「魔王の最期」
――アイザックの《魔のレクイエム》に《ウーラノスの矛》を破壊され、窮地に立たされたアルハートは、今度はイクシスの《星の魔砲》によって《ティーターンの盾》を発動せざるを得ない状況においやられる。
更にそこへモルドの呪文――《ブラッディ・ブレイド》も追撃として放たれ、《ティーターンの盾》には現在、イクシスとモルドの二人による集中攻撃が行われている。
そしてその呪文の嵐に、更なる加勢がもう一つ加わろうとしていた。詠唱の声が、西方より紡がれる。その声の主は……。
「――《光と氷の精霊達よ》」
「《今ここに二属性の結晶を顕現させ 融合し 敵を爆滅させる力へと変える》……!」
……光と氷の呪文を操りし神官の少女――イリアだった。聖杖――《フリーズ・クリスタル》を、精霊の住む天の方角へ掲げ、その聖なる詩を以て精霊より光と氷の結晶を賜る。
そして彼女は、その二つの結晶を合体させた。融かして、合わせ、練る。三段階の工程を経て誕生したのは、光氷の“カオス・エネルギー”。
燦々とした閃光の輝きを持ちながら、透き通るように幻想的な結氷の煌めきも併せ持つ究極の神秘。
その名も……。
「――《ダイヤモンド・スターダスト》ッ!」
……今、その光輝を放つ弾丸は天啓の如く、魔王に襲いかかる……!
――《ブラッディ・ブレイド》、《ダイヤモンド・スターダスト》。同時に撃たれたその二つの技が持ち合わせる雰囲気は対照的であり、まるでこの世の光と影。温もりのある世界と残酷なる世界が、アルハートという一つの点で交差するかのようだ。
そして、その強力無比の二大呪文はついに、《ティーターンの盾》に……直撃する!
「む……無駄、だァァァァッ!!」
完全無欠の壁に守られ相変わらず無傷のアルハートだが、しかしその精神はとうに限界点に到達しようとしている。先程までは体内で潤っていたハズの彼の“魔力の泉”はとっくに枯れ果て、今彼を突き動かしているのは数滴の僅かな絞り汁のみ。《ティーターンの盾》は、既に薄れ始めていた。
点滅する壁にアルハートは焦りの色を隠せず、やがて疲労のあまり床に膝をつく。しかしそれでも彼は諦めない。最後の最後まで粘り続けた。全身に力を込め尽くし、ついにはイリアとモルドが放った融合呪文にも耐え抜いてしまった。
……だが、ここでついにアルハートは……。
「……ハァ……ハァ……」
……《ティーターンの盾》を、使い切ってしまった。彼の魔力は今度こそ……枯渇するまでに至った。彼は跪いた体勢のまま虚ろな目で床だけを見下ろし、衰え切った息をただ無様に吐き続けている。
今の彼は最早、虫の息だ。殺すのに何の苦労も伴わないだろう……。
「……これで、終わりか」
アイザックは自らの勝利を確信し、《魔のレクイエム》と化していた剣を元の《紫紺の魔玉》へと戻す。それを懐にしまい、ややあってアルハートのもとへと詰め寄った。
ふとアイザックは、自らの足元を見下ろしてみる。するとそこには、息が絶え絶えになっている死にかけの老人がいた。これが先程までは神の矛や盾の力を入れる傲慢な態度で行使していた暴君だとは到底思えない程、今のアルハートは哀れな姿でもうじき訪れるであろう“死”を待っている。
今となっては見る影も無いが、これが因縁の魔王の最期だと思うと、アイザックにとっては呆気ない終わり方であった。確かにファランクスやグラファよりも強大な力は持っていたが、彼らを束ねるには些か力量が足りないようにも思える。
それこそ、ファランクスとグラファが結託すればアルハート一人を倒すことは可能だったのではないかと思ってしまう程に。
……だが、何にしても勝ちは勝ちだ。後はアルハートの首を刎ね飛ばせば全てが終結する。アイザックは、今は亡き王女――エリスの形見である聖剣を引き抜き、その刃をアルハートの首に接触させる。
この時は、腕を焼き払われる感覚よりも刃がアルハートの首に触れる感覚の方がより大きくアイザックに伝わった。燃え盛る灼焔に身を包まれ、陽炎越しにアルハートの顔を見つめる。
仇の顔を、文字通りその瞳に焼き付けた。今こそ、この者を葬り……姫にその骸を捧げる時。アイザックは瞬間、これまでの旅路で魔王に抱いてきた殺意の全てを……。
「――うぉぉぉぉぉぉぉぉぉぁぁぁぁぁぁぁぁッ!!」
……一刀に宿した……!!




