「破砕」
――血煙が立ち込めしこの戦場で暴れ狂っていた茨共を、悉く消し炭にしてみせた俺達。
しかしモルドはその光景を、まるで己が期待をこよなく寄せている料理を待ち望む美食家のような、そんな空腹感に溢れた眼差しで見下ろしていたのであった。
俺達はそんな彼の思惑を両断すべく、今も奮闘の真っ只中。戦場の至るところで、呪文の詠唱が絶え間なく鳴り響く。
「――《光と氷の精霊達よ》」
「《今ここに二属性の結晶を顕現させ 融合し 敵を爆滅させる力へと変える》……!」
「《ダイヤモンド・スターダスト》ッ!」
イリアが唱えた光氷魔法が、燦めきを帯びてかの魔王に襲いかかる。魔法陣から出現せし瞬きの氷柱、その射程圏内でモルドはしかし、不敵に笑ってみせた。
「その程度の攻撃、私の“戦慄槌”――《ヘルブラッドレッド》の前では無力よッ!」
モルドはその戦槌を振りかざすと、一閃。豪快に薙ぎ払い、自らに迫っていた氷柱を全てを粉々に破砕してしまった……!
自分が放った渾身の呪文がこうもあっさりと、虚しく砕け散ってしまった場面を目の当たりにし、イリアは歎声をあげながらその場で立ち尽くす。
……俺の記憶が正しければ、あの戦槌の名は《ヘルレッド》だったハズ。モルドは自らが扱う武器の名すらも偽っていたというのか。どれだけの嘘で固めれば、彼は気が済むのだろう。
「……調子に乗んじゃねぇッ!」
ここで、マルク君の怒号が突如として飛び散る。彼はその身軽な体を存分に活かして跳躍し、果敢にもモルドとの間合いを空中で詰め、鎖鎌を勢い良く飛ばした。
投げられた鎖はモルドの右腕を素早く捉え、そして命中。彼の右腕をぐるぐる巻きで捕縛し、戦槌の動きを封じた。
「へっ……どうだッ!?」
「うむ。子供にしては中々良い線を行っていると思うよ? マルク・リオン」
「だが……肝心の武器が弱すぎる」
……次の瞬間だった。モルドはその右腕の筋肉をあり得ない速度で膨張させ、鎖に圧迫をかけていく。巨大化した彼の腕にマルク君の表情はぎょっとなり、必死に鎖を押さえた。だが、そんな彼の踏ん張りは虚しく……弾け飛ぶこととなる。
「……ハァッ!」
……鎖がついに、モルドの手によって破壊されてしまった……!
「な……あぁ……ッ!?」
バラバラになった鉄の破片と共に地に落ちていくマルク君。やがて彼が地に降り立った時、彼の手に握られていたのは単なる鎖の一欠片であった。
虚ろな瞳で、壊された己の武器をじっと見下ろす。グラファ戦でも、彼の鎖鎌は一度壊されたことがあるが……二度目ともなると、流石に精神的に来るものがあるだろう。
マルク君が卓越した実力の鎖鎌使いであることは疑いようのない事実なのだが、モルドの言う通り、悔しいが武器が脆弱だったことだけはマルク君自身が認めざるを得ないだろう。
とにかくこうなってはマルク君は無力だ……イリアの修復魔法であの鎖鎌を復活させない限り、マルク君は戦闘を行えない。俺達がカバーしていかなくては……!
「モルド……お前の相手は俺だッ!」
「慌てるな、アイザック。急かさなくとも君とはきちんと遊んでやるさ」
お前に遊ばれるのはもう……ゴメンだぁっ!
「……《聖剣の炎よ》」
「《我が不浄の魂に抗い――」
「――共鳴し、不朽の輝きとなりて魔を滅せよ》!!」
俺は聖剣の切っ先を天に向け、緋色に燃えし魔法陣を出現させる。闇にて滾る激情を聖剣に注ぎ込むことにより、聖剣はその闇に反逆し、限り無き閃光のエナジーを帯びていく。
極大聖炎魔法を……ここに顕現させる!モルドを……焼き尽くせ……ッ!
「……ぐぅぅぁぁぁ……ッ!!」
……熱い。
ここに来て、聖剣による痛みが今までの比では無いくらい高まっている。モルドがその正体を現した時からずっと、聖剣はまるで……モルドの闇に反応するかのように、聖炎を昂ぶらせていた。
しかし俺は……この痛みに負ける訳には……いかないッ!




