「有言実行」
……奴がそう宣言した、次の瞬間だった。
「――!?」
剣に……グランに、ヒビが入った。刹那、魔力を即座に失ったのか岩の雨が次々と消えていく。
「その剣は聖剣よりも遥かに脆い」
「故に、我の魔力を以てすればこのように睨みつけるだけで破壊することが可能なのだ」
――バカな。そんなの、反則だ。
遠隔魔法で、それを睨みつけるだけで破壊するなど。剣が無くなっては何もできないじゃないか。
そんな、剣が……グランが。俺の魂の武器が、音を立てて崩れていく。
あ……ああ!
「や……やめろ!」
俺は懇願に似た感情で、ファランクスに剣を破壊している魔法の停止を求める。だが、奴は己の欲求を満たすことのみに夢中になっていて、全く耳を傾けない。
「フハハハ!これは貴様の為なのだよ小僧!」
「愛する者も失い、自らを守ってくれる剣も失ってしまった今の貴様はまさに孤立無援!」
「まだその辺にはちらほら雑兵がいるようだが……直に我が軍の兵力の餌食となろう」
「そうなった時!貴様は初めて目覚めるのだッ!」
「魔族の……≪有言実行≫の魔力にッ!」
……馬鹿げている。こいつの好奇心は底なしか。俺に一体、何があるというんだ。とうとう剣まで崩れ去ってしまったのだぞ。
俺が今握っているのは、単なる柄だ。何の意味も成さない、何一つできやしない、装飾だけが無駄に豪華なぼうっきれだ。俺のグランは、既に虚無の彼方へと逝ってしまった。今の俺には、本当に何もない。
『剣を取れ……アイザック』
申し訳ありません、エリス様。俺はもう、取ることのできる剣すらないのです。格が違いすぎる。
俺はこのまま、結局何もできないまま終わるのか。あまりの恐怖と戦慄に、一歩後ろに退いてしまう。分かっている。後退は許されない。だが、体が勝手に後退をしようとしている。一歩、また一歩と、俺は無意識の内に奴から逃げおおせようとしていた。
「く……」
それでもまだ、上っ面だけは騎士のつもりなのか、顔は未だ奴の方をしっかりと向いている。しかし、足は何ともまあ正直だった。逃げたがっているのだ、足は。
次の一歩だ。次の一歩で、恐らく俺はついに敵に背を向けて逃亡を試みることだろう。なんと情けないことか。ああ、いよいよ踏み出してしまう。
「ぐぅぅ……ッ!」
苦渋の一歩。そしてすぐさま旋回し、駆け出そうとした……その時だった。何かがつま先にぶつかった。
「――!」
俺は咄嗟に足元を見やる。すると、そこにあったのは……聖剣、≪アポロ≫だった。




