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魔族を蝕む聖剣の光  作者: うさぎボーイ
最終章 「聖剣の魔族」
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「止まれない想い」

 ――母の為、無の世界を作ると言って聞かないモルド。英雄の魂を食らって力を手に入れた彼が次に求めるのは、俺の中に眠る英雄の魂。


 そんな彼の血塗られし野望に反抗すべく、今一度結束した俺達の意志を前にして、しかしモルドはそれを意に介する様子を見せない。


「君達はこんな醜くて薄汚い、まるで嘔吐物の掃き溜めのような世界の何に縋っているッ!?」


 ――その問いには、この世界への憎しみが籠められ。


「人々は弱者を好き放題虐げ、それに飽きれば弱者を簡単に道端に捨てッ!」


 ――その言葉には、人々への怒りが宿され。


「魔物共に至っては、蹂躙や支配しか脳に無い単細胞のクズばかりだッ!」


 ――その侮辱には、魔物への非難が詰められ。


「私にとっては、人間も魔物も等しく死滅すべき下等生物なのだよッ!」


「だから私は今一度この世界をリセットし、新たに美しい未来を育むと決めた……ッ!」



「その為の力を得るのだッ! そう……アイザック。君の言葉を借りれば、“救う為にある力”をなァッ!」



 ――その引用には、俺への皮肉が注ぎ込まれた。



 俺は、モルドの絶望の片鱗を見せつけられ、思わず……たじろいでしまう。モルドが人間と魔物の両種族に抱いている異常なまでの憎悪の念……これは、彼が先程から言葉の節々に言っている“母”と何らかの関係があるのだろうか。


 もしかしたらモルドの母は、かつて人間や魔物に酷い目に遭わされたのかもしれない。それをきっかけにして、モルドの心に憎しみの芽が吹いた。そして彼はいつしか、“無の世界を作る”という野望を持つようになった……。


 ……今のところは憶測でしか無いが、大方そんなところだろう。だが……俺はモルドにどんな事情があろうとも、先程の彼の言葉に対し言いたいことが山程ある。


 俺はそれを、声を大にして彼にぶつけた。


「……お前の方こそ、偽りとはいえ俺達と共に旅をしてきて、その考えは少しも変わらなかったのか?」


 俺がそう言った時、モルドの右眉が微かに動く。


「少なくとも俺は、お前と過ごしたこの数日間……本当に楽しかった」


「腕が立ち、頭は切れる。お前は“仲間”として本当に頼りになる男だった」


「そして同時に人格者でもあり、俺はそんなお前を尊敬していた」


「そんな、俺のお前との思い出の中でも、お前だけはずっと……人間達を憎みながら俺と同じ時を過ごしてきたのか?」



「俺は……お前を変えられなかったのか?」



 ……この時の俺の言葉は、本当に自分よがりだった。自覚している。俺自身が俺のことを“何かを変えられる人間”だと思いこんでいたことの何よりの証拠だ。恥ずべき発言だ。愚の骨頂であることは疑いようがない。


 だがそれでも俺は、この言葉を最後まで紡ぎ切った。それが、俺がモルドに贈る最後の……“仲間としての”言葉だから。


 俺の問いに、モルドは数秒だけ俯く。恐らく、出すべき答えを迷っているのだろう。俺達の“敵”としての答えか、それとも、俺達の“仲間”としての答えか……。


 ……どちらだって構わない。俺は……彼の本心を聞きたい。


 やがてモルドは顔を上げ、俺と真正面から向き合った。そして彼はゆっくりと口を開けて、次のように言った。


「……私には、変わる“資格”が無い」


「『無の世界を作る』と誓ったあの瞬間から、私は数え切れない程の罪を重ねてきた」


「人も大勢殺した。……今の私は、幾千にも上る数の屍で作られし死屍累々の山の上で成り立っている」


「だからこそ、私は私の目指す理想の世界を作る為に戦い続けなければならない」



「私はもう……止まれないッ!」



 ……モルドは、今まで自らが手にかけてきた犠牲者の血で塗り固められし過去に縛られ、既に動けなくなってしまっているのだ。今の彼が進める道は、最早一つしか無い。


 全てを虚無に帰して、何もかもを……塗り替える。そうすることでしか、彼は過去の彼自身に報いることができない。


 だから彼は、変われなかった。


 ……ならば俺も、モルドのように不変を貫こう。


 俺の道もまた、エリス様をファランクスに殺されたあの日からずっと変わっていない。魔物共の出処を必ず掴み、そして魔王を討つというその誓いは、例えその魔王の正体がかつての仲間――モルドであったとしても、決して揺らぎはしない。


 俺もモルドと同じように、“止まれない”のだ。何時だって俺を突き動かしてきたのは、今も俺の心の中で熱く燃え滾っている、エリス様への“想い”である。


 モルドにはモルドの成すべき“使命”があり、俺には俺の遂げるべき“天命”がある。どちらが本当に正しいのかなんて、何者も断言は出来ないだろう。


 事実として、今のこの世界は醜く、そして残酷である。モルドの言う通り、人間は自分勝手で、時として他者を虐げる残虐な生き物なのかもしれない。もしかしたら、それこそ“滅び”こそがこの世界にとって最善の選択なのかもしれない。


 俺もかつて、魔の血を引いているというだけで幼少期は人々から排撃されてきた。幼少期の俺の瞳に映った人々の姿は、まるで悪魔の群れのようだった。今でもその時のことは鮮明に覚えている。だから俺は、モルドがこの世界に抱いた絶望についても少しは理解ができる。


 だが、そんな地獄のような日々の中で、突如として手を差し伸べてくれたのがエリス様だった。あの時エリス様が声をかけてくれたから、俺の世界は変わることができた。俺にとってエリス様は、今も俺の世界で輝き続ける希望の光なのである。


 もし、そんな光が今宵も誰かが誰かのもとへ運んでいるのだとすれば、この世界も存外悪いモノでもないと言える。そして俺は、かつてエリス様がそうだったように、誰かに希望をあげることのできる人でありたい。


 だから俺は、この世界の絶望と同時に希望すら閉ざそうとするモルドの野望を阻止すべく立ち上がるのだ。俺が闘う理由は、俺の生涯にあり。


 そして、そんな俺の旅路にこれまで付き合ってくれた仲間達が、共にその野望に立ち向かってくれる。これ程心強いことはない。


 故に俺は、胸を張ってモルドにこう言った。


「……俺も、既に止まれない」


「『魔王を討つ』と誓ったあの日から、俺はその為にこれまで仲間達と旅を続けてきた」


「だから俺は、全ての元凶であるお前を倒し、これ以上魔物が蔓延ることのない平和な世界を……手に入れるッ!」


 この言葉こそが、俺が……いや、“俺達”がここまで歩んできて導き出した答えだ。是非は問わない。今、俺達がひたすらに求めているのは……“元凶の断絶”、ただそれだけだ。


 俺達は……モルドを討つ!


「……ならば、そろそろ始めるとしよう」


「この世界の命運を賭けた、最後の戦いをな……ッ!」


 この瞬間より競われるのは……互いが穿くべき信念の強さだ……!

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