「野望に潜む影」
「て、敵襲だーッ!」
「くそ、まさかこのタイミングで正門からも来るなんて!」
城門の先の架け橋で待ち構えていた兵士達の数は明らかに少なかった。どうやら両翼の部隊が城内を掻き回してくれているおかげで、正門周りを警備していた兵士達の何名かが彼らの討伐に充てられたらしい。
「おら!眠っとけッ!」
「がはっ……!」
マルク君の鎖鎌の攻撃は、刃の逆側で兵士の頭に衝突した。兜で守られているとはいえかなりの衝撃を受けたその兵士は一瞬にして気絶してしまう。マルク君も順調に不殺の極意を身に着けていってくれているようで俺は安心した。
「貴様ら全員、星雲の藻屑と化すが良い!」
一方でイクシスは、その掛け声と共に豪快に星の魔斧を振るって辺りの兵士達を悉く蹴散らしていく。その時の兵士達の飛距離といったら凄まじかった。中には橋から落とされお掘りに勢いよく着水する者もいた程である。こんなにも人間が軽い存在に思えたのは初めてかもしれない。
俺は現地点では体力の温存をしたい為、聖剣ではなく紫紺の魔槍を使って襲い来る兵士達を迎え撃った。イリアも聖杖を構え光と氷の呪文で確実に敵の数を減らしていく。
やがて架け橋内の兵士達を掃討しきった。ここでイクシスが先程城門を吹き飛ばした呪文をもう一度唱える。狙いは城内へと続くもう一つにして最後の城門だった。黄色の魔法陣が城門の前に展開されると、刹那、壮烈な大爆発が鉄塊を木っ端微塵に爆砕する。
立ち込めた黒煙が晴れるのを待たず、俺達は城内に一直線に駆け抜ける。煙を抜けた先には未だ状況を理解できていない兵士や貴族達が怯えている姿が数多く確認できた。無論、元から戦意の無い相手には牙を向く必要などない。俺達は無視して先へ先へと進んでいく。
青を基調とした精巧な模様が描かれた絨毯を土足で駆け抜け、正面の階段をあがる。踊り場で切り返し、上へ。上へ。
「うぉぉぉぉッ!!」
阻む者が居れば、斬る。
「ぐはぁっ!?」
俺は魔槍を魔剣に瞬時に変形させ、眼前の兵士に斬撃をお見舞いした。彼は気絶し、床に横たわる。
ザザンガルド王国の兵士達の実力はまずまずといったところだ。サンメラ王国の兵士達に毛が生えた程度か。どの道、これまで数々の激戦を制してきた今の俺達の敵ではない。
並ぶ敵を無双の如くひたすら倒していく。何の苦労も無いまま順調に駆け上がって第三階層に到達した。月明かりが差し込む大窓を背に、俺達は戦火の中を駆け巡る……。
※
――反逆者が城を襲撃したという報がアルハート王に届いた時には、既にアイザック達は三階に突入していた。
破竹の勢いで城に攻め上がる一行にモルドは「計画通り」と思いつつ、王国側の人間を演じる為にその表情を弛ませることなく迫真の演技で曇らせる。
現在モルドはアルハートの緊急の招集に応じ、王室に居合わせている。この場に居るのはモルドとアルハートと、そしてモルドと同じく招集を受けたラスローだ。
「アルハート様!今すぐこの私に反逆者の抹殺を命じて下さいッ!」
「このラスロー・ゲネビア。必ずや反逆者共の首をアルハート様に捧げると誓いましょう!」
神妙な面持ちを浮かべつつも冷静な将軍を演じるモルドとは正反対に、ラスローは若干荒くなり気味な声でアルハートに自分をアイザック達の抹殺に向かわせるよう申し立てた。彼は、アルハートの忠実な側近としてアルハートの役に立ちたい一心だった。
一方で革のソファに腰をかけるアルハートは依然として平静さを保っていた。世界征服という野望がアイザック達によって脅かされているというのに、その表情には微塵の動揺すら見られない。
彼は片手でワイングラスを揺らし、足を組んで、極めて余裕といった態度を続けている。モルドはそんなアルハートの姿を見て思わず唾を吐き捨てたくなったが、堪えた。
「良かろう」
「行け、ラスロー。 我の役に立ってみせろ」
「ハッ!」
ついにアルハートはラスローにアイザック達の抹殺を命じた。するとラスローは一礼の後すぐさま踵を返し戦場へと向かう。モルドはラスローのその一心不乱なその走りにこっそり嘲笑を浮かべる。
「モルド。 お前も行け」
「ラスローと協力して反逆者共の首を斬り落として来い」
「了解……」
そしてモルドはアルハートの出した勅令にも関わらず淡白な言葉で返し、それだけ残して王室を後にした。ラスローとは真逆でかなりドライな感じだが、これでも普段は言われたことを全て完璧にやり遂げているのでアルハートからはその態度を単に寡黙なだけだと認識されており、また、それを許容されている。
アルハートからすればモルドは、例えその態度が少々無礼だとしても間違いなく使える駒なのだ。駒としての順位ならば忠実なラスローをも上回ってしまう程に。
アルハートの頭の中では、モルドは既に計画の中核までも担っている。そのモルドこそが反逆因子の一つであるにも関わらずだ。この地点でアルハートの世界征服の野望は致命的な欠陥を抱えている訳だが、実はモルドはそのことを既に把握している。
全ては彼の掌の上という訳だ。彼の企み通りに事は進んでいき、そして現にアルハートの野望は音を立てて崩れようとしている。これはモルドが長い年月をかけてアルハートを籠絡してきたからこそ実現した最大の好機だ。彼がここまでするのは、やはりザザンガルドの民を一刻も早く苦しみから開放させる為か、それとも……。




