呪文――《リベンジ・ブラッド》。術者の血を即座に武器へと変えてしまうこの恐ろしい能力に、マルクはどう立ち向かうのか。


「君が私に流させたこの血も、君にとっては脅威となる」


「自ら掘った墓穴により、死ぬがいい……マルクッ!」


 モルデッドはそう言い放つと、瞬間、その弾丸を念力により勢い良く弾き飛ばした。一瞬にして加速を遂げたその球体は、一秒もしない内にマルクの眼前に迫る。


「な……ッ!」


 マルクはその攻撃にまともに反応することすら叶わず、その場から一歩も動くことができない。モルデッドが放った一撃は、まさに不可避のように思われた。だが……次の瞬間。


 このモルデッドの呪文は……マルクを貫かぬまま、突如として乱入した衝撃――“斧”によって、粉々に砕け散る。


「……驚いた。今のに追いついてみせるか」


「イクシス……ッ!」


 あの強かなモルデッドですら、その早業には素で驚かざるを得なかった。マルクのピンチに音よりも速く駆けつけ、彼を守ってみせた人物は……サンメラ王国きっての強者――イクシス・ラギシーク。


 イクシスはモルデッドとマルクの間に割って入り、マルクを庇うような構えでモルデッドの前に立ちはだかっている。一方でマルクは、彼女の後ろで少し立ち尽くしていた。


「あ……ありがとよ。助かったぜ」


「全く、いつになったらお前は私への口の聞き方を改めるんだ?」


「うっせ」


 普段はマルクのことをあまり良くは思っていないイクシスだが、いざという時にはこうして助けるという情が深い一面を見せる。対するマルクも、素直になり切れてはいないものの、彼女への細やかな感謝の意くらいは示すのであった。


「何だ君達。意外と仲が良いんだな」


「冗談。こんなクソガキと通じ合うことなど、きっと来世でもあり得ないよ」


「何だとこのクソアマ!?」


 モルデッドが二人の仲を茶化してみると、イクシスはそれを不敵な笑みで軽く一蹴した。一方でマルクは、イクシスのクソガキ呼ばわりに思わず憤激して、彼女に罵声を浴びせる。


「申し訳ないが、喧嘩なら天国の方で頼むよ」


 するとモルデッドは、この若干腑抜けつつあった空気に、再び戦慄を振りかざす。右腕を前方に突き出し、呪文の詠唱を開始。深紅の魔法陣が出現する。


「《我が血脈を養分として 咲き誇れ》」


「《ブラッディ・ローズスピアーズ》ッ!」


 瞬間、モルデッドの周囲に赤色の茨が突如として生え始める。するとそれらは次々と薔薇のような見た目の花を咲かせていき、一瞬にしてその花びらを宙に舞わせた。


 そしてその花びらの一つ一つが、徐々に凶悪な魔力のオーラを纏っていく。やがて次の瞬間には、その花びら達は紅き狂飆に吹かれながらイクシス達に向かっていった。


 対するイクシスとマルクは、互いの武器を構え、これを迎え撃つ。


「私は天国行きだろうが、そこのクソガキは地獄行きだろうなッ!」


「俺の地獄行きは敢えて否定はしねぇが、テメェの方こそ地獄に落ちやがれクソアマッ!」


「死してなお貴様と一緒など、反吐が出るわッ!」


 互いに悪辣な毒を吐きながら、しかし彼らは息の合ったコンビネーションで、斧と鎖鎌の巧みな連携攻撃を披露。襲い来る花びらを大方斬り捨ててみせた。


 ……だが。


「……グハッ!?」


 ……マルクはイクシスと違って、全ての花びらに対応できたわけではなく、幾らかが鎖鎌の攻撃を掻い潜って彼の腕や足を斬りつけていた。切り傷から血が漏れ、彼の服が疎らに紅く染みる。


 マルクは悲鳴をあげながら、次第に自分の実力について自信を失い始める。その失意の裏側には……“呪文を使えない自分”という、一つの劣等感があった。


 兄さんも、イリアさんも、あのクソ女も、三人共呪文を使いこなしているというのに、自分だけ、使えるのはこの鎖鎌だけ……。心底情けない限りだと、マルクは自分自身をそう貶した。


 呪文とは、基本的にはその者の頭脳から引き出される力。つまり、賢くなければ呪文を唱える為の言の葉を紡ぐことができない。


 マルクは戦闘のセンスこそ抜群であるが、生まれてこの方勉強などしたことが無いので、残念ながらお世辞にも頭が良いとは言えない訳である。


 だからマルクは、呪文を唱えることができない。


 故にマルクは嘆いた。自らの愚かさを。


「……クソがァ……ッ!」


「俺にも……俺にも、呪文さえ使えりゃぁ……!」


「兄さんを……守れるってのに……ッ!」


 故にマルクは欲した……呪文の力を。


 そしてイクシスは、そんなマルクの渇望を彼の横で目の当たりにして、その様子をじっと見つめる。アイザックを……ひいては、他者を守る為の力を欲しがるそのマルクの姿を見て、イクシスはこの時、ほんの少しだけ……彼の“成長”を感じ取り、認めもした。


 故にイクシスは、マルクに……一握り程の希望を示してみることにした。これを掴み取れるかどうかは彼次第だが、イクシスは、『このクソガキならモノに出来るハズ』だと信じている。


 これは、マルクが“呪文”を使えるようになるか否かという……イクシスの賭けだ!

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