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魔族を蝕む聖剣の光  作者: うさぎボーイ
第六章 「赤髪の将軍と魔王との邂逅」
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「魔のレクイエム」

 ***


 ――アルハート王が出現させた無敵の防壁《ティーターンの盾》の効果は凄まじく、モルドの強力無比なる戦槌の一撃すら弾いてしまった。


 だが、あの壁が消えた直後ならアルハート王は無防備になる。俺はその瞬間を正確に見極める為、息を潜め好機を窺っていた。


 それにしてもあのモルドが振るった戦槌――《ヘルレッド》が弾かれるとは。どうやら《ティーターンの盾》とやらは本当に完全無欠の防護障壁らしい。もしかしたら、守りに関して言えばアルハート王は“世界一”と呼んでも過言では無いのかも知れないな。


 その守る力を自国の国民に使ってやろうとは何故思えなかったのだろうか、彼は。あの力があれば全てを守れる筈なのに、どうして。


 何故あの力を持っているのが……あの人なんだ。


「……今だッ!」


 ……モルドのその合図は、この世の不条理に対し無駄な問いかけをしていた俺の意識をも思いっきり劈く。反応がコンマ数秒遅れてしまったが、俺はすぐさまアルハート王に目線を移し、彼のまわりからバリアが消えているのを確認した。


 今なら奴を、殺れ――!?


「――いつまでも貴様らの攻勢が続くと思うなよ?」


「今度はこちらの番だ……ッ!」


 ……俺はこの好機に魔剣を構え突進しようとしたのに、そこで一旦足が止まってしまった。イリアとマルク君も同じだった。


 アルハート王の放ったあの言葉の瞬間、潜在的な“逃走”本能が働いた。“闘争”ではなく、逃げる方の。情けない話だが、この時俺の体は確かに硬直して動かなかった。自らの意思ではどうにもできない、生物の性のようなものによって、俺は自らの動作に制限をかけられている。


 そんな愚かで且つ逃げ腰の精神に抗うことも出来ないまま、アルハート王はついに反撃の一手を仕掛けてきたのだった。


「……《ウーラノスの矛よ――」


「――神のそれにも勝る我が高潔な左腕に、万物を貫く力を寄越せ》ッ!」


 ……自らを神より上の存在だと宣い、挙げ句著しく礼を欠いた呼びかけでその身に力を授かろうとするアルハート王の姿はまさに傲慢そのもの。


 しかし《ウーラノスの矛》とやらはそんな不遜な態度の彼に何ら躊躇いもなくその力を分け与えてしまう。何故、悪の権化である奴に限ってあんな強力な力が集まるのだ? 抗う者の身にもなって欲しいモノだと、俺は思わず神の方に文句を言いたくなってしまう。


 あの細身の美しき剣を持つのが彼の右腕。そして今、彼の左腕にもう一つの武具が装着される。それは白銀の輝きに満ちた一筋の光の結晶だった。見た目は矛らしい形状になっているが、明らかに材質は魔力由来のもの。アレは恐らくオーブのような性質を持っているのだろうが、オーブと比べるとアレはより“魔力の結晶”という言葉の意味に近いように思える。


「どうした……お楽しみはこれからだぞ? 反逆者諸君」


 アルハート王の余裕綽々な態度を前に、しかし俺は挑発に乗る度胸も見せられなかった。まさか彼が二刀流の使い手であったとは思いもしなかった。武器を二つ同時に使って戦う戦士は、その技が成熟している場合、一つしか武器を使わない戦士よりも圧倒的に有利に立ち回れる。


 まあ、それは当然のことだろう。武器の絶対数が多い方がより強いということは素人でも分かる。尤も二刀流は習得するのが困難で、類稀なる才能と血の滲むような努力の両方が必要になってくるのでその使い手は極めて少ない。


 かつて俺達の前に敵として立ちはだかったフォード将軍……いや、今はフォード王か。彼もまた二本の槍を巧みに使う強敵だった。だがアルハート王はそんな彼をも遥かに超えた実力を見せつけてくるに違いない。


 俺達は改めて身構えた。ここから先はあの孤王の領域。始まるのは一方的な蹂躙か、それとも悠久の悪夢か。どちらにしてもここを耐え抜かねば希望の光は閉ざされたままだ。


 どこまでも戦い続けてやる。仮にこの死闘が俺の最後の戦いになっても。例え最後の一人が俺になったとしても。勝たねばならない。人々の為、未来の為……。


 ……そして。



 この宿命に……終止符を打つ為ッ!



「うおおおぉぉぉぉぁぁぁぁあああッ!」


「来るか、小僧ッ!」


 紫紺の魔剣は俺の“覚悟の叫び”に呼応し、禍々しい闇のオーラを刀身に纏わりつかせていく。瞬間、俺は疾風怒濤の猛進で瞬く間にアルハート王との距離を喰らい尽くしてみせた。そして新たに黒を帯び始めた紫の剣閃を暗黒の霧と共にアルハート王にお見舞いする。


 俺の中から溢れ出るドス黒く歪んだ激情を乗せた魂の一撃。しかしそれは直撃はせず、アルハート王が《ウーラノスの矛》で防いでしまう。……だが、俺の剣はこの時確かに、その矛に……“揺らぎ”をもたらした。


「何ィッ!?」


 アルハート王はそのことが想定外だったらしく、ここで初めて動揺したような仕草を見せた。本来ならば俺の剣など容易く弾く気でいたのだろう。だが、その思惑が外れたのであれば……これ程嬉しいことは無いッ!


「はぁぁぁぁぁああああッ!」


 叫ぶ度に、吠える度に、戦意が留まることを知らないまま高揚し続ける。それも驚異的な速度で。自分でも驚きだ。彼と剣を交える毎に技が研ぎ澄まされていく。これは、戦いの中で俺が成長をしている……ということなのだろうか。


 気付けばこの瞬間は俺と彼の一騎打ちとなっていた。しかし二刀流の彼は流石に手数が多く、俺の魔剣による攻撃を悉く打ち返してしまう。だが一つ一つ攻撃を重ねていく内に、次第に彼の防御が間に合わなくなってきた。


 俺はここで呪文を唱え始める。魔剣を振るいながらの詠唱だ。激しい攻撃と同時に行う詠唱は魔力と神経を著しく摩耗する。重要なのは、如何に相手に一部の隙も見せずに詠唱を長く続け、そして成功させるか……。


 これは己の限界との戦いでもある。無論、悪戦苦闘は免れることができない。俺にとってこの剣戟は、次の戦局に繋がる重要な瞬間だ。絶対にここは勝ち取って見せる。



 後に続く皆の為に、俺が……希望を切り拓くんだッ!



「――《荒ぶれ。 昂ぶれ。 己が精神の深淵から無尽蔵の闇を呼び起こせ》」


「《この妖しく美しい魔の協奏曲に死の調べを乗せて》……ッ!」


 ……その、脳の奥底から自然と湧き出てくる詠唱の言葉に、俺の中に流れる魔の血が無意識の内に騒ぎ出してしまう。我ながら不吉な詩だとは思いつつも、これを不覚にも気に入ってしまっている自分がいるのだ。


 感じる。自身の中に眠っている潜在的な何かが微かに声をあげて起き上がろうとしているとしているのが。この激しくも危ない感情……これは、“憤怒”か?


 いや、違う。これは……そう。



 ――“破壊衝動”だ。



「――《全てを紫紺に染め上げろ 魔のレクイエム》ッ!!」


 俺は左腕に魔法陣を出現させ、それを魔剣にあてがう。すると魔剣は紫紺と暗黒の二つの波動に包まれていき……。


 ……やがて、凄まじい混沌のエネルギーによって満たされし超魔力の刃へと……進化を遂げたッ!


「……力が……みなぎる……ッ!」


 紫紺漆黒が入り混じった新たなる魔剣が、俺の右腕に突如として顕現する……!


 ……そして、対するアルハート王はこの魔剣の突然の進化に、明確なる“狼狽え”を見せていた。


「バカな……我が《ウーラノスの矛》と同等、いや……それ以上かッ!?」


 なんとあの傲慢なアルハート王でさえ、俺が発現させたこの武器の力を思わず認めそうになってしまっている。それ程までに、彼にとってこの剣は脅威中の脅威として映ったらしい。


 そして俺自身、この得物からはかつて感じたことの無い“感動”のようなものを受け取っている。まさかこれ程の力を持った武器がこの世に存在しようとは……。新たに創造されたこの武器はまさに“至高”と呼ぶに相応しき逸品。


 この《魔のレクイエム》で、俺は……奴を斬るッ!

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